1,452 / 1,550
第二十二部・岐路 編
勘弁してくれよ
しおりを挟む
(俺のスマホに写真があるのは、れっきとした証拠だ。本当に彼女とは恋人だったんだろう。……恐らく、とても溺愛していた。それでないと、あんな頭の悪そうなフォルダを作るはずがない)
思いも寄らない自分の一面を知った佑は、半分ドン引きしている。
「……俺、女性には淡泊だったしな……」
二十代半ばは美智瑠に振られた上、体調を崩して仕事ができない苛立ちもあり、最悪な時期だった。
女性不信になったあと適当な付き合いをし、結婚のビジョンすら抱けずにいた。
(そんな自分に婚約者ができるなんて、喜ばしい事かもしれないけど……)
何せ、まったく覚えていない。
出会いを教えてもらい、札幌に行った覚えはあるし、イベントに参加した記憶もあるが、彼女の事は記憶にない。
なぜ、と思っても、考えると頭が痛くなる。
(とにかく、今後彼女をどう扱うか決めなければ。彼女は俺を婚約者だと思っているだろうが俺は違う。第二秘書と同棲してるなんて、公私の区別がついていない状態は御免被りたい。そもそも彼女は本当に仕事ができるのか? まさかこの俺が、お飾りの秘書を雇って社長室でイチャイチャとか……)
今時ドラマでもやらなそうなシチュエーションを思い描き、佑は溜め息をつく。
「……勘弁してくれよ……」
思わず、二度目の言葉が漏れる。
今まで女性社員に告白されても徹底的に断ってきたのに、これでは示しがつかない。
(社員は俺をどう見てた? 美人秘書に籠絡された社長? ……最悪だ)
実際会社でイチャついていたかは分からないが、想像するだけで職場が汚された気持ちになる。
香澄が悪いと言っているのではなく、彼女を招き入れた自分の脇の甘さを呪っている。
(女性秘書を溺愛していると知られて、取引先から舐められなければいいが)
考えれば考えるほど、彼女とうまくやっていけるか自信がなくなる。
(そもそも赤松さんは俺の何が好きなんだ? 顔? クラウザー家も含めた社会的地位? 俺が女性に優しくない男だって事は誰だって分かってるだろうに)
感覚は三十代になったばかりのままの佑は、自分をそう評価している。
香澄と恋をして、自分がどう変わったかなど今の佑はまったく覚えておらず、彼女が捧げた愛情も覚悟も、何もかも忘れている。
溜め息をついた佑は混乱が収まるまで、彼女には別の場所で暮らしてもらう事を考え始めた。
自宅でも会社でも香澄が側にいるなら、ゆっくり考える暇がなくなる。
あの広い家の中で静けさを楽しみ、スピーカーから流れるクラシック音楽に身を浸していた自由は、もうないと言っていいのだろう。
(赤松さんを邪魔に思っている訳じゃない。……ただ、彼女が目の前にいると酷い頭痛に襲われるし、まともに考えられなくなる。オフィスでも頭が痛くなったなら仕事にならない。……有給という体で……)
眉間に皺を寄せて考えていた時、ドアをノックする音がし、アロイスが姿を現した。
「ども。調子どう?」
「……見ての通りだよ」
従兄の登場に、佑は溜め息をついて気持ちを切り替える。
いつも双子と話す時は英語かドイツ語が多いが、日本語にしてくれているという事は、脳の負担を考えてくれたのかもしれない。
アロイスは椅子を移動させてベッド脇に座ったあと、何とも言えない顔で見てきた。
「……何だよ」
「カスミ、泣いてたけど何か言った?」
また香澄の名前が出て、佑は無意識に息を吐いた。
するとアロイスがムッとした顔をする。
「なんだよその顔は。何か俺に言いたいのか?」
疲れたように言うと、アロイスは不機嫌そうに言う。
「あの子が自分の命も顧みず、お前を守ろうとしたのを分かってるのか? いや、忘れてるだろうけど、そんな態度はないだろ」
感情的になる従兄を見て、佑は当惑する。
双子はいつも飄々としていて、仕事は真面目に取り組むものの、その他のものには適当に接していた。
『まじめになる奴はバカ』という考えで、いつも大勢の美女に囲まれて体の関係を楽しんでいた。
そんな彼が香澄に肩入れしているのが意外で、思わずこう聞いてしまった。
「彼女の事、好きなのか?」
「Verdammt!(ちくしょう!)」
佑の質問を聞き、アロイスは低い声で悪態をつく。
それから大きな溜め息をついて言った。
思いも寄らない自分の一面を知った佑は、半分ドン引きしている。
「……俺、女性には淡泊だったしな……」
二十代半ばは美智瑠に振られた上、体調を崩して仕事ができない苛立ちもあり、最悪な時期だった。
女性不信になったあと適当な付き合いをし、結婚のビジョンすら抱けずにいた。
(そんな自分に婚約者ができるなんて、喜ばしい事かもしれないけど……)
何せ、まったく覚えていない。
出会いを教えてもらい、札幌に行った覚えはあるし、イベントに参加した記憶もあるが、彼女の事は記憶にない。
なぜ、と思っても、考えると頭が痛くなる。
(とにかく、今後彼女をどう扱うか決めなければ。彼女は俺を婚約者だと思っているだろうが俺は違う。第二秘書と同棲してるなんて、公私の区別がついていない状態は御免被りたい。そもそも彼女は本当に仕事ができるのか? まさかこの俺が、お飾りの秘書を雇って社長室でイチャイチャとか……)
今時ドラマでもやらなそうなシチュエーションを思い描き、佑は溜め息をつく。
「……勘弁してくれよ……」
思わず、二度目の言葉が漏れる。
今まで女性社員に告白されても徹底的に断ってきたのに、これでは示しがつかない。
(社員は俺をどう見てた? 美人秘書に籠絡された社長? ……最悪だ)
実際会社でイチャついていたかは分からないが、想像するだけで職場が汚された気持ちになる。
香澄が悪いと言っているのではなく、彼女を招き入れた自分の脇の甘さを呪っている。
(女性秘書を溺愛していると知られて、取引先から舐められなければいいが)
考えれば考えるほど、彼女とうまくやっていけるか自信がなくなる。
(そもそも赤松さんは俺の何が好きなんだ? 顔? クラウザー家も含めた社会的地位? 俺が女性に優しくない男だって事は誰だって分かってるだろうに)
感覚は三十代になったばかりのままの佑は、自分をそう評価している。
香澄と恋をして、自分がどう変わったかなど今の佑はまったく覚えておらず、彼女が捧げた愛情も覚悟も、何もかも忘れている。
溜め息をついた佑は混乱が収まるまで、彼女には別の場所で暮らしてもらう事を考え始めた。
自宅でも会社でも香澄が側にいるなら、ゆっくり考える暇がなくなる。
あの広い家の中で静けさを楽しみ、スピーカーから流れるクラシック音楽に身を浸していた自由は、もうないと言っていいのだろう。
(赤松さんを邪魔に思っている訳じゃない。……ただ、彼女が目の前にいると酷い頭痛に襲われるし、まともに考えられなくなる。オフィスでも頭が痛くなったなら仕事にならない。……有給という体で……)
眉間に皺を寄せて考えていた時、ドアをノックする音がし、アロイスが姿を現した。
「ども。調子どう?」
「……見ての通りだよ」
従兄の登場に、佑は溜め息をついて気持ちを切り替える。
いつも双子と話す時は英語かドイツ語が多いが、日本語にしてくれているという事は、脳の負担を考えてくれたのかもしれない。
アロイスは椅子を移動させてベッド脇に座ったあと、何とも言えない顔で見てきた。
「……何だよ」
「カスミ、泣いてたけど何か言った?」
また香澄の名前が出て、佑は無意識に息を吐いた。
するとアロイスがムッとした顔をする。
「なんだよその顔は。何か俺に言いたいのか?」
疲れたように言うと、アロイスは不機嫌そうに言う。
「あの子が自分の命も顧みず、お前を守ろうとしたのを分かってるのか? いや、忘れてるだろうけど、そんな態度はないだろ」
感情的になる従兄を見て、佑は当惑する。
双子はいつも飄々としていて、仕事は真面目に取り組むものの、その他のものには適当に接していた。
『まじめになる奴はバカ』という考えで、いつも大勢の美女に囲まれて体の関係を楽しんでいた。
そんな彼が香澄に肩入れしているのが意外で、思わずこう聞いてしまった。
「彼女の事、好きなのか?」
「Verdammt!(ちくしょう!)」
佑の質問を聞き、アロイスは低い声で悪態をつく。
それから大きな溜め息をついて言った。
15
お気に入りに追加
2,552
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる