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第二十三部・幸せへ 編

ワシントン・ユニオン駅

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 すると佑は香澄の意図を察したように微笑んだ。

「リモートでできる事はやっているから、心配しなくていいよ。松井さんも、俺は香澄がいなかったら仕事に手が着かないって分かってくれているし」

「うう……。申し訳ないです」

 しょんぼりと謝ったが、佑はゆるりと首を横に振る。

「今回香澄が日本を離れたのは、俺が不甲斐なかったからだ。香澄が気にする必要は何もない」

「……ん、……分かった」

 この件については何度もやり取りしていて、そのたびにお互い気を遣い合っていてはキリがない。

「まぁ、アセラで移動してる間、二人でゆっくり話したら?」

 アロイスに言われ、佑は「そうする」と微笑む。

「NYでマイに会ったあと、僕らも本来のサイクルに戻らないとね。色々待たせてるものがあるから」

 クラウスの言葉を聞き、香澄は申し訳なくなり、平身低頭謝る。

「すみません、いつか埋め合わせをします」

 すると、双子の目がキランと光った。

「ホント? ゲンチとったからね」

「何をしてもらおうかなー?」

 機嫌良く言う双子を佑がジロリと睨み、彼らはその反応を見てケラケラ笑うのだった。





 残り一日は佑とのんびり街歩きをしつつ、荷物をスーツケースに片づけていった。

 そして移動日の朝、香澄たちはホテルの前の車寄せで一旦の別れを告げる。

「じゃあね、香澄さん。またNYで」

 澪に手を振られ、香澄はペコリと頭を下げる。

「ではまた! 色々ありがとうございました!」

「私は無事に二人が再会したのを見られたからいいけど、帰国したらママを安心させてあげて。ああ見えて香澄さんの事を気に入っているし、今回の事で本当に破談にならないか心配してたから」

 アンネが心配してくれていたと知り、香澄はにっこり笑う。

「はい。アンネさんのお好きなチョコレートを持って、ご自宅に伺います」

 返事をすると、澪はニコッと笑って車の後部座席に乗った。

「じゃあ、行こうか」

 佑に促され、香澄は小金崎が運転する車に乗る。

 瀬尾、久住、佐野は双子たちと先に佑と香澄の荷物を持ってNYへ行き、彼らが着くまでしばしの休憩となっていた。

 例によって助手席には呉代、後続の車には河野と小山内が乗っている。

 ものの五分でユニオン駅に着くと、駅のファサードには大きな三つのアーチがあり、そこに巨大なアメリカ国旗が下がっていた。

 アーチの上にはプロメテウスやアポロン、アルキメデスなどの神々の像が六体ある。

 横幅のある外観は凱旋門を思わせるライトグレーの古典様式で、同名の駅と区別するため、ワシントン・ユニオン駅とも呼ばれている。

「わぁ、凄い! 綺麗」

 白で統一されている駅構内の屋根は巨大なアーチ状になっていて、八角形の穴が規則正しく空いている。

 巨大なアーチの側面には小さなアーチが幾つも連なり、その中に古代ローマ軍ケントゥリアの百人隊長の石像が並んでいた。

 忙しく行き来する人々に混じり、駅構内で生演奏を披露する人がいて、異国情緒に溢れている。

 香澄が写真を撮っていると、佑がいつものように説明してくれる。

「この空間はローマにあるディオクレティアヌス浴場をモデルにしたらしい。とても格調高い建物として評判で、ワシントンDCの顔として有名なんだ。……東京駅みたいなものかな」

「確かに、首都の駅として納得できる美しさだね……」

 さらに中に入るとチケットカウンターと店があり、二階へ上がる階段もあった。

 半螺旋状にカーブを描く階段を上がってみたが、同じドーム内をすべて見渡せる構造なので、どこを見ても広々としている上、駅の美しさを感じられる。

 階段もエスカレーターも、駅の美しさを損なわない作りになっていて、流れるような曲線で統一されている。

 待合に行くと空港のような雰囲気があり、大勢の人がベンチに座って定時を待っていた。

 自動販売機で飲み物を買ってホームに行くと、上が青、中ほどから下部までがシルバーの車体がすでに停まっている。

「わぁ……、ワクワクする」

 中に入ると思っていたよりずっと綺麗なシートが並び、まだ客が少ないそこを写真に収めてから席に着いた。
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