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第二十三部・幸せへ 編

どうか俺と結婚してください

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「~~~~っ、はい……っ!」

 香澄は涙を流し、佑から薔薇を受け取り、美しい薔薇を見てから、ギュッとそれを抱き締めるように俯き、涙を零す。

 佑はそんな彼女の背中を優しくさすってから、尋ねてきた。

「香澄、ちょっと立てる?」

「……はい」

 立ちあがった時に気づいたが、いつの間にか周囲には、今までリボンを持っていた人たちが集まり、輪になって二人を囲んでいた。

 彼らが手にしているリボンの先端が佑に続き、まるですべての運命がここに集結したかのように思える。

 立ってドキドキしている香澄の前で、跪いたままの佑はタキシードのポケットからジュエリーボックスを出すと、パカリと蓋を開けて差しだしてきた。

「これからはもう絶対泣かせない。苦しい時も悲しい時も、常に香澄の側にいる。君だけを見つめて、君だけを愛すと誓う。……どうか俺と結婚してください」

 愛を捧げている佑のほうが泣きそうな表情をしていて、香澄は思わず微笑む。

 そして両手でそっとジュエリーボックスを受け取ると、佑を抱き締めて「はい」と返事をした。

 周りから「ヒュウッ」と指笛や拍手が聞こえ、顔を上げるとリボンを持っていた人たちだけではなく、通りすがりの人たちも二人を祝福してくれている。

 その中には、目を潤ませた双子や澪もいて、男泣きを堪えている呉代や久住、小山内や松井、いつもと変わらない河野や佐野もいる。

 夕暮れ時が終わり、夜が始まろうとしていた時――。

 ドォンッと空に花火が打ち上がったかと思うと、次々に祝福の花火が打ち上がる。

 遠くから人々の歓声や拍手が聞こえ、香澄はまさか花火まで上げるとは……と思って、佑に抱きついたままポカンと呆けていた。

 ――と、周囲にいたリボンを持った人々が歌い始め、香澄はビクッと顔を上げる。

 すると彼らは満面の笑顔でステップを踏んで手拍子をし、マルーン5の『Sugar』をゴスペルで歌い始めた。

「あぁ……、あ、……ははっ」

 佑らしい用意周到さに笑顔になった香澄は、涙を流しながら一緒に手拍子をし、愛を乞う男性の歌に聴き惚れた。





「……あーあ、やられたね」

 帰り道をゆっくり歩きながら、アロイスが言う。

「タスクに汗だくになって探させようと思ってたけど、まさかボディガードくん達の裏切りに遭っていたとは……」

 クラウスが言い、ニヤッと笑って久住と佐野を見る。

「あらかじめゴスペル隊を雇って、薔薇とリボンを手配、場所が分かったら突撃……って、すげー勝負師だな」

 あとから佑に聞いたところ、例のゴスペル隊が過去にカップルたちに『Sugar』を歌ってサプライズイベントを行った実績があると、きちんと調べた上での事らしい。

「もう、グチグチ言うのやめなよ。二人ともここで会わせるつもりだったんだし」

 呆れたように澪が言い、「ねー」と佑と腕を組んで歩いている香澄に同意を求める。

「……あの、……ホントに……、ありがとうございます。今はちょっと感無量で、頭の中が真っ白で何も……、ノーコメントです……」

 ポーッとした香澄の左手の薬指には、パリで佑と一緒に決めた婚約指輪が光っている。

「二人とも、不甲斐ない俺の代わりに香澄を守ってくれて感謝してるよ。澪も」

 佑が言い、双子は揃って肩をすくめた。

「どのツラ下げて言うんだか。これ以上のミスはカバーできないからね」

「分かってる」

「今度東京行った時、美味いワインと日本料理店、用意しとけよ」

「分かった」

〝いつもの〟会話を聞きながら、香澄は佑の腕にしっかりと腕を絡め、彼の存在や温もりを感じていた。

 自分の歩調に合わせて歩いてくれるのも同じ。

 少しよろけた時にサッと支えてくれるのも同じ。

(……本当に佑さんと一緒にいる、……の?)

 そろっと彼を見上げると、優しい目と視線がかち合う。

 それだけで赤面してしまった香澄は、パッと俯いて足元をよく見ながら歩く。

 視線を上げるとワシントンの街並みがネオンに浮かび、巨大なモニュメントがある。

 初めて訪れたワシントンDCで、長い間離れていたように感じる佑と、再び一緒に歩けていると思うと、なんだか現実味がない。

 やがて双子と澪は、彼らの車に乗る。

「カスミ、後日ホテルの荷物をまとめにおいで。今夜は離してもらえないだろうし」

 クラウスに言われ、香澄はポッと赤面する。

「じゃあね、幸せになりなよ」

 アロイスが言い、後部座席のドアを閉める。

「香澄さん、婚約おめでとう。帰国したら皆で食事会をしましょう」

「はい」

 澪に返事をした香澄は三人に手を振り、走り去っていく車を見送る。

 しばらくぼんやりとしていたが、佑に手を握られて赤面し、微かに身を強張らせた。
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