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意気投合~二人だけの酒盛り

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「まぁ……! ギルさま……ギルバートさまのことを、そう思ってくださるのですね」

 貴族の中にもギルバートを良く思う者がいるのだと思うと、シャーロットはすっかり嬉しくなってしまった。

 同意を求めるようにブレアとセドリックの方を向くと、彼らも微笑み返してくれる。

「ええ、もちろんですとも。ですから、ぜひとも奥方さまから英雄ギルバートさまのお話をお聞きしたいのです。談話室を一つ押さえておきましたから、そこで女同士お酒やお茶でも飲みながらお話しませんか?」

「もちろんです!」

 ギュッとエリーゼの手を握って微笑むと、シャーロットはチラッと王族たちが集まっているサロンの方を見る。

 護衛たちが立つ向こうに贅沢な作りの内装や水煙草の煙は見えたが、さすがに人の姿までは確認できない。

「ブレアさん、わたしはエリーゼさまとお話をしてきます。もしギルさまにお尋ねされたら、わたしがいる談話室をお教えください。心配するといけませんから」

「かしこまりました。伝令のために私はこの場に残りますが、セドリックは談話室の外に待機させます。宜しいですね?」

「ええ」

「ではブラッドワース公爵夫人、こちらへ」

 エリーゼがシャーロットを先導して歩き出し、シャーロットは人なつこく笑う。

「シャーロットと呼んでくださいな、エリーゼさま」

「ふふ。分かりましたわ、シャーロットさま」

 二人のあとを軍服を着たセドリックが続き、三人はダンスホールを出た。廊下は打って変わってシンとしていて、絨毯は足音を吸うはずなのにやけに響く。

「テラスから庭園と月を臨める談話室をとったんです。二人で月を眺めながら、両国の英雄についてお話しましょう」

「ええ!」

 シャーロットはすっかり有頂天になっていた。

 婚前に付き合いのあった令嬢たちも、シャーロットの夫がギルバートと知ると敬遠してしまう気持ちも否めない。蜜月だから遠慮をしているというのもあったのかもしれないが、結婚してからこの方、シャーロットに友人から手紙は届いていない。

 それを寂しく思う気持ちはもちろんある。

 けれど折角すてきな夫と結婚したのだから、贅沢は言ってはいけないと思っていたのだ。

 アルトドルファー王国の貴族ともなれば、他国なので詳しい内情は分からない。

 加えてギルバートが戦っていた国でもあるので、恨みを持つ者もいて当たり前だと思っていた。

 だからこうしてエリーゼに声をかけられたのは、心が躍るほど嬉しかった。

「この部屋です。護衛の方は外で待っていてくださいませね。女性同士の話ですから」

「はい、かしこまりました。その前に、部屋を確認させていただいても宜しいですか?」

「どうぞ」

 談話室は暖炉にソファセットがあり、ゆったりと話せる部屋だ。有事のためにベッドもあるが、女性同士でそのまさかはないだろう。

 セドリックはざっと部屋の中を見回して他に人がいないか確認し、ついでにカーテンを開けて窓の外も確認する。

 窓の外はバルコニーになっていて、月や立派なマロニエの花が愛でられるようになっていた。眼下には庭園が広がり、月明かりに照らされて噴水が光っている。

「……異常なし、ですね。どうもお邪魔いたしました。私はドアの外に待機しておりますので、何かありましたらいつでもお声を」

「ありがとう、セドリックさん」

 護衛が部屋を出ていくと、エリーゼは楽しそうに飲み物の準備を始めた。

 デキャンタにはワインやシェリー酒、ブランデーなど様々な酒がそろっている。ティーセットもあり、クローシュドームの中にはお菓子もあった。

「では、女性だけの会話を楽しみましょう、シャーロットさま」

「まずあなたのことを話してくださらないかしら? エリーゼさま。それにアルトドルファー王国がどんなに素晴らしい国なのかも、お聞きしたいですわ」

「もちろん」

 そのようにして和気藹々と二人の会話は始まり、思いのほか酒も進んでゆく。用意されてあったワインはとても美味しく、さすが王宮の美酒だ。

「アルトドルファー王国は、ワインの名産国でもあるのです。よろしければ今度我が領にいらっしゃいませんか? 領内に葡萄畑があって、良質なワインを取りそろえています」

「まぁ、すてきね」

 ほろ酔い加減になったシャーロットは、饒舌になっていた。

 エリーゼは気が利いて優しく、話の運びも上手い。彼女自身にも魅力を感じて、シャーロットはギルバートに彼女を『友人』として紹介したいと思っていた。

 いつの間にかエリーゼはシャーロットの隣に座り、手を取って親密に話している。

 それを不自然と思わず、シャーロットはただただ嬉しかった。

「それにしても……。シャーロットさまはとても肌が白いのですね」

 ス……とエリーゼの手がシャーロットの頬に触れ、それから耳の輪郭をまるく撫でる。

「あ……」

 ギルバートに散々愛された体は、耳たぶに触れられるだけでも感じてしまうようになっていた。

「あら、感じてしまったの? 可愛らしい方」

 エリーゼの青い目は細められ、手はシャーロットのうなじや肩を這い回る。
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