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第二十三部・幸せへ 編

イースターと桜

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「じゃあ、このままここで待ってようか」

「はい」

 ロビーのソファに座っている香澄は、これから初対面の人含め、大勢の人に会う事を考えて胸を高鳴らせる。

 アロイスとクラウスはくだらない雑談をしていたが、不意に尋ねてきた。

「カスミ、桜好き?」

「はい! ものすっごい好きです」

 アロイスに尋ねられ、香澄はコクンと頷いた。

「どれぐらい好き? プレゼンしてみ? はい、スタート!」

 クラウスがパンッと手を叩き、香澄は「えっえっ?」とうろたえてから、精一杯プレゼンをスタートした。

「私、雪国生まれ雪国育ちなので、冬が長いんです。本州では一か月早くお花が咲いているのをネットで見て、まだかな、まだかなと思ってじれじれしてるから、余計に札幌で桜が咲くのが待ち遠しく思えます。白っぽかったりピンクだったり、儚い雰囲気の花がワッと咲いて、散っていく姿もいとおしくて、よく春は別れと出会いの季節って言うけど、それを象徴するのに相応しい花かなと思っています」

 そこまで言ってから必死に続きを考え、ハッと思いついてどや顔で言う。

「桜餅も大好きです!」

 言った瞬間、二人が噴きだした。

「この時期になったら色んな所で桜フェアするから、季節限定の桜メニューは全部制覇したくなります。アフタヌーンティーも最高。あと桜のグッズも大好き。ピンクで可愛いし、つい集めちゃいます」

 言い切ったあと、双子はパチパチと拍手しながら、笑いすぎて滲み出た涙を拭う。

「僕らはさ、この時期になるとイースターなんだよね」

「ああ、卵を探すやつと……うさぎ?」

 言ってから自分の事を言ってるような気がして、少しだけ赤面してしまう。

「……っていうか、イースターって何日でしたっけ? ざっくりと春にあるっていうのは認識しているんですが」

 首を傾げると、アロイスが答えた。

「キリストが刑死した日から、復活した日を記念するお祭りなんだ。イースターバニーは野うさぎの事で、多産である事から幸福のシンボルとなった。宗教画でもうさぎは描かれてるし、神話にも出てくるね。イースターバニーは卵を色んなところに隠すから、子供たちが幸運探しとしてエッグハントをするんだ」

「うさぎなのに、卵なんですか?」

「キリストが処刑されて三日目、墓を見てみたら空っぽでキリストが復活してた。そのお祝いとして教会で礼拝が行われて、綺麗に絵付けされた卵が配られた……らしい」

「ほう……」

「そんでカスミの質問に戻るけど、イースターの日付は変動制なんだ。それに西方教会と東方教会でも厳密には違うね。多くのところでは太陽暦――グレゴリオ暦を使って、春分の日のあとの、最初の満月の次の日曜日……がイースターなんだ。ちょっと何言ってるか分かんないでしょ」

「はい」

 まじめな顔で頷くと、双子は破顔する。

「宗教とかそういう関係で、こっちには変動制の祝日が結構あるんだよ。で、イースターってなるとアメリカではイースターエッグロールをやるし、イギリスではパンケーキリレー、フランスでは巨大オムレツ作り、ノルウェーではトナカイレース……とか、色々お祭りがあるね」

「あ、テレビのお祭り企画で見た事あります」

 香澄は日曜夜にやっている、大好きなバラエティ番組を思い出す。

「で、さっきの桜の話に戻るけど、ワシントンDCで桜祭りやるから、もう少ししたらあっち行かない? ついでにイースターの雰囲気も楽しんだらいいと思うし」

「行きます! ワシントンの桜って有名ですよね。知ってはいるんですが、見た事はなくて」

「桜が幻想的に咲くなかで佇むカスミ、綺麗だろうなぁ~」

「そうそう、白いワンピースとか着せたくなるね!」

 双子がキャッキャと盛り上がり、いつもの彼らに香澄は生ぬるい笑みを浮かべる。

 その時、ホテルの出入り口から澪が入ってきて、「香澄さん!」と駆けよってきた。

「わ、わ~! 澪さん……、んっ」

 立ちあがって迎えようとしたところ、澪がぶつかるように抱きついてきて、香澄は片足を下げて衝撃に耐える。

「……無事で良かった……」

 心底……という感じで言う彼女が心配してくれたのを知り、香澄は微笑んで澪を抱き締めた。

 ……と、彼女の後ろからやってきた長身の男性が「Hi!」と挨拶してきた。
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