【R-18】復讐を遂げた仮面王は愛妻の音色に微笑む

臣桜

文字の大きさ
上 下
38 / 38

終章 地下の虜囚

しおりを挟む
「奴はどうしてる」

 薄暗くかび臭い地下牢に足音がし、冷静なレックスの声が響く。
 松明で照らされたそこは、地下にあるだけでなくより闇と影が濃いように思えた。

「変わりありません。水と食料は与えてあります」
「そうか」

 兵士のいらえに短く頷いたレックスは、地下牢の最奥部で立ち止まる。

 そこはグランヴェル城の地下牢だ。

 コーネリアが囚われていた隠し扉の奥の部屋を、レックスが改造した場所である。
 通常の地下牢と違って誰の目にも止まらないそこに、日に四回見張りの兵が交代し、重罪人を見張っている。

「おい」

 およそ感情を伺わせないレックスが声を掛けたのは、手足を枷で繋がれた一人の男だ。

「ぅ……あ、……あぁ、ぁー……」

 かつては美形だったろう顔も、伸びた髭に覆われ荒みきった目つきにより面影すらない。ぽっかりと空いた口の洞には、舌が存在していなかった。
 話したくても話せない。そんな状況に置かれた男は、狂気の混じった凄まじい目でレックスを睨みつける。

「やる事がなくて暇だろう。お前は性欲旺盛で、女を取っ替え引っ替えしていたんだったか? それなら自慰でもしていたらどうだ?」

 からかうレックスの言葉に、男は「ウゥーッ!」と一際はげしくうなり声を上げた。涎を垂らし、血走った目でレックスを凝視する。今にもつかみかかりそうだが、手足が封じられている上に鉄格子があるので届かない。

「……あぁ、済まない。お前の自慢の一物は切り落としたんだっけか」

 レックスは心底申し訳ないという顔をして嗤い、見せつけるように自身の股間をポンポンと撫でてみせた。

「なぁ、俺はいい王だろ? お前みたいなクズでも、コーネリアを生かしておいてくれたから、その礼としてお前を生かしてやってるんだ」

 その場にしゃがみこんだレックスは、男と目線を合わせクツクツと笑う。

「――まぁ、ただ。俺に嘘をついたその舌は抜かせてもらった。嘘つきは舌抜きの刑と決まっているしな? それに俺の妻を犯そうとし、身代わりになった侍女を酷い目に遭わせた礼は、薄汚い一物で贖ってもらった。妻と侍女だから、竿が二本なければ割に合わないんだがな?」

 トントンと指で鉄格子を弾いているレックスは、頭の中で何かの音楽でも流れているのか、ご機嫌だ。

「まぁ、お前が退屈しないように、こうして時々顔を見に来てやるから安心しろ。自分が今までふんぞり返っていた地下にいるんだ。遠い北方の監獄に送られないだけ、まだマシだと思え」

 かつてのグランヴェル城の主――ガイは、フーッフーッと荒い呼吸を繰り返し、目から涙を流していた。

「そんな顔をしても駄目だ。躾けられた犬は、主人に害なす者を許さないと決まっている」

 立ち上がったレックスは、「ふーんふふふーん……」と軽やかな曲を鼻歌で歌う。手で鉄格子をタララッと撫で、一歩引いて極上の笑みを浮かべた。

「またコーネリアが素晴らしいピアノを聞かせてくれるようになったんだ。彼女の腕は一級品だな。本当に俺の妻はすばらしい」

 およそ地下牢に似つかわしくない晴れやかな声を上げ、レックスは地下じゅうに響き渡るような拍手をした。

「お前にも聞かせてやりたいが、そうもいかないな。まぁ、ここでゆっくり自分の罪と向き合ってくれ。四年は持ってくれよ? それでないと意味がないんだから」

 その四年という歳月をガイが理解したのかしていないのか――。それを確認する間も与えず、レックスは「さて、また仕事をしなければ」とゆっくり鉄格子の前を去って行く。

 背後にくぐもったうなり声が聞こえた気がしたが、レックスは歯牙に掛けない。

 コーネリアをここから救い出した時から、レックスの人生は光と希望に満ちあふれているのだ。
 ここから出て階段を上がれば、光に溢れた世界で愛しい妻が笑ってくれている。

 あぁ、なんて素晴らしい世界なんだろう。

 絶望し命を奪い続けた地獄に比べ、この世界は天国だ。




 すべてを手にした覇王は至上の歓喜に包まれ、誰にともなく笑い声を漏らしてゆっくりと隠し通路の階段を上がっていった。



 完
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

motoki
2020.03.15 motoki

きたー‼️(゚∀゚ 三 ゚∀゚)新作‼️
それも大好きなドロドロ‼️😁
またはらはらしながら読ませていただきますねー♥️

2020.03.15 臣桜

motoki 様

ありがとうございます!(*´ω`*)
お楽しみ頂けたら幸いです!

臣桜

解除

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。