1,452 / 1,544
第二十二部・岐路 編
勘弁してくれよ
しおりを挟む
(俺のスマホに写真があるのは、れっきとした証拠だ。本当に彼女とは恋人だったんだろう。……恐らく、とても溺愛していた。それでないと、あんな頭の悪そうなフォルダを作るはずがない)
思いも寄らない自分の一面を知った佑は、半分ドン引きしている。
「……俺、女性には淡泊だったしな……」
二十代半ばは美智瑠に振られた上、体調を崩して仕事ができない苛立ちもあり、最悪な時期だった。
女性不信になったあと適当な付き合いをし、結婚のビジョンすら抱けずにいた。
(そんな自分に婚約者ができるなんて、喜ばしい事かもしれないけど……)
何せ、まったく覚えていない。
出会いを教えてもらい、札幌に行った覚えはあるし、イベントに参加した記憶もあるが、彼女の事は記憶にない。
なぜ、と思っても、考えると頭が痛くなる。
(とにかく、今後彼女をどう扱うか決めなければ。彼女は俺を婚約者だと思っているだろうが俺は違う。第二秘書と同棲してるなんて、公私の区別がついていない状態は御免被りたい。そもそも彼女は本当に仕事ができるのか? まさかこの俺が、お飾りの秘書を雇って社長室でイチャイチャとか……)
今時ドラマでもやらなそうなシチュエーションを思い描き、佑は溜め息をつく。
「……勘弁してくれよ……」
思わず、二度目の言葉が漏れる。
今まで女性社員に告白されても徹底的に断ってきたのに、これでは示しがつかない。
(社員は俺をどう見てた? 美人秘書に籠絡された社長? ……最悪だ)
実際会社でイチャついていたかは分からないが、想像するだけで職場が汚された気持ちになる。
香澄が悪いと言っているのではなく、彼女を招き入れた自分の脇の甘さを呪っている。
(女性秘書を溺愛していると知られて、取引先から舐められなければいいが)
考えれば考えるほど、彼女とうまくやっていけるか自信がなくなる。
(そもそも赤松さんは俺の何が好きなんだ? 顔? クラウザー家も含めた社会的地位? 俺が女性に優しくない男だって事は誰だって分かってるだろうに)
感覚は三十代になったばかりのままの佑は、自分をそう評価している。
香澄と恋をして、自分がどう変わったかなど今の佑はまったく覚えておらず、彼女が捧げた愛情も覚悟も、何もかも忘れている。
溜め息をついた佑は混乱が収まるまで、彼女には別の場所で暮らしてもらう事を考え始めた。
自宅でも会社でも香澄が側にいるなら、ゆっくり考える暇がなくなる。
あの広い家の中で静けさを楽しみ、スピーカーから流れるクラシック音楽に身を浸していた自由は、もうないと言っていいのだろう。
(赤松さんを邪魔に思っている訳じゃない。……ただ、彼女が目の前にいると酷い頭痛に襲われるし、まともに考えられなくなる。オフィスでも頭が痛くなったなら仕事にならない。……有給という体で……)
眉間に皺を寄せて考えていた時、ドアをノックする音がし、アロイスが姿を現した。
「ども。調子どう?」
「……見ての通りだよ」
従兄の登場に、佑は溜め息をついて気持ちを切り替える。
いつも双子と話す時は英語かドイツ語が多いが、日本語にしてくれているという事は、脳の負担を考えてくれたのかもしれない。
アロイスは椅子を移動させてベッド脇に座ったあと、何とも言えない顔で見てきた。
「……何だよ」
「カスミ、泣いてたけど何か言った?」
また香澄の名前が出て、佑は無意識に息を吐いた。
するとアロイスがムッとした顔をする。
「なんだよその顔は。何か俺に言いたいのか?」
疲れたように言うと、アロイスは不機嫌そうに言う。
「あの子が自分の命も顧みず、お前を守ろうとしたのを分かってるのか? いや、忘れてるだろうけど、そんな態度はないだろ」
感情的になる従兄を見て、佑は当惑する。
双子はいつも飄々としていて、仕事は真面目に取り組むものの、その他のものには適当に接していた。
『まじめになる奴はバカ』という考えで、いつも大勢の美女に囲まれて体の関係を楽しんでいた。
そんな彼が香澄に肩入れしているのが意外で、思わずこう聞いてしまった。
「彼女の事、好きなのか?」
「Verdammt!(ちくしょう!)」
佑の質問を聞き、アロイスは低い声で悪態をつく。
それから大きな溜め息をついて言った。
思いも寄らない自分の一面を知った佑は、半分ドン引きしている。
「……俺、女性には淡泊だったしな……」
二十代半ばは美智瑠に振られた上、体調を崩して仕事ができない苛立ちもあり、最悪な時期だった。
女性不信になったあと適当な付き合いをし、結婚のビジョンすら抱けずにいた。
(そんな自分に婚約者ができるなんて、喜ばしい事かもしれないけど……)
何せ、まったく覚えていない。
出会いを教えてもらい、札幌に行った覚えはあるし、イベントに参加した記憶もあるが、彼女の事は記憶にない。
なぜ、と思っても、考えると頭が痛くなる。
(とにかく、今後彼女をどう扱うか決めなければ。彼女は俺を婚約者だと思っているだろうが俺は違う。第二秘書と同棲してるなんて、公私の区別がついていない状態は御免被りたい。そもそも彼女は本当に仕事ができるのか? まさかこの俺が、お飾りの秘書を雇って社長室でイチャイチャとか……)
今時ドラマでもやらなそうなシチュエーションを思い描き、佑は溜め息をつく。
「……勘弁してくれよ……」
思わず、二度目の言葉が漏れる。
今まで女性社員に告白されても徹底的に断ってきたのに、これでは示しがつかない。
(社員は俺をどう見てた? 美人秘書に籠絡された社長? ……最悪だ)
実際会社でイチャついていたかは分からないが、想像するだけで職場が汚された気持ちになる。
香澄が悪いと言っているのではなく、彼女を招き入れた自分の脇の甘さを呪っている。
(女性秘書を溺愛していると知られて、取引先から舐められなければいいが)
考えれば考えるほど、彼女とうまくやっていけるか自信がなくなる。
(そもそも赤松さんは俺の何が好きなんだ? 顔? クラウザー家も含めた社会的地位? 俺が女性に優しくない男だって事は誰だって分かってるだろうに)
感覚は三十代になったばかりのままの佑は、自分をそう評価している。
香澄と恋をして、自分がどう変わったかなど今の佑はまったく覚えておらず、彼女が捧げた愛情も覚悟も、何もかも忘れている。
溜め息をついた佑は混乱が収まるまで、彼女には別の場所で暮らしてもらう事を考え始めた。
自宅でも会社でも香澄が側にいるなら、ゆっくり考える暇がなくなる。
あの広い家の中で静けさを楽しみ、スピーカーから流れるクラシック音楽に身を浸していた自由は、もうないと言っていいのだろう。
(赤松さんを邪魔に思っている訳じゃない。……ただ、彼女が目の前にいると酷い頭痛に襲われるし、まともに考えられなくなる。オフィスでも頭が痛くなったなら仕事にならない。……有給という体で……)
眉間に皺を寄せて考えていた時、ドアをノックする音がし、アロイスが姿を現した。
「ども。調子どう?」
「……見ての通りだよ」
従兄の登場に、佑は溜め息をついて気持ちを切り替える。
いつも双子と話す時は英語かドイツ語が多いが、日本語にしてくれているという事は、脳の負担を考えてくれたのかもしれない。
アロイスは椅子を移動させてベッド脇に座ったあと、何とも言えない顔で見てきた。
「……何だよ」
「カスミ、泣いてたけど何か言った?」
また香澄の名前が出て、佑は無意識に息を吐いた。
するとアロイスがムッとした顔をする。
「なんだよその顔は。何か俺に言いたいのか?」
疲れたように言うと、アロイスは不機嫌そうに言う。
「あの子が自分の命も顧みず、お前を守ろうとしたのを分かってるのか? いや、忘れてるだろうけど、そんな態度はないだろ」
感情的になる従兄を見て、佑は当惑する。
双子はいつも飄々としていて、仕事は真面目に取り組むものの、その他のものには適当に接していた。
『まじめになる奴はバカ』という考えで、いつも大勢の美女に囲まれて体の関係を楽しんでいた。
そんな彼が香澄に肩入れしているのが意外で、思わずこう聞いてしまった。
「彼女の事、好きなのか?」
「Verdammt!(ちくしょう!)」
佑の質問を聞き、アロイスは低い声で悪態をつく。
それから大きな溜め息をついて言った。
13
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる