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第二十二部・岐路 編

NYのホテル

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 車が停まったのは、マンハッタンのアッパーウエストサイドにあるホテルで、すぐ近くには有名なカーネギーホールがある。

 ロビーは磨き上げられたクリーム色の大理石の床に、シャンデリアの明かりが反射している。

 フロントカウンターもクリーム色の大理石で、様々な人種のフロントスタッフの後ろには、高級感のあるブラウンの壁にホテル名が描かれたエンブレムが刻まれてあった。

 ロビーのソファもブラウンで統一され、クッションはシャンパンゴールドだ。

 耳を澄ますと多国籍な言葉が聞こえ、今まで双子と日本語で話していたので頭の切り替えが必要になる。

「ベルタが手続きするから、座って待ってよーね」

 アロイスに言われ、香澄はとりあえず空いているソファに腰かけた。

 ベルタと一緒に久住もフロントに向かい、どのような部屋割りになるのか確認してくれている。

「あの、私の他にも皆さんの部屋もとってくださったんですか?」

 尋ねると、クラウスが頷く。

「うん。ここ、友達のホテルだし融通利くんだよね」

 そう言われると、佑が以前に言っていた言葉を思い出した。

『一流ホテルはVIPがいつどんな用事があっても受け入れられるよう、ある程度部屋を空けているものなんだ。絶対に満室にはしない』

(そうだね、佑さん)

 香澄は心の中で返事をする。

 一般人として生活していたなら、こんな知識を得る事もなかっただろう。

 憧れ半分に世界旅行のテレビ番組や、動画配信者が高級ホテルに宿泊している動画を見て『こんな世界があるんだ』と思うのが関の山だ。

(なのに気がついたらこんなところにいて、私の手を握って大きな世界に引っ張り出してくれた人は、……隣にいない)

 ――ここに佑さんがいたら、どんな会話をしていただろう。

 ――彼の事だから、私の好きなものをすでにリサーチしてくれたかもしれない。

 ――そんな事をしなくても、佑さんといられるだけで十分幸せなのに、あの人は全力で私を喜ばそうとするんだもんな。

 微笑もうとするが、目の奥が熱くなり泣きそうになってしまう。

(ダメダメ。佑さんの事を考えたら泣いちゃうから、ちゃんと目の前の事に集中しないと。一緒にいるお二人にも失礼だ)

 香澄がぼんやりとロビーを眺めている間、双子はNY滞在中のスケジュールについて話し合い、テオにも現地に着いた事を知らせていた。

 やがてベルタと久住がスタッフと共に戻り、そのままエレベーターホールに向かった。





「凄い……。こんな大都会の真ん中にあんなに大きな公園があるなんて」

 車でセントラルパークの側を通った時も「大きな公園だな」とは思ったが、高層ビルの上から見下ろすとまた印象が違う。

 香澄は日差しが差し込むリビングダイニングからの眺めを、窓辺でポーッと見ている。

 そんな彼女にクラウスが話しかけてきた。

「カスミ、一人部屋のほうがいい? 何かと不便なら僕たちと一緒に……」

「それはいけませんよ? クラウス様」

 言いかけたクラウスの言葉を久住が遮り、彼はさりげなく香澄の前に立ってニコニコと微笑む。

「チッ、冗談だけどさぁ~」

 クラウスは残念そうに舌打ちするものの、彼がそう言うのも理解できる。

 香澄が一人で泊まるには、部屋があまりに広すぎるのだ。

 いつも思うのだが、普通のツイン、もしくはダブルで大丈夫なのに、やたらと部屋数がある。

 今いるリビングダイニングの他にキッチンもあり、キングサイズのベッドがある寝室が二つもある。

 それぞれのベッドルームにはバスルームとトイレがある上、さらに入り口近くにトイレがある。

(……こんなにおトイレいらない……)

 素直にそう思ってしまったが、双子が友人に頼んで融通を利かせてもらった部屋に、文句をつけられない。

 どうやら同じフロアの似た作りの部屋に、双子や秘書たち、久住たちや双子のボディガードたちも泊まるようだ。

「本当は俺たち、NYに住まいを持ってるんだけど、ショーンが是非泊まりにきてほしいって言ったから、ホテルにしたワケ。そのうちあいつとディナーを一緒すると思うけど、いいよね?」

(なるほど。『いいよね?』)

 事後報告なのにまったく悪びれない双子の通常運転に、香澄は生ぬるく微笑みながら「勿論です」と快諾した。
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