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第二十三部・幸せへ 編
妹が語る兄
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「だから佑はだんだん、特定の人を作らなくなった。〝そう〟したらあとから厄介な事になると分かっているから、最初から災いの芽は撒かないようにしていたのよ。十代の多感な時期だったのに、佑は感情の起伏が少ない少年時代を送ったわ」
澪の話を聞きながら、香澄は勇斗たちと会った時の事を思いだしていた。
御劔伝説を教えてもらったが、聞くだけでも大変そうだったのに、当の本人はどんな想いだったのだろう……と思うと、溜め息しか出なかった。
「……高校時代は、透子さんに彼女役をお願いしてたんでしたっけ」
「そうそう。聞いてた? 『そうしてまで女避けをしたいのか』って内心で突っ込んだけど、そこまでしないとならない状況だったのよね。……てか、前島さん、あからさまに佑の事を好きだったけど、あれで彼女の気持ちに気づいてないの凄いわよね。だから同性からは『モテ男の嫌みか』って嫌われるのよ。……傍から見て、気の毒だったわ。女子からは望まない想いを向けられ、男子からは本意ではない理由で嫌われて……」
「〝御劔社長〟になっても、誤解されたままでしたね」
「そう。前島さんの気持ちには気づかないまま、佑はほぼ恋愛経験がない状態で社会人になり、ビッグネームとなっていった。……そこで、あなたには悪いけど、朝丘美智瑠が出てくる」
気遣われ、香澄は小さく微笑むと「気にしないでください」と首を横に振る。
「あの女との事は、大体聞いているわよね?」
「はい。白金台の家を出る前は、あの家にも現れて直接顔を見ました」
「~~~~、あのいまいましい女!」
澪は大きく舌打ちをしてから、気持ちを落ち着かせるように溜め息をつく。
「……とにかく、あの女で失敗してから、佑はどこかおかしくなってしまったわ。朝丘美智瑠が初めてまともに付き合う相手といって良かった。でもあの女は『自分が一番佑を思ってます』って顔をした、ただの野心家だった。あいつは化けの皮を剥がされるのを嫌ったから、私とママに嫌われたのよ。もっと香澄さんみたいに、裏表なく接してくれたら、私とママも心を開いたかもしれない。……でもあの女の笑顔も言葉も、全部嘘っぽかった。文字通り〝色んな〟人を見てきた私たちは、あの女がどういう奴かすぐに見破ったのよ」
暗闇のなか、澪は溜め息をついて髪を掻き上げる。
「佑はあの女を心から愛してはいなかった。そこまで愛というものを知らなかったし、どうしたら普通の恋愛ができるか分からずにいた。でも、初めて心の中に入れた相手が朝丘美智瑠なのは確かなのよ。体調を崩した時にあの女に浮気され、会社からも去られて、……佑は物凄いショックを受けたわ。口には出さなかったけど、『だから女を信じるとこうなるんだ』って言っているようだった」
当時の佑の苦しみを想像し、香澄も思わず溜め息をつく。
「そのあと、佑は心にできた穴を埋めるように、手当たり次第女と付き合っていった。佑はちゃんと相手を見極めていたつもりだろうけど、私たちから見たら破れかぶれだったわ。いつものちゃんとした佑なら、NOZOMIなんかに引っ掛からないもの」
香澄はクリスマスイベントの時に自分を襲ってきた彼女を思い出し、無意識に腰に手をやる。
「人は〝御劔佑〟を『若くして成功した、莫大な資産を持つ美貌のサラブレッド』と呼ぶわ。どこにも欠点がなくて、何にも困っていないパーフェクトな人だと思い込んでいる。……でも実際の佑は、沢山傷付いてまともに恋愛ができなくなった可哀想な人よ。……話は振り出しに戻るけど、そんな佑がようやく見つけた〝相手〟だから、彼は香澄さんに過保護になるの」
「……そうですね」
澪が話した出来事を、香澄は直接佑から聞き、彼の親友たちからも打ち明けられていた。
でもこうして一連の事を繋げて話されると、佑がいかにまともに恋愛をせずに過ごしてきたかを改めて知った。
「あなたは佑にとってとても大事な人なの。やっと見つけた信頼できる女性で、童貞臭い愛情を全力で傾けても、嫌な顔をせずに受け入れてくれる女神みたいな人。……香澄さんの為人を知って、私たちも安心したわ。過度に高価な贈り物をされて、感覚を狂わせ、性格まで変わってしまう人は多い。でも香澄さんはずっと変わらなかった。……最初は佑が香澄さんを札幌から連れてきて、いきなり同棲を始めたと聞いて、『なにやってんだ、あの童貞!』って思ったわよ。凄く心配だった」
「あはは、童貞じゃないですけど……」
「いいのよ。行動も言動も童貞臭いわ」
吐き捨てるように言ってから、澪は香澄の手を握った。
「佑はあなたの運命をねじ曲げ、結婚してすべての責任を請け負うつもりでいながら……、予期せぬ形で失敗してしまった。……それでも、待つの?」
尋ねられ、香澄は微笑んで澪の手をキュッと握った。
「……本当に待ってほしくなかったら、こんな話しませんよ? 澪さんは佑さんを突き放しているように見えて、心の底では記憶を取り戻した彼と、私が幸せになる事を願ってくれている」
初めて澪に出会った時から、彼女の事を「素直になれない人」と感じていた。
今、澪が佑の事を理由ありきで語ったように、彼女にも〝事情〟があるのだろう。
澪の話を聞きながら、香澄は勇斗たちと会った時の事を思いだしていた。
御劔伝説を教えてもらったが、聞くだけでも大変そうだったのに、当の本人はどんな想いだったのだろう……と思うと、溜め息しか出なかった。
「……高校時代は、透子さんに彼女役をお願いしてたんでしたっけ」
「そうそう。聞いてた? 『そうしてまで女避けをしたいのか』って内心で突っ込んだけど、そこまでしないとならない状況だったのよね。……てか、前島さん、あからさまに佑の事を好きだったけど、あれで彼女の気持ちに気づいてないの凄いわよね。だから同性からは『モテ男の嫌みか』って嫌われるのよ。……傍から見て、気の毒だったわ。女子からは望まない想いを向けられ、男子からは本意ではない理由で嫌われて……」
「〝御劔社長〟になっても、誤解されたままでしたね」
「そう。前島さんの気持ちには気づかないまま、佑はほぼ恋愛経験がない状態で社会人になり、ビッグネームとなっていった。……そこで、あなたには悪いけど、朝丘美智瑠が出てくる」
気遣われ、香澄は小さく微笑むと「気にしないでください」と首を横に振る。
「あの女との事は、大体聞いているわよね?」
「はい。白金台の家を出る前は、あの家にも現れて直接顔を見ました」
「~~~~、あのいまいましい女!」
澪は大きく舌打ちをしてから、気持ちを落ち着かせるように溜め息をつく。
「……とにかく、あの女で失敗してから、佑はどこかおかしくなってしまったわ。朝丘美智瑠が初めてまともに付き合う相手といって良かった。でもあの女は『自分が一番佑を思ってます』って顔をした、ただの野心家だった。あいつは化けの皮を剥がされるのを嫌ったから、私とママに嫌われたのよ。もっと香澄さんみたいに、裏表なく接してくれたら、私とママも心を開いたかもしれない。……でもあの女の笑顔も言葉も、全部嘘っぽかった。文字通り〝色んな〟人を見てきた私たちは、あの女がどういう奴かすぐに見破ったのよ」
暗闇のなか、澪は溜め息をついて髪を掻き上げる。
「佑はあの女を心から愛してはいなかった。そこまで愛というものを知らなかったし、どうしたら普通の恋愛ができるか分からずにいた。でも、初めて心の中に入れた相手が朝丘美智瑠なのは確かなのよ。体調を崩した時にあの女に浮気され、会社からも去られて、……佑は物凄いショックを受けたわ。口には出さなかったけど、『だから女を信じるとこうなるんだ』って言っているようだった」
当時の佑の苦しみを想像し、香澄も思わず溜め息をつく。
「そのあと、佑は心にできた穴を埋めるように、手当たり次第女と付き合っていった。佑はちゃんと相手を見極めていたつもりだろうけど、私たちから見たら破れかぶれだったわ。いつものちゃんとした佑なら、NOZOMIなんかに引っ掛からないもの」
香澄はクリスマスイベントの時に自分を襲ってきた彼女を思い出し、無意識に腰に手をやる。
「人は〝御劔佑〟を『若くして成功した、莫大な資産を持つ美貌のサラブレッド』と呼ぶわ。どこにも欠点がなくて、何にも困っていないパーフェクトな人だと思い込んでいる。……でも実際の佑は、沢山傷付いてまともに恋愛ができなくなった可哀想な人よ。……話は振り出しに戻るけど、そんな佑がようやく見つけた〝相手〟だから、彼は香澄さんに過保護になるの」
「……そうですね」
澪が話した出来事を、香澄は直接佑から聞き、彼の親友たちからも打ち明けられていた。
でもこうして一連の事を繋げて話されると、佑がいかにまともに恋愛をせずに過ごしてきたかを改めて知った。
「あなたは佑にとってとても大事な人なの。やっと見つけた信頼できる女性で、童貞臭い愛情を全力で傾けても、嫌な顔をせずに受け入れてくれる女神みたいな人。……香澄さんの為人を知って、私たちも安心したわ。過度に高価な贈り物をされて、感覚を狂わせ、性格まで変わってしまう人は多い。でも香澄さんはずっと変わらなかった。……最初は佑が香澄さんを札幌から連れてきて、いきなり同棲を始めたと聞いて、『なにやってんだ、あの童貞!』って思ったわよ。凄く心配だった」
「あはは、童貞じゃないですけど……」
「いいのよ。行動も言動も童貞臭いわ」
吐き捨てるように言ってから、澪は香澄の手を握った。
「佑はあなたの運命をねじ曲げ、結婚してすべての責任を請け負うつもりでいながら……、予期せぬ形で失敗してしまった。……それでも、待つの?」
尋ねられ、香澄は微笑んで澪の手をキュッと握った。
「……本当に待ってほしくなかったら、こんな話しませんよ? 澪さんは佑さんを突き放しているように見えて、心の底では記憶を取り戻した彼と、私が幸せになる事を願ってくれている」
初めて澪に出会った時から、彼女の事を「素直になれない人」と感じていた。
今、澪が佑の事を理由ありきで語ったように、彼女にも〝事情〟があるのだろう。
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