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どうしても叶えたい願い
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それだけならまだマシだったが、陰口を叩かれいじられる事もあった。
心理的な面から体調を崩す事も多くなり、保健室で過ごす事も多かった。
そのような心の傷があり、何が何でも自分を守ろうという思いから、暁人は仮名を名乗るに至ったのだ。
もともと成績は良かったが、幸治に遅れを取り始めてきたのも事実で、芳乃の家庭教師を受ける話はすんなりと通ったのだ。
憧れの芳乃に挨拶をした暁人は、すっぽりとパーカーのフードを被っていた。
それも、可能なら人に自分の顔を見られたくないという思いからだ。
しかし芳乃は家庭教師をしていて色んな生徒を見てきたからか、特に暁人の様子について詳しく尋ねてこなかった。
「じゃあ、大学合格まで宜しくお願いします。ラストスパートの時期だから、ビシバシいくね。引っ掛かる所があったら、何でも聞いてね」
「はい、宜しくお願いします」
芳乃の教え方は幸治が言っていたように分かりやすかった。
頭がいいだけの人は大勢いるものの、人に分かりやすく教えられる人は希少だ。
そういう意味でも、暁人は芳乃への好意をどんどん上げていった。
彼女は美しく優秀なだけでなく、冗談のセンスも良くて人を和ませる魅力がある。
学校であれほど人目を避けて暗くうじうじと過ごしていた暁人は、芳乃といる時だけ本当の自分を取り戻せたように感じていた。
彼女が読むのは国内外の経済新聞で、そこから世界情勢を学んで投資に関する知識としているようだ。
暁人も子供の頃から父や祖父に教わって、投資の勉強は始めていてその当時もそこそこの資産はあった。
彼女が自分と同じ目線を持つと知り、暁人はますます芳乃に惚れていく。
「ねぇ、先生。俺、どうしても叶えたい願いがあるんだけど」
そう切り出したのは、家政婦がおやつを持って来てくれた休憩時間だった。
その日のおやつは、京都の有名料亭から取り寄せた、レンコンでできたわらび餅のような菓子を、笹の葉で包んだ物だ。
彼女は仁科家で食べた事のない美味しいお菓子を口にできるのを、とても楽しみにしているようだった。
だから暁人も母に「世話になっている先生に美味しい物を食べてもらいたい」と伝えていた。
暁人の母も、ずっと落ち込んでいた息子が明るくなり、成績まで伸びた事について、芳乃にいたく感謝していた。
なので彼女は両親のお気に入りでもあった。
「ん? 願い? 夢っていう事?」
品のいい甘さのお菓子を食べ終えて、芳乃は満足気に水出しの緑茶を飲んでいる。
「夢……かな。でも、絶対に叶えたいから夢にはしておきたくない」
「うん、確かに。夢っていうとちょっといつ叶うか分からない、ふんわりとした目標っぽいね。じゃあ、願いだね」
「ん」
暁人は嬉しそうに頷く。
彼の願いはたった一つ。
彼女に認められる男になり、芳乃と結婚する事だ。
しかし幸治に言われたように、家庭教師と生徒という関係の間は、告白をすれば彼女を困らせるだけだと己を律していた。
だから、無事に自分が彼女と同じT大に合格したあと、きちんと彼女に告白して正式に付き合ってもらいたいと思っていたのだ。
「でも、叶うかどうか心配だな」
「やってみないと分からないでしょう?」
芳乃に言われ、暁人は励まされる。
「ん、絶対叶えてみせる。うまくいかなかったら……、先生、慰めてくれる?」
「牛丼ぐらいなら奢るよ?」
明るく笑った芳乃の言葉に、暁人も思わず笑顔を見せる。
「ねぇ、先生って本当に彼氏いないの?」
気になっている事を口にすると、芳乃は「もー」と呆れたように笑う。
「大学生って結構やる事一杯で忙しいよ? 好きな勉強、好きな事をできているからありがたいんだけどね。私は就きたい職が決まっているから、そのための勉強や資金集めに必死なの」
「就きたい職って?」
暁人は興味を示す。
自分は神楽坂グループを継ぐ事が決まっている。
芳乃がどんな職種で仕事をするかによって、彼の中で妄想の同棲生活が変化する。
今までシミュレーションした中では、会社帰りの彼女を車で迎えに行って、夜景の綺麗なレストランで食事……など、ベタ中のベタであるが、そのような妄想に浸って悦に入っている事があった。
心理的な面から体調を崩す事も多くなり、保健室で過ごす事も多かった。
そのような心の傷があり、何が何でも自分を守ろうという思いから、暁人は仮名を名乗るに至ったのだ。
もともと成績は良かったが、幸治に遅れを取り始めてきたのも事実で、芳乃の家庭教師を受ける話はすんなりと通ったのだ。
憧れの芳乃に挨拶をした暁人は、すっぽりとパーカーのフードを被っていた。
それも、可能なら人に自分の顔を見られたくないという思いからだ。
しかし芳乃は家庭教師をしていて色んな生徒を見てきたからか、特に暁人の様子について詳しく尋ねてこなかった。
「じゃあ、大学合格まで宜しくお願いします。ラストスパートの時期だから、ビシバシいくね。引っ掛かる所があったら、何でも聞いてね」
「はい、宜しくお願いします」
芳乃の教え方は幸治が言っていたように分かりやすかった。
頭がいいだけの人は大勢いるものの、人に分かりやすく教えられる人は希少だ。
そういう意味でも、暁人は芳乃への好意をどんどん上げていった。
彼女は美しく優秀なだけでなく、冗談のセンスも良くて人を和ませる魅力がある。
学校であれほど人目を避けて暗くうじうじと過ごしていた暁人は、芳乃といる時だけ本当の自分を取り戻せたように感じていた。
彼女が読むのは国内外の経済新聞で、そこから世界情勢を学んで投資に関する知識としているようだ。
暁人も子供の頃から父や祖父に教わって、投資の勉強は始めていてその当時もそこそこの資産はあった。
彼女が自分と同じ目線を持つと知り、暁人はますます芳乃に惚れていく。
「ねぇ、先生。俺、どうしても叶えたい願いがあるんだけど」
そう切り出したのは、家政婦がおやつを持って来てくれた休憩時間だった。
その日のおやつは、京都の有名料亭から取り寄せた、レンコンでできたわらび餅のような菓子を、笹の葉で包んだ物だ。
彼女は仁科家で食べた事のない美味しいお菓子を口にできるのを、とても楽しみにしているようだった。
だから暁人も母に「世話になっている先生に美味しい物を食べてもらいたい」と伝えていた。
暁人の母も、ずっと落ち込んでいた息子が明るくなり、成績まで伸びた事について、芳乃にいたく感謝していた。
なので彼女は両親のお気に入りでもあった。
「ん? 願い? 夢っていう事?」
品のいい甘さのお菓子を食べ終えて、芳乃は満足気に水出しの緑茶を飲んでいる。
「夢……かな。でも、絶対に叶えたいから夢にはしておきたくない」
「うん、確かに。夢っていうとちょっといつ叶うか分からない、ふんわりとした目標っぽいね。じゃあ、願いだね」
「ん」
暁人は嬉しそうに頷く。
彼の願いはたった一つ。
彼女に認められる男になり、芳乃と結婚する事だ。
しかし幸治に言われたように、家庭教師と生徒という関係の間は、告白をすれば彼女を困らせるだけだと己を律していた。
だから、無事に自分が彼女と同じT大に合格したあと、きちんと彼女に告白して正式に付き合ってもらいたいと思っていたのだ。
「でも、叶うかどうか心配だな」
「やってみないと分からないでしょう?」
芳乃に言われ、暁人は励まされる。
「ん、絶対叶えてみせる。うまくいかなかったら……、先生、慰めてくれる?」
「牛丼ぐらいなら奢るよ?」
明るく笑った芳乃の言葉に、暁人も思わず笑顔を見せる。
「ねぇ、先生って本当に彼氏いないの?」
気になっている事を口にすると、芳乃は「もー」と呆れたように笑う。
「大学生って結構やる事一杯で忙しいよ? 好きな勉強、好きな事をできているからありがたいんだけどね。私は就きたい職が決まっているから、そのための勉強や資金集めに必死なの」
「就きたい職って?」
暁人は興味を示す。
自分は神楽坂グループを継ぐ事が決まっている。
芳乃がどんな職種で仕事をするかによって、彼の中で妄想の同棲生活が変化する。
今までシミュレーションした中では、会社帰りの彼女を車で迎えに行って、夜景の綺麗なレストランで食事……など、ベタ中のベタであるが、そのような妄想に浸って悦に入っている事があった。
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