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友への嫉妬1 ☆

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「いらっしゃい、クレハさん」

 通されたのは、オーウェンの勉強室。
 大きな窓に囲まれ、明るく広い部屋でオーウェンは先に勉強していた。

「まぁ、もう始めていらしたのですね。遅くなり申し訳ございません」
「いいえ。あなたが来ると思うとなんだか嬉しくなって、少しでも勉強しておかないとと思ったんです」

 そう言って微笑むオーウェンは、どこまでも爽やかだ。
 金髪は軽く流され、グリーンの目に合わせてクラバットは鮮やかなエメラルドグリーンだ。白いシャツに落ち着いた色のベスト。
 ノアといいオーウェンといい、どうにも貴族や王族という人種は、そこにいるだけで華があり品がある。

「まだ仮教育が本格的に始まる前ですが、殿下のご勤勉さには頭が下がる思いです」
「クレハさん、殿下はやめてくださいと言ったじゃないですか」

 オーウェンはつまらなさそうに唇をとがらせる。
 部屋にはメイドがきて、二人のために紅茶や焼き菓子を置いていっていた。

「ですが……」
「あなたがノアをそのまま呼んでいるように、私のことも気軽にオーウェンと呼んでほしいのです」
「……えっと……」

 いくら何でも、それは畏れ多すぎる。

「で、では初めてお会いした時のように、オーウェンさま、……と」
「……うーん」

 クレハが最大限譲歩しても、オーウェンは首を傾げていた。

「まだ私とあなたのあいだには、壁があるようですね」
「…………」

 オーウェンの言葉に、クレハは当たり障りのない微笑を返した。

「それはそうと、前回提案したことは考えていただけましたか?」
「あ……」

「休みのあいだでも、王宮で寝泊まりするようになれば、こうして通う必要もなくなります。私は身近に歳の近い人が増えて嬉しいし、クレハさんもなにかと楽かと思うのですが……」
「そう……ですね……」

 また、クレハは曖昧に微笑む。
 オーウェンの好意はありがたい。――けれども、クレハはノアが好きで彼と一緒にいたい。
 それをどうやって、オーウェンに対して失礼にならず伝えられるものか……。
 テーブルの上のティーセットを見て、曖昧に微笑んでいるクレハを見て、オーウェンは溜め息交じりに笑った。

「すみません、意地悪な言い方をしましたね」
「え……」

「あなたがノアを想っていることは、知っているつもりです。ノアは毎日のようにあなたの自慢ばかりしてきますし」
「あ……っ」

 自分とノアの関係が、どのていど目の前の王子に知られているのか、急にクレハは狼狽しだした。
 顔を真っ赤にし、両手で頬や唇に触れるクレハを、オーウェンはクスクスと笑って見ている。

「大丈夫ですよ。あまり詳細までは聞いていません。話題ですらもノアはあなたを独り占めしたいのでしょう」
「そんな……、あ、……うぅ」

 この口調だと、行為の詳細までは話していないのだろう。
 それには安堵しつつも、話してある部分がどこまでなのかが気になる。

「はは、クレハさんは可愛らしいですね。……そんなに、私がどこまで知っているか気になりますか?」

 ゆったりと脚を組んだオーウェンが、グリーンの目でこちらを覗き込んでくる。

「お……、お勉強しましょう。お茶はもう頂きましたし」
「おや、ごまかされてしまった」
「も、もう」




 照れながら立ち上がるクレハを、オーウェンはそっと盗み見していた。

 城の者はクレハが平民の混血ということで、あまりいい顔はしていない。けれどオーウェンは自分で彼女と対面して、実に魅力的な女性だと分かっている。

 頭がいいのは言わずもがな。品があり、仕草などもちゃんと気を遣っている。
 もともと丁寧に育てられた上で、ノアのところでマナーなどの勉強をしたのだろう。

 それに、眼鏡をかけているのがもったいないほどの美人だ。
 極めつけに、胸元を弾けさせんばかりに盛り上げている、女性の象徴――。

 魅力的ではない、というほうがおかしい。

 オーウェンも王子だが、その年齢はノアと同じ二十一歳で、異性への興味だって十分にある。
 ただそれを下卑た感情と共に表に出すか、出さないかだ。
 それが、人の品というものを決める。

 ノアもオーウェンも、そういう意味では本当に上品だ。
 ノアからは常日ごろ性的な目で見られているが、それが愛情からくるものだとクレハは分かっている。
 街ですれ違う男のように、クレハをただ『女』として見ているのとは違う。

「では、今日は地学から始めますね」

 勉強部屋にある移動式の黒板に向かい、クレハは背筋を伸ばす。

「宜しくお願いします。クレハ先生」

 グッと突き出された胸をチラッと見てから、オーウェンは意識を勉強に向けた。



**



「今日はどうだった?」

 夕食が終わり、今度はノアの勉強をみる。

「ええ、さすがノアさまのご学友ですね。とても覚えが早いです。私など必要ないほどに、基本の知識も深いですし……」

 勉強前のお茶の席で、クレハは眼鏡も外し髪も解いている。
 彼女が外に出る時は好きなようにさせているが、ノアの前でだけ素のままでいる約束をしている。
 一種の、ノアの束縛のかたちだ。
 そこまで言って口を閉ざすクレハを、ノアは覗き込む。

「……なに? オーウェンが何か?」

 大好きなクレハに関わることなら、なにも逃さない。
 その姿勢に、そんな心が表れている。

「あぁ、いえ。こんな風に優秀な方にはすぐ追いつかれそうなら、私ももっと頑張らないとと思いまして……」

 心配そうにこちらを見るノアに理由を言うと、彼はホッとしたように微笑んだ。

「君は立派な教育者になれると、僕は信じているよ」
「ありがとうございます」

 ニコリと笑みを見せるクレハの隣に、ノアは座り直した。

「……クレハ、勉強の前にやる気を奮い起こしたい」
「え?」

 よく分からない言い方にきょとんとノアを見ると、彼はねだるような目でクレハを見つめている。

(……あ)

 求められている。

 そう感じて、クレハはじわっと顔を赤くした。
 ノアが目蓋を軽く伏せ、琥珀色の目でクレハを見つめながら顔を近づけてくる。

「…………」

 恥じらいながらそっと目を閉じると、スリ……とノアの指が優しくクレハの頬を撫でた。
 そして、唇が柔らかく触れ合う――。

「ん……」

 とろけるほど柔らかな唇が重なり、クレハの唇の緊張もとけて柔らかく一つになった頃。
 ノアがはむはむとクレハの唇を食みだした。

「ん……っ、ん、……ぅ」

 唇が唇で挟まれ、チュッと下唇を愛してからまた愛する。

 ――フワフワする。

 ノアの香りも、この優しいキスも、今はすっかりクレハを満たすものになっている。
 彼の手はクレハの胸の果実に触れ、ブラウスの上からそっとクレハの胸を揉む。

「ん……、ぅ」

 スッと指先が先端をかすった時、クレハがピクリと反応した。
 そのままノアの指先は、スリスリとクレハの先端をなで回す。

「んっ……ん、……ん、……ぅ」

 切なくくぐもった声が漏れ、彼女が感じているのを分かっているのに、ノアはキスをやめない。
 やがて優しいキスは終わり、解放されるかと思った唇はより深く愛された。

 クチュ……ッと唇のあいだから音が漏れ、クレハの体はソファに押しつけられる。
 ノアは何度も顔を傾け、その手もまた情熱的にクレハの胸をこね回した。
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