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第二十三部・幸せへ 編

ポトマック河畔

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「はぁ……」

 息を切らせた佑は立ち止まって汗を拭き、余裕のない表情で周囲を見回す。

 その後ろで小山内と呉代は、いつ相棒たちのGPSが入るか頻りにスマホを見て確認していた。



**



 宇宙博物館をたっぷり見学した香澄は、夕焼けに染まったポトマック河畔の桜を見ていた。

 先ほどのオベリスクからまっすぐ西に向かってリンカーン記念堂まで行き、そこから川沿いに歩いて西ポトマック公園、フランクリン・デラノ・ルーズベルト記念公園を通り、白いドーム状の屋根が特徴的なジェファーソン記念堂に向かっている。

「わぁ……、綺麗。日本にあるのと同じソメイヨシノなのに、見える景色が違うと、とても不思議な気持ちになります」

 シンプルな白いノースリーブタイトワンピースに、薄いラベンダーカラーのカーディガンを羽織った香澄は、キャメルカラーのサイドゴアブーツを履き、ゆっくりと桜並木を歩いている。

 澪は白いキャミソールの上にシースルーのタートルネックトップス、その上にペパーミントグリーンのステンカラージャケットを羽織り、同色のスカートのセットアップを穿いていた。

『結構目立ちますね。人混みの中でも見つけやすいです』と言うと、『目立つ色を狙ったの』と言っていた。

「記念写真撮ってあげようか?」

 アロイスに言われ、二人は近くにあった桜の前で腕を組んで寄り添った。

「はい、3、2、1……」

 彼は写真を撮ると、「送るね」と言ってコネクターナウのアプリを使って画像を送ってきた。

「ありがとうございます。あとで見ますね」

 香澄はそう言ってまた歩き始めようとするが、澪に「待って」と言われて立ち止まる。

「ちょっとSNSにアップしたいから、待っててくれる?」

「はい」

 普段、澪は自分がいる位置を知らせないために、SNSに写真をアップする時は一日の行動が終わって自宅に帰ったあとにしていると言っていた。

 香澄も概ね同じで、SNSのフォロワーはほぼ友人だけだが、一応全世界に公開している訳で、誰が見ているか分からないから即時投稿は控えていた。

 だから「珍しいな」とは感じていた。

(けど、ここは日本じゃないし、桜が綺麗でテンション上がったからだろうな)

 そう捉えた香澄は、のんびりと澪が写真の明暗や彩度を弄って加工するのを待ち、対岸の景色を写真に収める。

(麻衣に会いたいなぁ……)

 香澄は再度桜を背景に自撮りし、澪と同じように少し見やすいように加工してから、麻衣にメッセージを送った。

【こんにちは! 私は今ワシントンDCにいます。元気かな? いつ東京に戻れるかはちょっと未定だけど、必ず会いに行くからね】

 吹き抜ける風が香澄のまっすぐな髪を揺らし、彼女は無意識に髪を耳に掛ける。

(麻衣と一緒にChief Everyで働くつもりでいたけど、それも駄目になっちゃうな……。ちゃんと事情を説明して謝らないと。私のせいで麻衣とマティアスさんの将来まで駄目にしちゃう)

 現実に戻ると胸が詰まるような苦しさを覚え、香澄は海のように広い川の向こうを見て深呼吸をする。

(……佑さんに会いたいな。……今どうしてるんだろう。ちゃんとご飯を食べて、しっかり眠れているといいけど)

 一面の桜のなか空はラベンダー色に染まり、この上なく美しい。

 周囲には大勢の人でごった替えしているのに、自分の今後を思うととてつもない孤独を感じ、思わず溜め息が漏れた。

(ワシントンDCを出たらどこに向かうんだろう。澪さんだって『美人堂』での仕事があるから、いつまでも側にいられない。お二人はずっと行動を共にしていいみたいに言っていたけど、ずっとお世話になるなんてできない)

 揺れる水面を見ながら、香澄は思考に没頭していく。

(これは傷心旅行だと思って、落ち着いたあとは日本に戻って就職先を探さないと。貯金はあるし、怖くて手を着けられてないけど沢山のお金もある。英語やその他の言葉もちょっとだけ話せるし、ある程度の事務スキルもある。八谷で培った対人スキルもあるし、大体の仕事は大丈夫のはず)

 そこまで考えた時、視界の端に何かが映った。

(ん?)

 横を見ると、一輪の赤い薔薇の花が差しだされている。

「えっ?」

 思わず声を出して顔を上げ、――――目を大きく見開いた。
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