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第二十三部・幸せへ 編

佑からの電話

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『こ、こんにちは。初めまして』

 香澄はとっさに挨拶をし、目を丸くして彼を見つめる。

(この人がリアムさんか)

 フェイスツールの創始者らしい彼は、黒髪で髭を生やしたイケメンで、青い目をしていた。

 光沢のあるスーツを着こなし、腕時計やシグネットリングも高価そうで、存在そのものが洒落ている。

「はじめまして、……カスミ?」

 日本語で挨拶され、香澄はパッと笑顔になる。

「日本語、お上手ですね」

「ミオに教えてもらったんだ。『日本語が話せないと付き合わない』って言われたから」

「澪さん、ひゅー」

「口で言わない」

 冷やかそうとすると、澪がジロリと睨んで突っ込んできた。

「じゃ、そろそろショーンの部屋に行ってようか。テオたちは庭みたいなもんだから、放っておいても来るだろうし」

 クラウスに言われ、香澄たちはロビーを横切ってエレベーターホールに向かった。





 コンシェルジュに話をして案内された特別なエレベーターに乗り、着いたのは最上階だ。

「ここはショーンの根城だよ。本当は豪邸を持ってるし、世界各国に別荘もあるんだけど、大体自分のホテルで済ましちゃうんだって。立地がいいから何かと便利らしい」

 アロイスが説明しながら部屋の入り口に向かった時、彼のスマホが鳴る。

「先行ってて」

 彼は明るく言い、香澄たちはクラウスに先導されて部屋の中に入った。

 ドアが閉まるのを見てから、アロイスは真顔になると電話に出る。

「……もしもし」

《アロイスか? 今どこにいる?》

 電話を掛けてきたのは佑だ。

「さぁね」

 すっとぼけると、電話の向こうで佑が苛立って溜め息をついたのが分かった。

「そっち、もう寝る時間じゃん。おやすみ」

 そう言って電話を切ろうとすると、《待て!》と佑が声を掛けてくる。

 アロイスは溜め息をつき、廊下にある椅子に座り脚を組んだ。

「今さら何? お前がカスミを要らないって言ったんだろ」

《……っ違う……っ! 思い出したんだ! …………っ頼む! 会わせてくれ! 酷い事を言ったのを謝りたいんだ!》

「遅いんだよ」

 せせら笑いながらも、アロイスは眉間に皺を寄せ苦しげな表情をしている。

「この先、同じ事が起こらないって言えるか? あの子をどれだけ苦しめるんだよ。ただでさえお前を選んで、つまんない奴らから嫉妬されてんのに、特大級のヤベー奴から加害されて、ボロボロになってるよ。なのにまだ自分と一緒に歩めっていうのか? 鬼畜かよ」

《幸せにする!》

 血を吐くような声を聞き、アロイスは唇を引き結ぶ。

《……っ、頼む……っ、……香澄がいないと駄目なんだ。彼女がいないと生きていけない》

 アロイスはスマホを顔から少し離し、溜め息をつく。

「…………お前がカスミを大事に思ってるのは分かるよ。フリーの時と随分変わったし。カスミを見る目が凄く愛しそうで、本当に恋してるんだなって分かった」

《なら……》

 悲しげな佑の声を聞き、アロイスは香澄が入っていったドアを見る。

「人ってさ、つらい目に遭った時に本性が出るんだよ。まぁ、お前の場合記憶を失ったから、カスミに当たり散らした訳じゃない。どうせカスミを見てるとつらい事を思い出しそうで頭痛が起きたんだろ? それぐらい分かってるよ。お前も一連の事で相当のダメージを受けたと思ってるし」

 アロイスが理解する事を言い始めたので、電話の向こうの佑は期待しているのか黙って話を聞いている。

「お前がカスミを遠ざけてしまった事を、百歩譲って仕方がないとする。……でも俺たちはもう、あの子が悲しむ姿を見たくないんだよ。ボロボロになっても必死に笑顔でいい子でいようとして、傷付いてるのに人を気遣って、前向きに考えようとして……。俺たち、まあまあヒトデナシなところはあるけど、あの子だけは特別だ。人を疑う事を知らない子供か、子猫か子犬でも見てるような気分になって、酷い目に遭う姿を見ると胸がズタズタに引き裂かれる想いになるんだ」

《……お前たちを傷つけた事も詫びる……》

「俺たちはどうでもいいんだよ」

《俺は明日、オーパたちと一緒にランスに向かい、ガブリエルやエミリアと話をつけてくる》

 佑の言葉を聞き、アロイスは何度か頷く。

「そうするといいよ。諸悪の根源を絶たないと、同じ悲劇を繰り返す」

 溜め息をついた時、ドアが開いて香澄が顔を覗かせた。
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