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悪夢
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「ん……、……ぅ、……あ」
夢の中、シャーロットは無数の手になで回されてうめいていた。
決して「気持ちいい」とか感じている訳ではない。その手が気持ち悪くて振り払いたいのに、亡者の手のようなそれはシャーロットを闇の中に引きずり込もうとする。
――あぁっ!
とうとう悲鳴を上げてシャーロットは闇の中に引きずり落とされ、仰向けになった彼女の目に映るのは鋭利な刃物――。
ツンと切っ先が胸元に触れ、そこからスゥッと動いた刃がシャーロットの肌を音もなく切り裂いてゆく――。
それに「堪えられない」と思ったシャーロットは、父からもらった指輪の宝石を開き、毒を舐めた――。
全身が冷たくなり、意識が空を飛んで視界が変わる。
鳥のように空を飛んだシャーロットは、無数の墓石が並ぶ場所にギルバートを見つけた。
彼はとても悲痛な顔をしていて、その顔面は蒼白だった。
やがて彼はシャーロットと刻まれた墓石の前で何か呟き、腰から短剣を抜く。
そして振りかざした凶刃を、迷いなく己の喉に突き立てた――!
「きゃあああぁあぁっ!」
堪らず悲鳴を上げ、シャーロットは飛び起きた。
冷や汗をかき、心臓はドクドクとうるさく鳴り回っている。体は震え、意識は混乱し、自分がいまどこで何をしているのかも分からない。
――と、そんなシャーロットを力強く抱く腕があった。
「大丈夫か」
温かくしっかりとした胸板に抱きしめられ、そこから低い声が反響して伝わる。
「……あ……」
ボロッと涙が零れ、シャーロットは夫にすがりついた。
「……すまない。本当に怖い思いをさせたな。大丈夫、大丈夫だから……」
ギルバートの手は何度も妻の背を撫で、シャーロットは静かに嗚咽する。
「……大丈夫です。少し悪い夢をみただけですから……」
「明日、疲れているかもしれないが、私の側にいなさい。側にいると分かっていたら、少しは安心できるだろう」
「でも……お仕事の邪魔をしてしまいます」
「君が安心するほうが大切だ」
そう言って額にキスを落とすギルバートの優しさに、シャーロットはまた涙を流した。
「ギルさま……優しい。……すき」
「私はずっと側にいる。安心しなさい」
「……毒を、舐めなくてよかった……」
ポツリと漏らされた言葉に、ギルバートは胸がズタズタにされるような痛みを感じた。
妻が恐ろしい目に遭わされただけでなく、そんな覚悟までさせてしまっていた――。
これは、夫としてあるまじき事件だ。
一国の元帥とあろうものが、妻ひとり守れない――。
その屈辱を押し殺し、ギルバートは努めて優しい声を出した。
「寝なさい。こうやってちゃんと抱きしめているから」
「……はい」
ギルバートの声も、匂いも、大きな手も、温かな体温も。すべてシャーロットを落ち着かせ癒やしてくれる。
また悪夢をみないかという不安はあったが、シャーロットは目を閉じて感覚のすべてにギルバートを感じるのだった。
そうすれば、きっと甘くていい夢を見られる。――そう信じて。
**
夢の中、シャーロットは無数の手になで回されてうめいていた。
決して「気持ちいい」とか感じている訳ではない。その手が気持ち悪くて振り払いたいのに、亡者の手のようなそれはシャーロットを闇の中に引きずり込もうとする。
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ツンと切っ先が胸元に触れ、そこからスゥッと動いた刃がシャーロットの肌を音もなく切り裂いてゆく――。
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――と、そんなシャーロットを力強く抱く腕があった。
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ギルバートの手は何度も妻の背を撫で、シャーロットは静かに嗚咽する。
「……大丈夫です。少し悪い夢をみただけですから……」
「明日、疲れているかもしれないが、私の側にいなさい。側にいると分かっていたら、少しは安心できるだろう」
「でも……お仕事の邪魔をしてしまいます」
「君が安心するほうが大切だ」
そう言って額にキスを落とすギルバートの優しさに、シャーロットはまた涙を流した。
「ギルさま……優しい。……すき」
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「……毒を、舐めなくてよかった……」
ポツリと漏らされた言葉に、ギルバートは胸がズタズタにされるような痛みを感じた。
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これは、夫としてあるまじき事件だ。
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「……はい」
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また悪夢をみないかという不安はあったが、シャーロットは目を閉じて感覚のすべてにギルバートを感じるのだった。
そうすれば、きっと甘くていい夢を見られる。――そう信じて。
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しおりを挟んでくださっている皆様へ。
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