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第二十二部・岐路 編
今、迎えに行く
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「最後にしようとした時なんて、勃たなかったもんな……」
自嘲した佑は、ゆっくりとウエディングドレスを纏ったトルソーに近づく。
ドレスはすべての素材にこだわり、細部の花飾りや刺繍に至るまで手作りをしている。
このままオートクチュールのラストルックに使えそうな、ゴージャスな一点物だ。
それを着て笑っている香澄を想像し――、グッと拳を握る。
「今、迎えに行く」
涙を流した佑は、震える声で告げた。
彼女に酷い事を言ってしまった侘びはあとでするとして、今は行動すべきだ。
一分一秒だって惜しい。
今すぐ香澄に会って、謝罪し、彼女の愛を乞いたい。
佑はスマホを取りだすと、コネクターナウのアプリを立ち上げ、香澄とのトークルームを開き、少し緊張してメッセージを打った。
思っている事をすべて書こうとすると、言い訳がましく長くなってしまう。
だからとても簡潔に書いた。
【すべて思いだした。申し訳ない。今迎えに行く。どこにいる?】
祈りにも似た想いで画面を見つめていたが、既読はつかない。
「ドイツに向かったはずだ」
呟いた彼は、次に松井に連絡する。
【松井さん、思いだしました。香澄を迎えに行きたいです】
すぐに既読がついたあと、彼らしい返事があった。
【飛行機の整備士とパイロット、スタッフたちに連絡しましょう。準備ができるまでに、行き先を決めておいてください。スケジュールは私が何とかします】
【ありがとうございます】
松井の返事を見たあと、また香澄とのトークルームを開いたが、まだ既読はついていない。
(今日の昼間に発ったなら、まだ機内か? マメな性格だから、機内Wi-Fiもあるし、そのうちスマホをチェックするはずだ)
香澄を想うと、初恋のように胸がドキドキして堪らない。
あの動画を残した事を思うと、彼女が激怒してこちらからの連絡を取り合わない……とは考えられない。
周囲から「何様だ」と言われるかもしれないが、唯一の救いは、香澄は自分にベタ惚れだという事だ。
あんな酷い追い払い方をしてもなお、彼女は自分を健気に想い続けてくれている。
「だから……、あとは信じて行動するのみだ。香澄に会えたら土下座して謝る。……それまでは後悔しても仕方がない。自分がしてしまった愚かな行いは、もう覆せないから」
こんな時まで、香澄の優しさに救われている。
「香澄。……必ず君を幸せにする」
佑はスポットライトを浴びて仄かに輝いているウエディングドレスを見て、彼女が着ている様子を想像し――、微笑む。
それから表情を引き締め、荷造りするために自室へ駆け上がった。
時刻は二十三時過ぎ。
これから整備士たちに連絡しても、フライトは明日の午前中になってしまうだろう。
気持ちはこれ以上なく急いていても、飛行機に関してはプロの手に委ねなければならない。
まず自分のコンディションを整え、リモートでもできる仕事やそうでないものを松井に教えてもらわなければ。
「待っていてくれ、香澄」
**
「いや~、カスミ、行き先変わってごめんね!」
「いえ、私はお二人に合わせるだけなので。それに私のお願いも聞いてくださって、ありがとうございます」
車で羽田空港に向かう途中で、双子のもとに仕事関係の連絡があった。
そして急遽、NYに向かう事になったのだ。
NYは、以前アフロディーテ号で世話になった、テオやソフィア、ジョシュアにシャーロットが住んでいる街だ。
彼らもパリコレに来ていて、テオはエミリアと浅からぬ因縁があるので、あの事件があったあとすぐにNYに引き返したそうだ。
『テオさん達には、まだまともに顔を合わせてお礼を言えていないんです』と言ったところ、『じゃあついでにテオ達にも会おうか』と提案されたのだ。
双子はデパ地下で買ったお菓子を広げ、日持ちのしない物からパクパク食べている。
日本茶や日本ブランドの紅茶も仕入れ、お菓子に合わせて飲んでいるのでさすがだ。
ベルタやフィン、久住に佐野、勢野も一緒になっておやつタイムを送り、機内は実に和やかだ。
自嘲した佑は、ゆっくりとウエディングドレスを纏ったトルソーに近づく。
ドレスはすべての素材にこだわり、細部の花飾りや刺繍に至るまで手作りをしている。
このままオートクチュールのラストルックに使えそうな、ゴージャスな一点物だ。
それを着て笑っている香澄を想像し――、グッと拳を握る。
「今、迎えに行く」
涙を流した佑は、震える声で告げた。
彼女に酷い事を言ってしまった侘びはあとでするとして、今は行動すべきだ。
一分一秒だって惜しい。
今すぐ香澄に会って、謝罪し、彼女の愛を乞いたい。
佑はスマホを取りだすと、コネクターナウのアプリを立ち上げ、香澄とのトークルームを開き、少し緊張してメッセージを打った。
思っている事をすべて書こうとすると、言い訳がましく長くなってしまう。
だからとても簡潔に書いた。
【すべて思いだした。申し訳ない。今迎えに行く。どこにいる?】
祈りにも似た想いで画面を見つめていたが、既読はつかない。
「ドイツに向かったはずだ」
呟いた彼は、次に松井に連絡する。
【松井さん、思いだしました。香澄を迎えに行きたいです】
すぐに既読がついたあと、彼らしい返事があった。
【飛行機の整備士とパイロット、スタッフたちに連絡しましょう。準備ができるまでに、行き先を決めておいてください。スケジュールは私が何とかします】
【ありがとうございます】
松井の返事を見たあと、また香澄とのトークルームを開いたが、まだ既読はついていない。
(今日の昼間に発ったなら、まだ機内か? マメな性格だから、機内Wi-Fiもあるし、そのうちスマホをチェックするはずだ)
香澄を想うと、初恋のように胸がドキドキして堪らない。
あの動画を残した事を思うと、彼女が激怒してこちらからの連絡を取り合わない……とは考えられない。
周囲から「何様だ」と言われるかもしれないが、唯一の救いは、香澄は自分にベタ惚れだという事だ。
あんな酷い追い払い方をしてもなお、彼女は自分を健気に想い続けてくれている。
「だから……、あとは信じて行動するのみだ。香澄に会えたら土下座して謝る。……それまでは後悔しても仕方がない。自分がしてしまった愚かな行いは、もう覆せないから」
こんな時まで、香澄の優しさに救われている。
「香澄。……必ず君を幸せにする」
佑はスポットライトを浴びて仄かに輝いているウエディングドレスを見て、彼女が着ている様子を想像し――、微笑む。
それから表情を引き締め、荷造りするために自室へ駆け上がった。
時刻は二十三時過ぎ。
これから整備士たちに連絡しても、フライトは明日の午前中になってしまうだろう。
気持ちはこれ以上なく急いていても、飛行機に関してはプロの手に委ねなければならない。
まず自分のコンディションを整え、リモートでもできる仕事やそうでないものを松井に教えてもらわなければ。
「待っていてくれ、香澄」
**
「いや~、カスミ、行き先変わってごめんね!」
「いえ、私はお二人に合わせるだけなので。それに私のお願いも聞いてくださって、ありがとうございます」
車で羽田空港に向かう途中で、双子のもとに仕事関係の連絡があった。
そして急遽、NYに向かう事になったのだ。
NYは、以前アフロディーテ号で世話になった、テオやソフィア、ジョシュアにシャーロットが住んでいる街だ。
彼らもパリコレに来ていて、テオはエミリアと浅からぬ因縁があるので、あの事件があったあとすぐにNYに引き返したそうだ。
『テオさん達には、まだまともに顔を合わせてお礼を言えていないんです』と言ったところ、『じゃあついでにテオ達にも会おうか』と提案されたのだ。
双子はデパ地下で買ったお菓子を広げ、日持ちのしない物からパクパク食べている。
日本茶や日本ブランドの紅茶も仕入れ、お菓子に合わせて飲んでいるのでさすがだ。
ベルタやフィン、久住に佐野、勢野も一緒になっておやつタイムを送り、機内は実に和やかだ。
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(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
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✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
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(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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