16 / 63
君は今の自分を『大好き』と胸を張って言えるか?
しおりを挟む
――前を向いて、強くなりたい。
――この人に認めてもらえるようになりたい。
心の底から湧き起こる羞恥と、暁人への強い想いを自覚し、芳乃は赤面する。
「どうしたら直ると思う?」
暁人が頬に触れ、耳や側頭部の髪を探る。
「……努力します」
「そうじゃない。何が原因でそうなったと思う? 俺は一方的な謝罪を聞きたいんじゃない。君と対話をしたいんだ」
言われて、また彼の懐の広さに打ちのめされる。
初対面の時、「年下なのにしっかりしてそう」など思った自分が恥ずかしい。
暁人と話していると、高学歴で単身渡米したからといって、自分がすっかり天狗になっていたのを思い知らされる。
――少なくとも、私はこの人ほど人間ができていない。
素直に認め、芳乃は暁人が年下だと思うのをやめた。
一人の、尊敬すべき相手と認識を正す。
「ひとえに、不幸が重なったのが原因だと思います。ウィルに婚約破棄をされるまで、私の人生は上々だったと言えます。彼のせいにする訳ではありませんが、『悪い事は重なる』とも言います。今回がそれだったのだと思います。そして私は、すっかり自信を失ってしまいました」
「うん。じゃあ、自信をつけるにはどうすればいいと思う?」
尋ねられ、芳乃は思考を巡らせる。
「きちんと就労し、自分のスキルを生かして働き、やりがいを得る事だと思います」
「そうだな。でも、それは社会的な回答だと思う。まるで面接のようだ」
やんわりと否定され、芳乃は言葉を失う。
これ以上の答えはないと思う程、シンプルな返事だと思っていたからだ。
「じゃあ……、どうすれば……」
本当に「分からない」と思った芳乃は、暁人を見つめ彼の目の奥に答えを求める。
――と、暁人が目を細め優しく笑った。
「君は今の自分を『大好き』と胸を張って言えるか?」
尋ねられ、芳乃は思考を止め固まる。
(言えない……)
順風満帆だと思って、〝ターナー&リゾーツ〟の御曹司と結婚できると思い込んでいた。
が、蓋を開ければ一人で舞い上がっていただけで、そんな自分を「格好悪い」と思った。
逃げるように帰国した時も、ウィリアムが悪いと自身に言い聞かせていた。
その裏で「あれだけ自信満々に渡米して、『NYに骨を埋めるつもり』と家族に言って、終の棲家はNYのどこにすべきか考えていたのがバカみたい」と自嘲した。
実家でゴロゴロしている自分は、無職で頼りなかった。
家族や友達が芳乃の帰国を喜んでいる姿を見て、彼らのためと自分に言い聞かせ、ちっぽけなプライドを守った。
父が倒れてしまったあとは、自分を責め続けた。
あれだけ心配されたのに、振り切って夢を追いかけた親不孝者だ。
外国で娘がどうしているか心配し続ける親の気持ちを、分かっているようでまったく理解できていなかった。
帰国した時に両親を見て「老けたな」と感じたのも、ひとえに芳乃を心配し続けたからだ。
『やりたい事をやりなさい。そのために支え続けてきたんだから』
両親の優しい言葉に甘え続け、そのお返しに自分は何をしただろう?
友達は休みになると帰省し、親に顔を見せていた。
家族の誕生日には、リアルタイムで花やプレゼントを届け、または一緒に食事会をしていた。
一方で、芳乃はタイムラグのある国際便でプレゼントを贈り、ビデオ通話で「おめでとう」を言ったのみ。
返す返す、ただの親不孝者としか思えない。
だから――、今は自分の事が嫌いで堪らない。
「俺は、君が自分自身を好きになれるよう、協力していきたいと思っている」
掌でスリ……と芳乃の頬を撫で、逞しい上半身を晒した暁人は優しく抱き締めてきた。
「君を愛して、『幸せ』と思えるようにしたら、君はもっと自分を好きになれるんじゃないか? もっと君が自分を好きになれるよう、日々言葉を伝えていこう」
「……そんな事、できるんですか?」
暁人はまるで、魔法の言葉を口にしているように思える。
ゼロから百を生むと言っているも同義だ。
「やってみないと分からないだろう?」
そう言って微笑んだ彼に一瞬既視感を覚えたが、それもすぐに優しいキスにより紛れていった。
「ん……」
柔らかな唇を何度も押しつけられ、空気を求めて唇が微かに開く。
後頭部や背中は大きな手に撫でられ、その温もりに気持ちが落ち着いてゆく。
唇の間を舐められ、上下の唇を軽く噛んだ暁人の手が、腰から臀部に至っても芳乃は抵抗しなかった。
――この人に認めてもらえるようになりたい。
心の底から湧き起こる羞恥と、暁人への強い想いを自覚し、芳乃は赤面する。
「どうしたら直ると思う?」
暁人が頬に触れ、耳や側頭部の髪を探る。
「……努力します」
「そうじゃない。何が原因でそうなったと思う? 俺は一方的な謝罪を聞きたいんじゃない。君と対話をしたいんだ」
言われて、また彼の懐の広さに打ちのめされる。
初対面の時、「年下なのにしっかりしてそう」など思った自分が恥ずかしい。
暁人と話していると、高学歴で単身渡米したからといって、自分がすっかり天狗になっていたのを思い知らされる。
――少なくとも、私はこの人ほど人間ができていない。
素直に認め、芳乃は暁人が年下だと思うのをやめた。
一人の、尊敬すべき相手と認識を正す。
「ひとえに、不幸が重なったのが原因だと思います。ウィルに婚約破棄をされるまで、私の人生は上々だったと言えます。彼のせいにする訳ではありませんが、『悪い事は重なる』とも言います。今回がそれだったのだと思います。そして私は、すっかり自信を失ってしまいました」
「うん。じゃあ、自信をつけるにはどうすればいいと思う?」
尋ねられ、芳乃は思考を巡らせる。
「きちんと就労し、自分のスキルを生かして働き、やりがいを得る事だと思います」
「そうだな。でも、それは社会的な回答だと思う。まるで面接のようだ」
やんわりと否定され、芳乃は言葉を失う。
これ以上の答えはないと思う程、シンプルな返事だと思っていたからだ。
「じゃあ……、どうすれば……」
本当に「分からない」と思った芳乃は、暁人を見つめ彼の目の奥に答えを求める。
――と、暁人が目を細め優しく笑った。
「君は今の自分を『大好き』と胸を張って言えるか?」
尋ねられ、芳乃は思考を止め固まる。
(言えない……)
順風満帆だと思って、〝ターナー&リゾーツ〟の御曹司と結婚できると思い込んでいた。
が、蓋を開ければ一人で舞い上がっていただけで、そんな自分を「格好悪い」と思った。
逃げるように帰国した時も、ウィリアムが悪いと自身に言い聞かせていた。
その裏で「あれだけ自信満々に渡米して、『NYに骨を埋めるつもり』と家族に言って、終の棲家はNYのどこにすべきか考えていたのがバカみたい」と自嘲した。
実家でゴロゴロしている自分は、無職で頼りなかった。
家族や友達が芳乃の帰国を喜んでいる姿を見て、彼らのためと自分に言い聞かせ、ちっぽけなプライドを守った。
父が倒れてしまったあとは、自分を責め続けた。
あれだけ心配されたのに、振り切って夢を追いかけた親不孝者だ。
外国で娘がどうしているか心配し続ける親の気持ちを、分かっているようでまったく理解できていなかった。
帰国した時に両親を見て「老けたな」と感じたのも、ひとえに芳乃を心配し続けたからだ。
『やりたい事をやりなさい。そのために支え続けてきたんだから』
両親の優しい言葉に甘え続け、そのお返しに自分は何をしただろう?
友達は休みになると帰省し、親に顔を見せていた。
家族の誕生日には、リアルタイムで花やプレゼントを届け、または一緒に食事会をしていた。
一方で、芳乃はタイムラグのある国際便でプレゼントを贈り、ビデオ通話で「おめでとう」を言ったのみ。
返す返す、ただの親不孝者としか思えない。
だから――、今は自分の事が嫌いで堪らない。
「俺は、君が自分自身を好きになれるよう、協力していきたいと思っている」
掌でスリ……と芳乃の頬を撫で、逞しい上半身を晒した暁人は優しく抱き締めてきた。
「君を愛して、『幸せ』と思えるようにしたら、君はもっと自分を好きになれるんじゃないか? もっと君が自分を好きになれるよう、日々言葉を伝えていこう」
「……そんな事、できるんですか?」
暁人はまるで、魔法の言葉を口にしているように思える。
ゼロから百を生むと言っているも同義だ。
「やってみないと分からないだろう?」
そう言って微笑んだ彼に一瞬既視感を覚えたが、それもすぐに優しいキスにより紛れていった。
「ん……」
柔らかな唇を何度も押しつけられ、空気を求めて唇が微かに開く。
後頭部や背中は大きな手に撫でられ、その温もりに気持ちが落ち着いてゆく。
唇の間を舐められ、上下の唇を軽く噛んだ暁人の手が、腰から臀部に至っても芳乃は抵抗しなかった。
12
お気に入りに追加
635
あなたにおすすめの小説
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
ヤンデレ男に拐われ孕まセックスされるビッチ女の話
イセヤ レキ
恋愛
※こちらは18禁の作品です※
箸休め作品です。
表題の通り、基本的にストーリーなし、エロしかありません。
全編に渡り淫語だらけです、綺麗なエロをご希望の方はUターンして下さい。
地雷要素多めです、ご注意下さい。
快楽堕ちエンドの為、ハピエンで括ってます。
※性的虐待の匂わせ描写あります。
※清廉潔白な人物は皆無です。
汚喘ぎ/♡喘ぎ/監禁/凌辱/アナル/クンニ/放尿/飲尿/クリピアス/ビッチ/ローター/緊縛/手錠/快楽堕ち
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【完結】堕ちた令嬢
マー子
恋愛
・R18・無理矢理?・監禁×孕ませ
・ハピエン
※レイプや陵辱などの表現があります!苦手な方は御遠慮下さい。
〜ストーリー〜
裕福ではないが、父と母と私の三人平凡で幸せな日々を過ごしていた。
素敵な婚約者もいて、学園を卒業したらすぐに結婚するはずだった。
それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう⋯?
◇人物の表現が『彼』『彼女』『ヤツ』などで、殆ど名前が出てきません。なるべく表現する人は統一してますが、途中分からなくても多分コイツだろう?と温かい目で見守って下さい。
◇後半やっと彼の目的が分かります。
◇切ないけれど、ハッピーエンドを目指しました。
◇全8話+その後で完結
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
ハイスぺ副社長になった初恋相手と再会したら、一途な愛を心と身体に刻み込まれました
中山紡希
恋愛
貿易会社の事務員として働く28歳の秋月結乃。
ある日、親友の奈々に高校のクラス会に行こうと誘われる。会社の上司からモラハラを受けている結乃は、その気晴らしに初めてクラス会に参加。賑やかな場所の苦手な結乃はその雰囲気に戸惑うが
そこに十年間片想いを続けている初恋相手の早瀬陽介が現れる。
陽介は国内屈指の大企業である早瀬商事の副社長になっていた。
高校時代、サッカー部の部員とマネージャーという関係だった二人は両片思いだったものの
様々な事情で気持ちが通じ合うことはなかった。
十年ぶりに陽介と言葉を交わし、今も変わらぬ陽介への恋心に気付いた結乃は……?
※甘いイチャイチャ溺愛系のR18シーンが複数個所にありますので、苦手な方はご注意ください。
※こちらはすでに全て書き終えていて、誤字脱字の修正をしながら毎日公開していきます。
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる