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自白1

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 ギルバートはシャーロットとエリーゼを二月宮に送り、二人の身柄をアリスと護衛に任せた。

 その後、改めて監獄に向かう。

 少し前までゴットフリートたちが入れられていた尋問室に、スローンは立派な服のまま意気消沈として座っている。その格好が身ぎれいなだけに、周囲の殺風景さに相まってアンバランスだ。

「さて……、知っていることを話してもらおうか」

 スローンの目の前に座ったギルバートは、手ずから紅茶を注いだ。

「……また私に自白剤を飲ませるつもりなんですか?」

 自分自身が育てていた植物に裏切られたスローンは、お茶を見ると怯えた様子を見せた。

「私も同じ物を飲むから安心しろ。この茶には何も入っていない。卿が私を信用できないというのなら、飲まなくてもいい」

 どこか据えた匂いがする場所だというのに、ギルバートは優雅に紅茶を飲んでみせた。

「よくこんな場所で茶が飲めますな……」

 疲れ切ったスローンが辛うじて嫌味を言うが、ギルバートには通用しない。

「戦争中は、前線で怪我人がいたり消毒薬の匂いが立ちこめるなか食事をしていた。死体の十や二十を目の前にして、その後に肉を食べられるようでなければ軍人など務まらない」

「…………」

 目の前に死体が積み重なっている場を想像したのか、スローンは喉の奥で「ぐぅ」と低く呻いた。

「そんな私は噂通りの冷酷な死神だから、卿が素直に取り調べに応じてくれなければ、荒っぽい手段をとるかもしれない」

「う……噂は……。勝手に尾鰭背鰭がついたもので……」

 ギルバートに関する悪い噂が流れた発端は、スローンその人だ。

「噂などどうでもいい。私は陛下やその周囲の評価さえ正当に頂ければ、他の人間にどう思われようが関係ない。それよりも、手っ取り早く卿の悪巧みを吐いてもらおうか」

 悠然としたギルバートを目の前にすると、もうこれ以上自分が何をしても事態は上向かない気がする。

 抗って逃げようとしても、どこまでも『地獄の番犬』が追いかけてくるのだろう。

 はぁ……と溜息をつき、スローンはやけくそ気味に紅茶を呷った。

 それからポツリポツリと話し出した。

「……前元帥グローヴ殿は、私とカールソン卿の繋がりや、隣国のダフネル殿との金脈を見抜いた。私たちの一派が和平に反対しているから、一向に戦争は終わらないのだと強請り立ててきた」

「――だから母もろとも消したのか」という言葉を、ギルバートは堪える。

「あのままでは私たちの立場が危うくなる。だから……、カールソン卿とダフネル殿に言われ、私はグローヴ殿に黙ってもらおうとした。ブラッドワースの馬丁頭たちが仕事終わりに酒を飲みに出た時を狙った」

 ご丁寧に馬丁たちから狙った周到さに、ギルバートは隻眼を細める。

「私の部下である女間者を動かし、酒場で酒に体調を崩す薬を入れた。あの者たちが一つの壷から酒を分けて飲んでいたことは、あらかじめ調べて知っていた。体調を崩す者、持ちこたえる者がいて人手不足になった時、私の部下を紛れさせた。馬たちの餌に紛れさせたのは、パッシフローラだ。幻覚作用が出た馬たちは……グローヴ殿と奥方を乗せたまま谷に落ちた」

 取調室に、シン……と重たい沈黙が落ちる。

 同席している部下たちも、微動だにしなかった。

 彼らにとっても、前元帥グローヴは良い上官だった。それが志半ばにして事故死したと聞き、嘆き悲しんでいた者たちは事の真相を知りたがっていたのだ。

 部下たちの静かな怒りが、音もなくスローンを包んでいる。

 それを感じたのか、スローンはあれほど疑っていた紅茶をさらに飲んだ。ティーカップを持つ手は震え、ティーカップとソーサーがカチカチと小さな音を立てている。

「次は十月堂事件について、吐いてもらおう」

 ギルバートは冷静に話を促し、スローンは舌で唇を濡らし話しだす。

「ベネディクト・フォン・バッハシュタインを脅したのは、実質的にはダフネル殿になる。ダフネル殿は『エリーゼ嬢がカールソン卿の愛人になる』という話をあの騎士に教え、そうさせたくなければ調印式で騒ぎを起こしてぶち壊しにするよう要求された」

「カールソン卿に、アルデンホフ伯爵令嬢を紹介したのも卿だな?」

「……そうだ。私はありとあらゆる情報を通じて、エルフィンストーンだけでなく周辺国の美しい令嬢や夫人たちの話を得ている。ある家が美しい娘を妻として欲しいと私に相談をすれば、それを叶えてやることができる。……代わりに私は礼を受け取っていた。カールソン卿はとにかく見目のいい令嬢を求めていた。最近は『従順な娘は飽きたので、多少気の強い娘もいい』という要求だった」

「ベネディクト・フォン・バッハシュタインが要求通りに十月堂事件を起こした後、アルデンホフ伯爵令嬢はどうなる予定だった?」

 ギルバートの問いに、スローンは視線を外し低く答える。

「……予定通りにカールソン卿の元へ行くはず、だった」

 また空気がシン……とし、書記官がペンを走らせる音だけが響く。

「地下牢に使いを向かわせたな?」

「……エリーゼ嬢が言う『黒衣の男』は、私の家の『なんでも屋』だ。奴は特徴のない顔をしているから、顔を晒していても人に覚えられない。中肉中背の体で声も印象に残らない。そいつにカンタレラを持たせ、バッハシュタインを始末した」

「それだけじゃないな? 牢の見張りをしていた私の部下も、『うっかり』としか言いようのない消え方をした」

 ギルバートの言葉に、尋問室全体が怒気を孕む。

 当たり前にその空気に怯えるが、開き直ったスローンはもう何も隠すつもりはないらしい
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