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第二十二部・岐路 編
双子とのチューニング
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「……それは、分かっています。自分としても『前を向かないと』って思ったから、お二人に連絡をしたのであって……」
「うん、それならいいけどさ」
アロイスは頷き、これ以上同じ話をしても空気を暗くするだけと思ったのか、話題を変えた。
「これからヨーロッパに向かうけど、食べたいもんある? ひとまずブルーメンブラットヴィルに行くけど、俺たちと一緒に行動するなら、ちょいちょいパリとかロンドンとか、あちこち行くと思う。その時に食べたい物、買いたい物があったらガイドするよ」
「わぁ、ありがとうございます! そこまで観光的に考えていなかったので、まだノープランなのですが、あとでスマホで調べておきますね。もしお勧めがあったら教えてください」
「OK」
やがてケーキとコーヒーが運ばれ、三人でティータイムをとった。
(不思議だな。いつもなら佑さんがいるのに、私とお二人だけなんて)
この部屋で高級ケーキを食べていても、「美味しいね」と笑いかける人は隣にいない。
(……今後、お二人と一緒に行動する事になるけど、どういう心構えでいたらいいのかな)
そう思った香澄は、確認しておく事にした。
「これからお二人の秘書扱いとなりますが、どういう生活を送ると思えばいいでしょうか?」
尋ねると、双子は顔を見合わせて目をぱちくりとさせた。
やがて、クラウスが「あー……」と言いながら頭を掻く。
「カスミ、本当に働くつもり?」
「はい。働かざる者食うべからずですから」
キパッと言うと、双子は苦笑いした。
「カスミらしいなぁ……。……まぁ、じゃあさ。向こうついたらノートパソコンとタブレットを支給するから、それでベルタのサポートをしてくれる? 言葉は日本語で大丈夫」
クラウスはそう言って、部屋の隅に立っているパンツスーツの女性を示す。
金髪碧眼ボブヘアのクール美女は、香澄の視線を受けて会釈をした。
「ベルタ、カスミに挨拶したげてよ」
アロイスに言われ、彼女はこちらに歩み寄ると、流暢な日本語で挨拶してきた。
「はじめまして、フラウ・カスミ。私はベルタ・ギーゼン。年齢は三十歳です」
「はっ、はじめまして! 赤松香澄と申します!」
今までずっと気になってはいたものの、正式に挨拶をした事がなかったので、香澄はパッと立ちあがるとお辞儀をする。
「フラウ・カスミの事はあなたが想像している以上に知っています。ボスはどこにいようがヘル・ミツルギやあなたの事を話していましたから」
そう言われ、香澄は双子を見る。
と、彼らはパッと目を逸らした。
いつもは佑をからかっている彼らが、遠く離れていても気に懸けてくれていたのを知り、胸の中に温かな思いが宿る。
「お荷物にならないよう、気をつけます。宜しくお願いいたします」
ベルタに頭を下げると、彼女は会釈を返しつつ言う。
「お気になさらず。意地悪ではありませんが、あなたはいずれヘル・ミツルギのもとへ帰る方だと思っています。仕事をするからには守秘義務も絡みますし、ボスと契約書を交わさなければなりません。現在Chief Everyに籍を置いているのであれば、二重契約になってしまいます。ですから、アシスタントとしてお願いできればと思っています。ボスだって、可愛がっているあなたを本気で自分の部下にするつもりはないでしょうし」
思っていた以上に事情に精通しているベルタに、香澄は内心舌を巻く。
「はい……」
呆然としていると、アロイスが補足した。
「まぁ、彼女の言うとおりだね。カスミはまじめだから働きたいだろうけど、悪いけど俺たちはマジな秘書は求めてない。俺たちの側にいて、んまい物食って時間があったら観光して、ちょっと仕事の見学をして……って、ぬるい事をカスミが望んでいないのも分かる。けど、マジで俺たちのところで働くなら、契約周りとかの関係もあるから、その辺は軽めに考えておいてほしいんだ」
「……そうですね。『アロクラ』での仕事に明るくない私が、いきなりポッと湧いて仕事をしたいなんて、社員の方に失礼です」
同じアパレル業界とはいえ、Chief Everyとアロクラの労働内容が同じとは限らない。
社風だって違うだろうし、日本企業と海外企業の差もあるだろう。
「『働きたい』とは言いましたが、我が儘をすべて聞いてもらえるとは思っていません。どこにも行く当てのない私を引き取ってくれただけでも御の字ですから、それ以上の事を望むのは二の次にします」
譲歩すると、クラウスが頷いた。
「OK。カスミはけっこう頑固だけど、そういうふうに柔軟さを見せてくれると助かるよ」
「はい!」
少しずつ、香澄は双子とのチューニングを合わせていく。
佑とのやり方とは違う、双子とのやり方へ自分の生き方を変え、歩いていかなければならない。
「うん、それならいいけどさ」
アロイスは頷き、これ以上同じ話をしても空気を暗くするだけと思ったのか、話題を変えた。
「これからヨーロッパに向かうけど、食べたいもんある? ひとまずブルーメンブラットヴィルに行くけど、俺たちと一緒に行動するなら、ちょいちょいパリとかロンドンとか、あちこち行くと思う。その時に食べたい物、買いたい物があったらガイドするよ」
「わぁ、ありがとうございます! そこまで観光的に考えていなかったので、まだノープランなのですが、あとでスマホで調べておきますね。もしお勧めがあったら教えてください」
「OK」
やがてケーキとコーヒーが運ばれ、三人でティータイムをとった。
(不思議だな。いつもなら佑さんがいるのに、私とお二人だけなんて)
この部屋で高級ケーキを食べていても、「美味しいね」と笑いかける人は隣にいない。
(……今後、お二人と一緒に行動する事になるけど、どういう心構えでいたらいいのかな)
そう思った香澄は、確認しておく事にした。
「これからお二人の秘書扱いとなりますが、どういう生活を送ると思えばいいでしょうか?」
尋ねると、双子は顔を見合わせて目をぱちくりとさせた。
やがて、クラウスが「あー……」と言いながら頭を掻く。
「カスミ、本当に働くつもり?」
「はい。働かざる者食うべからずですから」
キパッと言うと、双子は苦笑いした。
「カスミらしいなぁ……。……まぁ、じゃあさ。向こうついたらノートパソコンとタブレットを支給するから、それでベルタのサポートをしてくれる? 言葉は日本語で大丈夫」
クラウスはそう言って、部屋の隅に立っているパンツスーツの女性を示す。
金髪碧眼ボブヘアのクール美女は、香澄の視線を受けて会釈をした。
「ベルタ、カスミに挨拶したげてよ」
アロイスに言われ、彼女はこちらに歩み寄ると、流暢な日本語で挨拶してきた。
「はじめまして、フラウ・カスミ。私はベルタ・ギーゼン。年齢は三十歳です」
「はっ、はじめまして! 赤松香澄と申します!」
今までずっと気になってはいたものの、正式に挨拶をした事がなかったので、香澄はパッと立ちあがるとお辞儀をする。
「フラウ・カスミの事はあなたが想像している以上に知っています。ボスはどこにいようがヘル・ミツルギやあなたの事を話していましたから」
そう言われ、香澄は双子を見る。
と、彼らはパッと目を逸らした。
いつもは佑をからかっている彼らが、遠く離れていても気に懸けてくれていたのを知り、胸の中に温かな思いが宿る。
「お荷物にならないよう、気をつけます。宜しくお願いいたします」
ベルタに頭を下げると、彼女は会釈を返しつつ言う。
「お気になさらず。意地悪ではありませんが、あなたはいずれヘル・ミツルギのもとへ帰る方だと思っています。仕事をするからには守秘義務も絡みますし、ボスと契約書を交わさなければなりません。現在Chief Everyに籍を置いているのであれば、二重契約になってしまいます。ですから、アシスタントとしてお願いできればと思っています。ボスだって、可愛がっているあなたを本気で自分の部下にするつもりはないでしょうし」
思っていた以上に事情に精通しているベルタに、香澄は内心舌を巻く。
「はい……」
呆然としていると、アロイスが補足した。
「まぁ、彼女の言うとおりだね。カスミはまじめだから働きたいだろうけど、悪いけど俺たちはマジな秘書は求めてない。俺たちの側にいて、んまい物食って時間があったら観光して、ちょっと仕事の見学をして……って、ぬるい事をカスミが望んでいないのも分かる。けど、マジで俺たちのところで働くなら、契約周りとかの関係もあるから、その辺は軽めに考えておいてほしいんだ」
「……そうですね。『アロクラ』での仕事に明るくない私が、いきなりポッと湧いて仕事をしたいなんて、社員の方に失礼です」
同じアパレル業界とはいえ、Chief Everyとアロクラの労働内容が同じとは限らない。
社風だって違うだろうし、日本企業と海外企業の差もあるだろう。
「『働きたい』とは言いましたが、我が儘をすべて聞いてもらえるとは思っていません。どこにも行く当てのない私を引き取ってくれただけでも御の字ですから、それ以上の事を望むのは二の次にします」
譲歩すると、クラウスが頷いた。
「OK。カスミはけっこう頑固だけど、そういうふうに柔軟さを見せてくれると助かるよ」
「はい!」
少しずつ、香澄は双子とのチューニングを合わせていく。
佑とのやり方とは違う、双子とのやり方へ自分の生き方を変え、歩いていかなければならない。
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