上 下
1,524 / 1,544
第二十三部・幸せへ 編

ワシントンDCへ

しおりを挟む
「んもー……。こっちの人、みんなカジュアルな格好をしてますから、周りから浮くようなのは嫌ですからね」

 欧米の人はシンプルにTシャツにジーンズという格好が多く、日本のようにデザインに凝った服を着ている人は少ない印象がある。

 ノーメイクでいるのも当たり前で、日本では「化粧をせずに外出するのは恥ずかしい」と思っている女性が割と多くいるので、少し衝撃的だった。

 双子が出入りするレストランや社交場では、勿論TPOをわきまえた服装をするが、街中や公園を歩く人々についてはとてもカジュアルだ。

 双子は職業柄着る物に気を遣っているが、マティアスを見ていると「暑さ寒さを調節して、着心地がよければいい」という感じが窺える。

 彼らが「幻想的な桜に似合うコーディネートをしたい」と考えるのは感性的に理解するが、その土地に合わせた着こなしをするのも大事だ。

 そう思って意見を言ったのだが、双子は香澄を見てニヤニヤしている。

(う……、嫌な予感……)

 するとアロイスがタブレット端末を掲げ、コーディネートを見せてきた。

 そしてとても嬉しそうに言う。

「じゃーん! 十日間のワシントンDCコーデを考えました! この通りに着てもらいまーす!」

「ええっ!?」

 慌てた香澄はジュースのグラスを置き、立ちあがってアロイスのもとへ行くと、液晶を覗き込む。

 画面には服を着せられたトルソーがあり、画面をスワイプしていくと毎日服装が違う。

 全体的に大人っぽい印象だが、白やベージュ、ベージュピンクなど薄い色が多い。

(狙ってる……)

 もうこの服を着る未来しかないのだと察した香澄は、ガクリと項垂れた。



**



 澪も一緒に双子のプライベートジェットに乗り、ワシントンDCに向かう。

 リカルドは仕事があるらしく、またあとで合流すると言っていた。

 双子たちがアメリカに滞在している間、ショーンは可能な限り面倒を見てくれるらしく、『あとから僕もワシントンDCに向かう』と言っていた。

 ワシントン・ダレス国際空港に降り立ったあと、一時間近くかけて市内へ向かう。

 ワシントンDCはY字の川に挟まれた土地で、地図上で見て西側の川が桜祭りが行われるポトマック川となる。

 川べりにはリンカーン記念堂があり、そこからまっすぐ東に向けて、大通公園を思わせる長大な公園が続き、国会議事堂に至る。

 中ほどにあるワシントン記念塔から北へ向かうと、ホワイトハウスがある。

 公園添いには博物館や美術館が多くあり、ホワイトハウスのさらに北にあるラファイエット広場は高級ホテルに囲まれている。

 ショーンのホテルは川沿いにある商業施設に近い場所にあり、香澄たちはそこにチェックインした。

 アメリカ合衆国の国旗が掲げられた白壁のホテルに入ると、CEOからはすでに連絡があり、到着するなりウェルカムスイーツやドリンクを出され、VIP待遇を受ける。

 ロビーは天井が高く窓から緑の多い庭が見え、品のいいベージュのソファには富裕層と思える人々が座っていた。

 手入れされた絨毯はフカフカで、足音がしないと思えるほどだ。

 頭上にある豪奢なシャンデリアを見上げてポケーッとしていると、澪にパシャッと写真を撮られてしまった。

「口開いてた」

 からかうように言われ、香澄は照れ笑いをする。

 さすが彼女はこういう場に慣れているらしく、リラックスしてソファに座る姿は自然体だ。

 双子はカジュアルな格好をしているにも関わらず周囲に溶け込んでいて、やはり内面が余裕に出ているのだと感じる。

 やがて通されたスイートルームは、白やベージュを基調としたスッキリとモダンな雰囲気で、雰囲気が少し苦手な香澄はホッと胸を撫で下ろす。

「贅沢を言うようですが、私ヨーロッパのお城みたいなホテルより、モダンなタイプが好きかもしれません」

 ケーキと紅茶をいただきつつ言うと、澪が頷いた。

「ヨーロピアンタイプは歴史が古いから、もともと別の用途で建てた建物をホテルにしてるのよ。昔の作りや装飾を大事にする分、現代人の感覚としては圧迫感があるかもしれないわね。もっとリーズナブルな部屋だったら、もとは使用人が使っていた激せまな部屋もあるわよ」

「へええ……」

 佑に色々連れて行ってもらっている割には知識のなかった香澄は、感心して頷く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

処理中です...