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第二十三部・幸せへ 編
学びとするんだ
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「それにね、佑。一度犯罪に手を染めた人間に、綺麗な約束を求めるのは難しいわ。日本の再犯率はおよそ五十パーセント、ドイツの再犯率は約七十五パーセント。加えて薬も関わっているようでは、彼女に自制心を求めるのは酷というものよ。中には心を入れ替えて更生する人もいる。……でも〝これ〟を見てそう思える?」
祖母に言われ、佑は小さく首を横に振った。
その時、アドラーが深い溜め息をついて言った。
「佑、学びとするんだ。世の中には決して分かり合えない、自分の意見を一割も聞いてくれない人がいる。誰かの言った事を素直に捉えず、自分の都合のいいように受け取る者もいるし、常に被害者ぶった受け取り方をする者もいる。こちらには敵意がないのに、何をしても、どんなに下手に出ても敵意を剥き出しにしてくる者もいる。『話せば分かってくれる』という思いは、ある意味驕りなんだ」
祖父の言葉を聞き、佑は溜め息をつく。
「……これでも沢山痛い目に遭ったから分かっているつもりだ。……俺はただ、俺と香澄の平和のために、二度と関わらないと誓ってほしいだけだったんだが……、甘かったな」
一度は徹底的に潰した相手だというのに、自分の中にまだ甘い考えがある事に、思わず苦笑してしまう。
『ここはうるさいから、場所を変えようか』
ガブリエルに言われ、佑は『そうだな』と頷き、エミリアの部屋をあとにした。
『ガブリエル、改めて頼む。あいつを二度と外に出さないでくれ』
応接室に戻った佑は、頭を下げて城の主に頼んだ。
『分かっている。私ももとより約束を違えるつもりはなかったが、自分の認識が甘かった事に気づいたし、妻が予想以上の悪党だという事も理解した。二度と同じミスはしない』
『あなたを信頼する』
『それから、もう一つ伝えておく事がある』
そう言ったあと、ガブリエルは弁護士に視線をやった。
**
夜、NYのホテルで香澄は澪と同じベッドに寝ていた。
『佑の邪魔がない今こそ、香澄さんと女子会したい!』
そう言って、澪は小さな荷物を持って部屋にやってきたのだ。
夜までショーンの部屋で食べては飲んで騒いだあと、全員解散し、双子たちも今は自分たちの部屋にいる。
「……香澄さん、こんな事になってごめんね」
薄暗い中、澪は香澄の手を握って謝ってくる。
「いいえ、誰も謝る必要はないんです」
彼女の謝罪を聞いた香澄は、「優しい人だな」と胸の奥が温かくなるのを感じた。
「私、こうして生きていて、佑さんも刺されたのに奇跡的に軽傷で済んだ事が、奇跡だと思っているんです」
香澄は暗い天井を見上げ、小さく微笑む。
「佑さんは会社だけでなく、世界にとって必要な人です。彼のファンだって大勢いるし、佑さんという推しが生きているから、今日も頑張れる人もいます」
そう言って思い出したのは、ルカの姉パオラの顔だ。
ローマでフィオーレ家に遊びに行った時、佑に合った彼女のはしゃぎようを鮮明に覚えている。
「……香澄さんはいつも、誰かが喜んでいたらいいんだね」
澪の悲しそうな声を聞き、香澄は切なげに笑う。
「……私、本当はずっと昔に壊れてしまっているです。初めての彼氏に意に沿わない事をされて心に大きな傷を負ってから、自分の価値はないと思ってしまっているんです」
詳細はぼかしたが、内容を察した澪は怒りを滲ませた溜め息をつく。
「それまでは家族と親友がいたから何とかなっていて、佑さんと出会ってからは、彼のお陰で『こんな私でも人に愛されて幸せを感じていいんだ』って思えるようになりました。佑さんは私の心も尊厳も、優しくすくい上げてくれた、神様みたいな人なんです」
香澄は世界で一番大切な人の顔を思い浮かべ、微笑むと静かに涙を流す。
「だから、今度は私が佑さんにお返しをする番なんです。彼が苦しいというなら、側を離れる事だって必要だと割り切れる。彼から離れる事で、私は佑さんを守っているんです」
澪はそう言った香澄を抱き締めてきた。
「強がらなくていいんだよ」
いつも強気な澪の優しい声に、グッときてしまう。
「……強がってません」
「自分を犠牲にしてまで、誰かの幸せを願わなくていいんだよ。冷たい言い方をすれば、香澄さんは佑の婚約者だけど、まだ結婚してない。法的な拘束力もないんだし、そこまで佑に身を捧げる必要はないの」
その言葉を聞き、香澄はゆるりと首を横に振る。
「……そんな事、言わないでください」
せっかく親しくなれた澪に突き放された気持ちになり、香澄は悲しい顔をする。
彼女の声を聞き、澪は香澄の頭を優しく撫でた。
祖母に言われ、佑は小さく首を横に振った。
その時、アドラーが深い溜め息をついて言った。
「佑、学びとするんだ。世の中には決して分かり合えない、自分の意見を一割も聞いてくれない人がいる。誰かの言った事を素直に捉えず、自分の都合のいいように受け取る者もいるし、常に被害者ぶった受け取り方をする者もいる。こちらには敵意がないのに、何をしても、どんなに下手に出ても敵意を剥き出しにしてくる者もいる。『話せば分かってくれる』という思いは、ある意味驕りなんだ」
祖父の言葉を聞き、佑は溜め息をつく。
「……これでも沢山痛い目に遭ったから分かっているつもりだ。……俺はただ、俺と香澄の平和のために、二度と関わらないと誓ってほしいだけだったんだが……、甘かったな」
一度は徹底的に潰した相手だというのに、自分の中にまだ甘い考えがある事に、思わず苦笑してしまう。
『ここはうるさいから、場所を変えようか』
ガブリエルに言われ、佑は『そうだな』と頷き、エミリアの部屋をあとにした。
『ガブリエル、改めて頼む。あいつを二度と外に出さないでくれ』
応接室に戻った佑は、頭を下げて城の主に頼んだ。
『分かっている。私ももとより約束を違えるつもりはなかったが、自分の認識が甘かった事に気づいたし、妻が予想以上の悪党だという事も理解した。二度と同じミスはしない』
『あなたを信頼する』
『それから、もう一つ伝えておく事がある』
そう言ったあと、ガブリエルは弁護士に視線をやった。
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夜、NYのホテルで香澄は澪と同じベッドに寝ていた。
『佑の邪魔がない今こそ、香澄さんと女子会したい!』
そう言って、澪は小さな荷物を持って部屋にやってきたのだ。
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「……香澄さん、こんな事になってごめんね」
薄暗い中、澪は香澄の手を握って謝ってくる。
「いいえ、誰も謝る必要はないんです」
彼女の謝罪を聞いた香澄は、「優しい人だな」と胸の奥が温かくなるのを感じた。
「私、こうして生きていて、佑さんも刺されたのに奇跡的に軽傷で済んだ事が、奇跡だと思っているんです」
香澄は暗い天井を見上げ、小さく微笑む。
「佑さんは会社だけでなく、世界にとって必要な人です。彼のファンだって大勢いるし、佑さんという推しが生きているから、今日も頑張れる人もいます」
そう言って思い出したのは、ルカの姉パオラの顔だ。
ローマでフィオーレ家に遊びに行った時、佑に合った彼女のはしゃぎようを鮮明に覚えている。
「……香澄さんはいつも、誰かが喜んでいたらいいんだね」
澪の悲しそうな声を聞き、香澄は切なげに笑う。
「……私、本当はずっと昔に壊れてしまっているです。初めての彼氏に意に沿わない事をされて心に大きな傷を負ってから、自分の価値はないと思ってしまっているんです」
詳細はぼかしたが、内容を察した澪は怒りを滲ませた溜め息をつく。
「それまでは家族と親友がいたから何とかなっていて、佑さんと出会ってからは、彼のお陰で『こんな私でも人に愛されて幸せを感じていいんだ』って思えるようになりました。佑さんは私の心も尊厳も、優しくすくい上げてくれた、神様みたいな人なんです」
香澄は世界で一番大切な人の顔を思い浮かべ、微笑むと静かに涙を流す。
「だから、今度は私が佑さんにお返しをする番なんです。彼が苦しいというなら、側を離れる事だって必要だと割り切れる。彼から離れる事で、私は佑さんを守っているんです」
澪はそう言った香澄を抱き締めてきた。
「強がらなくていいんだよ」
いつも強気な澪の優しい声に、グッときてしまう。
「……強がってません」
「自分を犠牲にしてまで、誰かの幸せを願わなくていいんだよ。冷たい言い方をすれば、香澄さんは佑の婚約者だけど、まだ結婚してない。法的な拘束力もないんだし、そこまで佑に身を捧げる必要はないの」
その言葉を聞き、香澄はゆるりと首を横に振る。
「……そんな事、言わないでください」
せっかく親しくなれた澪に突き放された気持ちになり、香澄は悲しい顔をする。
彼女の声を聞き、澪は香澄の頭を優しく撫でた。
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