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第二十二部・岐路 編
最後の意地悪
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「NYでしたい事ある?」
「いえ……、特に。初めてなので楽しみではありますが、まずはお二人の用事を優先してください」
口の周りに大福の粉をつけた香澄は、まじめな顔で言う。
それを見て双子はニヤニヤし、スマホを向けてくる。
「……な、なんですか……」
『ちょっと、ちょっと、ベルタ! 紙ある?』
クラウスは笑いながら秘書を呼ぶと、受け取った紙にマジックで何かを書く。
「はい! カスミこれ両手で持って!」
「えぇ……?」
彼らのしたい事が分からず、困惑した香澄は紙に何が書かれているのか見ようとした。
「見ちゃ駄目! いいから!」
「はい……」
(お世話になっている身だし、少しのイタズラに付き合うぐらいいいか)
内心溜め息をついた香澄は、両手でメモを持つ。
それを見た双子は、「ぶふーっ! クスクスクスクス!」と笑い、スマホで写真を撮りまくっていた。
なお、ドイツ語で書かれたメモには【私がお菓子を食べました】と書かれてある。
ちょっと前に双子が信玄餅をつまみ食いした猫の画像を見て、大ウケしたのを香澄は知らない。
「ありがとー!」
撮影が終わったあと、アロイスは香澄にメモを読ませず紙を取り上げ、クシャクシャと丸めてポケットにしまった。
「もぉぉ……」
香澄は頬を膨らませて怒りつつも、自分がいつものように笑えている事に安心した。
そのあとも飛行機内にあるテレビゲームで対戦して遊び、空の上とは思えないほど楽しく過ごす。
「私、ちょっとお手洗い行ってきますね」
もよおした香澄は双子にそう言って、手洗いに立った。
歩いていった香澄を見送り、双子は次に対戦するキャラクターを決めながら話す。
『大分元気になったみたいだね』
『うん。まぁ、強引にでも笑わせていったら、ちょっとは気分がアガるんじゃない? あの子食いしん坊だし、NYで甘い物とかでっけぇ肉食わせたら、もっと喜んでくれるかも』
『そうだね。お決まりの観光地を見せてあげるとか。……あー、今頃ワシントン.D.Cまで行ったら桜咲いてるか』
『ああ、そうだね。カスミ、桜好きって言ってたし日本以外でも見られるって知ったら喜んでくれるかも』
話していた時、テーブルの上に置きっぱなしだった香澄のスマホがピコンと鳴った。
直前までスマホを弄っていたからか、手帳型のケースは開きっぱなしになっている。
双子は思わず画面を見てしまい、液晶画面に表示された信じられない名前に声を上げた。
『えっ!?』
クラウスはとっさにスマホを手に取り、『カスミごめん』と呟く。
香澄はいつもぼんやりとしているので顔認証のタイミングが合わず、暗証番号を入力してスマホを立ち上げる事が多い。
しかも双子の前で無防備に番号を入れているので、彼らはすっかりパスワードを覚えてしまっていた。
普段なら知っていても悪用するつもりはないが、今回はどうしても駄目だった。
『……今の、見たかよ……』
『タスク? マジ?』
双子は顔を見合わせ、目を見開く。
彼らの会話を聞いていた久住と佐野、瀬尾も驚いた表情をしていた。
双子はチラッと手洗いのほうを見る。
香澄の事だから、ついでに化粧直しもしているかもしれない。だがナチュラルメイクなので、そう時間はかからないはずだ。
『ごめん!』
クラウスはもう一度謝ってからコネクターナウを開き、佑とのトークルームを開いた。
【すべて思いだした。申し訳ない。今迎えに行く。どこにいる?】
それを見て、腹の底から激しい怒りがこみ上げてくる。
『……はぁ? ふざけんなよ? さんざん傷つけておいて迎えに行く?』
クラウスは青い目を見開いて低い声で呟き、本能的にパッパッと操作して佑をブロックした。
『……おい、クラ』
アロイスは呆れて笑っている。
『でも、気持ちは分からないでもないな。あいつ、もうちょっと困ればいいよ』
ニヤッと笑ったアロイスは、自分のスマホを操作して佑にメッセージを送った。
【おい、バカヤロウ。本気でカスミを想ってるなら、世界のどこかにいる彼女を見つけてみな。これが俺たちからの最後の意地悪にしてやるよ】
最後に中指を立てた絵文字を入れると、すぐに既読がつき、佑から返事がくる。
「いえ……、特に。初めてなので楽しみではありますが、まずはお二人の用事を優先してください」
口の周りに大福の粉をつけた香澄は、まじめな顔で言う。
それを見て双子はニヤニヤし、スマホを向けてくる。
「……な、なんですか……」
『ちょっと、ちょっと、ベルタ! 紙ある?』
クラウスは笑いながら秘書を呼ぶと、受け取った紙にマジックで何かを書く。
「はい! カスミこれ両手で持って!」
「えぇ……?」
彼らのしたい事が分からず、困惑した香澄は紙に何が書かれているのか見ようとした。
「見ちゃ駄目! いいから!」
「はい……」
(お世話になっている身だし、少しのイタズラに付き合うぐらいいいか)
内心溜め息をついた香澄は、両手でメモを持つ。
それを見た双子は、「ぶふーっ! クスクスクスクス!」と笑い、スマホで写真を撮りまくっていた。
なお、ドイツ語で書かれたメモには【私がお菓子を食べました】と書かれてある。
ちょっと前に双子が信玄餅をつまみ食いした猫の画像を見て、大ウケしたのを香澄は知らない。
「ありがとー!」
撮影が終わったあと、アロイスは香澄にメモを読ませず紙を取り上げ、クシャクシャと丸めてポケットにしまった。
「もぉぉ……」
香澄は頬を膨らませて怒りつつも、自分がいつものように笑えている事に安心した。
そのあとも飛行機内にあるテレビゲームで対戦して遊び、空の上とは思えないほど楽しく過ごす。
「私、ちょっとお手洗い行ってきますね」
もよおした香澄は双子にそう言って、手洗いに立った。
歩いていった香澄を見送り、双子は次に対戦するキャラクターを決めながら話す。
『大分元気になったみたいだね』
『うん。まぁ、強引にでも笑わせていったら、ちょっとは気分がアガるんじゃない? あの子食いしん坊だし、NYで甘い物とかでっけぇ肉食わせたら、もっと喜んでくれるかも』
『そうだね。お決まりの観光地を見せてあげるとか。……あー、今頃ワシントン.D.Cまで行ったら桜咲いてるか』
『ああ、そうだね。カスミ、桜好きって言ってたし日本以外でも見られるって知ったら喜んでくれるかも』
話していた時、テーブルの上に置きっぱなしだった香澄のスマホがピコンと鳴った。
直前までスマホを弄っていたからか、手帳型のケースは開きっぱなしになっている。
双子は思わず画面を見てしまい、液晶画面に表示された信じられない名前に声を上げた。
『えっ!?』
クラウスはとっさにスマホを手に取り、『カスミごめん』と呟く。
香澄はいつもぼんやりとしているので顔認証のタイミングが合わず、暗証番号を入力してスマホを立ち上げる事が多い。
しかも双子の前で無防備に番号を入れているので、彼らはすっかりパスワードを覚えてしまっていた。
普段なら知っていても悪用するつもりはないが、今回はどうしても駄目だった。
『……今の、見たかよ……』
『タスク? マジ?』
双子は顔を見合わせ、目を見開く。
彼らの会話を聞いていた久住と佐野、瀬尾も驚いた表情をしていた。
双子はチラッと手洗いのほうを見る。
香澄の事だから、ついでに化粧直しもしているかもしれない。だがナチュラルメイクなので、そう時間はかからないはずだ。
『ごめん!』
クラウスはもう一度謝ってからコネクターナウを開き、佑とのトークルームを開いた。
【すべて思いだした。申し訳ない。今迎えに行く。どこにいる?】
それを見て、腹の底から激しい怒りがこみ上げてくる。
『……はぁ? ふざけんなよ? さんざん傷つけておいて迎えに行く?』
クラウスは青い目を見開いて低い声で呟き、本能的にパッパッと操作して佑をブロックした。
『……おい、クラ』
アロイスは呆れて笑っている。
『でも、気持ちは分からないでもないな。あいつ、もうちょっと困ればいいよ』
ニヤッと笑ったアロイスは、自分のスマホを操作して佑にメッセージを送った。
【おい、バカヤロウ。本気でカスミを想ってるなら、世界のどこかにいる彼女を見つけてみな。これが俺たちからの最後の意地悪にしてやるよ】
最後に中指を立てた絵文字を入れると、すぐに既読がつき、佑から返事がくる。
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