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第二十二部・岐路 編

途切れた赤い糸

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【香澄と一緒にいるのか!? どこにいる!?】

『あはは、焦ってら。あ、そうだ。クラ、カスミのスマホの位置情報関係、全部オフにしといて』

『OK!』

 クラウスは返事をしたあと、すぐにスマホを手にして操作し始め、久住と佐野に声を掛けた。

「ちょっとそこの二人、カスミが戻ってこないように時間稼ぎして!」

「は、はい!」

「世間話でもなんでもいいから、気づかせないように工夫してね!」

「分かりました!」

 二人とも、本来なら一刻も早く、香澄を佑に会わせないといけない役目を負っている。

 だが深く考えるより前に、双子の勢いに押されて慌ててラウンジを出てしまった。

 そんな二人が『……あれ?』となるのは、充分時間稼ぎをして香澄が双子のもとに戻ったあとである。



**



 佑は呆然としてスマホの液晶画面を見る。

(……待て。情報を整理しろ……)

 片手で額を押さえて冷静になろうとするが、うまく考えが纏まらない。

 コネクターナウの、双子とのトークルームの最後にはこうある。

【あれだけカスミを酷く扱ったお前に、今さら優しくする義理なんてねーよ。本当に彼女を愛してると抜かすなら、愛の力とやらで探してみろよ。俺たちはこの件について本当に怒ってる。解決したかったら自分の力で乗り越えな】

 佑は今、香澄が双子と一緒にいる事だけ理解している。

 三人の行き先として思いつくのはドイツだが、そう簡単にはいかないだろう。

(……クラウザー家に協力を求めるしかないか)

 溜め息をついた佑は、覚悟を決める。

 アドラー、特に節子にチクチク言われるのは想定内だ。

 実の母と妹すらあの態度だったのだから、香澄を可愛がっている節子の怒りと孫への失望たるや、想像に余りある。

「それでも、動かないと」

 自分の意志で手放したなら、自分の手で取り戻さないといけない。

 あのうさぎは思っている以上に意地っ張りなところがある。

 特に「佑さんに迷惑をかけたくない」という点では、誰よりも強情だ。

「ちゃんと自分の言葉で伝えて、謝るんだ」

 決意したあと、佑はもう一度香澄に想いを伝えようとした。

 多分、双子から何か言われているだろうが、自分の気持ちだけは伝えておきたい。

 そう思って香澄とのトークルームを開いたのだが――。

【香澄、すまない。どうしても会って謝りたい。俺が愚かだった。申し訳ない。今どこにいるか教えてくれないか?】

 ポンと送信ボタンをタップした途端、画面の中央に赤い糸でできたハートのイラストが出た。

 しかもその糸はハートの真ん中で途切れてしまい、コネクターナウからのメッセージが小さなウィンドウに出る。



【申し訳ございません。糸の向こうには誰もいません】

「は……?」

 こんな表示がされたのは初めてだ。

 何回か同じメッセージを送ろうとしたが、必ず糸の切れたハートのイラストが出てくる。

 慌ててブラウザを開き、『コネクターナウ ハートのイラスト』と検索した。

「え……」

 出てきた説明文を見て、佑は目を見開き口までポカンと開いた。

『【コネクターナウでハートのイラストが出てしまった! その意味と対処法】コネクターナウでメッセージを送信しようとしたのに、こんなイラストが出た事はありませんか? これ、実は相手にブロックされているんです。《ブロックされてます》と表示しないで、こういう表現でワンクッション置くのは、さすがコネクターナウですね!』

「……さすがじゃない。ブロックはブロックだろ」

 佑は思わず低い声で突っ込みを入れる。

『ブロックされてしまったのでこれ以上の対処法はありませんが、少し時間をおいて様子を見てみるのもいいかもしれません。くれぐれも他のSNSでしつこく付きまとってはいけませんよ! 相手に嫌われたかもと思った時は、大人しく引くのもその人のためになるのです』

 知ったような口で書かれているのがなんとも腹が立つが、まったくもってその通りの正論なので、さらに腹が立つ。

(……というか、……香澄にブロックされた……)

 自分で香澄に酷い態度をとっておきながら、佑は胸の奥に鈍く大きな痛みを感じ、胸に手を当ててしゃがみ込んだ。
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