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第二十二部・岐路 編

決別したあとの人生

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(何であんな事言われないといけないの!? 心配してあげたのに!)

 美智瑠は広い敷地のアプローチをズンズンと進みながら、溢れてきた涙を手で拭った。

 下心がなかったと言えば嘘になる。

 佑ならまた〝理想の彼氏〟として自分を迎えてくれるのでは、という思いがあったからここを訪れた。

 初めて彼と出会った時は、絵に描いたような王子様と出会えて有頂天になっていた。

 背が高くてとても美形で、優しくて祖父はあのクラウザー社の会長。

 従兄は『アロクラ』のデザイナー兼経営者で、兄弟も美形ばかり。

 運命の人だと思い、絶対にこの人を手放してはいけないと思った。

 献身的に彼に尽くし、Chief Everyを大きくするのが佑の夢だと分かったから、サポートし続けた。

 尽くし続けても、仕事人間の佑はなかなか気持ちに気づいてくれない。

 だから仕方がないながらも告白すると、明らかに乗り気ではないものの、拒否もしないという感じでOKをもらった。

 美智瑠は『付き合ってしまえば体の関係もできるし、私に骨抜きになるだろう』と高をくくっていた。

 だが佑は想像以上の仕事人間で、思っていたようなラブラブ生活を送れずにいた。

 なんとか彼のマンションに通って手料理を作り、胃袋を掴もうとするが、彼は仕事仕事で家でゆっくり食事をするどころではない。

 おまけに気の強い母や妹が勝手に押しかけてきて、無遠慮に根掘り葉掘り質問してくる。

 佑と付き合う女性として、見極められているのは分かるが、彼女たちの遠慮のない態度は不愉快そのものだった。

 自分たちは美人で、ドイツの血が入っているから特別なのだと思い込んでいる雰囲気があり、偉そうで嫌だった。

 だが将来は義母、義妹となるから我慢して付き合っていたのに、佑はその努力すら気づいてくれない。

 自分の忠告を無視した佑が倒れた時は、『ほら見なさい!』と思った。

 しかもプロポーズを期待したクリスマスディナーが台無しだ。

 どれだけイケメンで稼いでいても、これでは幸せな結婚生活など送れない。

 とりあえずは見舞いをしておくか……、と思っていた時に、現在の夫である二階堂に声を掛けられた。

 二階堂はファストファッション会社の専務で、何度か会食で顔を合わせた事があり、初対面ではなかった。

 彼に食事に誘われた時は、夜景の綺麗なホテルのディナーに、サプライズのミニブーケ、美智瑠をねぎらうメッセージが描かれたデザートプレートが出て、本当に感激した。

 佑に求めていたのは特別な事ではなく、こういう些細な愛情表現なのだと痛感した。

 それから美智瑠は二階堂とちょくちょく会うようになり、彼とホテルに行く仲になった。

 佑はといえば見舞いに行ってもイライラしていて、イケメンなのは顔だけの性格の悪い男になり果てている。

 それなら佑ほど顔が整っていなくても、優しくて気の利く二階堂に乗り換えたほうがいい、と決意した。

 佑と決別したあとは、とても楽しかった。

 転職しても仕事は同じアパレル業界だから、仕事環境は大きく変わらなかった。

 二階堂に見守られながら楽しく仕事をし、彼の子供を身ごもって退職したあとは、専業主婦となった。

 だが楽しいのはそこまでだった。

 結婚したあとの二階堂の変わりようは激しく、放っておくと出した物をしまわないし、食べたあとの食器を水につける事もしない。

 基本的にドアを開けっぱなしで過ごすのが癖なのか、使い終わったトイレのドアも開いている。

 子供を見ていてと言っても、本当に〝見ている〟だけ。

 それまでは家政婦に家事を任せていて『専業主婦になるなら家政婦は要らないよな?』といって家事は自分に任せっきり。まるで大きな子供がいるのかと思った。

 出産後に体調が悪くても、決して自分で食事を作ろうとしない。『飯は?』と言われて『好きにしたら?』と言えば外出して自分だけ食べてくる始末。

 苛立ちが最高潮に達した時、『佑はこんな事しない!』と言ったのが運命の分かれ道だった。

 険悪な空気になったあと、夫婦仲はさらに冷えた。

(私は〝世界の御劔〟に愛された女なのに! その私が結婚してあげたのに、なんでこんな扱いをするの!?)

 今では佑のほうがずっとマシに見え、彼にしておけば良かったと後悔している。

 ネットで佑の事を検索すれば華々しく活躍していて、婚約したというニュースを見て、あまりの怒りと嫉妬で気がおかしくなりそうだった。

〝イヤイヤ〟ばかりの子供の機嫌を必死にとりながら、美智瑠は目を皿にして佑の記事を追った。

 Chief Everyや彼のSNSは投稿があれば通知が入るようにしたし、彼に関するニュースを毎日検索して読みあさった。

 巨大掲示板にあった佑の婚約者の写真を見て、思わず笑いがこみ上げた。

 ――なに、この何の特徴もないダサい女性!
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