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第二十二部・岐路 編

駆けつけたアロイス

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 誰かに手を握られ、香澄はビクッと硬直した。

「朔だ。大丈夫。襲撃してきた犯人は捕まった。今、救急車を呼んだから安心して」

 傍らに跪いたのが朔だと分かり、香澄は安堵する。

「佑さんは……? …………っうぅ……っ」

 尋ねるも、香澄は目に酷い激痛を覚えてうめく。

「頭を打ったようで、気絶してる。動かさないほうがいい」

「…………っうぅう……っ」

 香澄は次から次に涙を零し、ときおり吸い込んでしまった物の影響で激しく咳き込む。

「赤松さん、立てる? 目を洗ったほうがいい」

「はい……」

 朔に支えられて何とか立ちあがった時、「カスミ!」と双子のどちらかの声がした。

「カスミ! 大丈夫?」

「畜生!」

 アロイスかクラウスのどちらかが香澄の肩を抱き、香澄は朔より親しくしている人の登場に安堵する。

「カスミ、運ぶよ。掴まって」

 どちらかが言ったあと、香澄はグイッと横抱きされた。

「クラはタスクを見てて! あとは状況説明!」

「分かった!」

 どうやら香澄を抱き上げたのは、アロイスらしい。

 そのままアロイスは、早足で移動していく。

 彼は近くにいた秘書かスタッフに、『冷えたミネラルウォーターをジャンジャン持ってこい!』と英語で指示を出していた。

「アロイスさん……、……佑さんは……っ」

「カスミ、駄目!」

 手で目を擦ろうとした時、アロイスに注意された。

「多分、催涙ガスか何かだと思う。目を擦ったら地獄を見るよ。顔も、首元も、他に掛かったところも触らないで」

「はい……っ」

 香澄は涙でグシャグシャになった顔で頷く。

「どうして……っ、~~~~っ、どうしてっ!」

 成功しかけたショーが、ぶち壊しにされてしまった。

 一瞬の事で相手が誰だったのか顔をハッキリ見ていないが、今思うとフェルナンドとエミリア……だった気がする。

 きちんと顔を確認する前にスプレーを掛けられてしまったので、パッと見ての印象しか覚えていなかったが、恐らくそうだと思う。

「いいから、今はまず視力を戻す事を考えるんだ」

 アロイスが言い、香澄は歯を食いしばって頷いた。





 やがて香澄は床の上に下ろされ、アロイスがミネラルウォーターを目元に掛けてくる。

「救急隊が来たらもっとちゃんとした処置をしてくれると思うけど、その前に洗えるだけ洗って」

「はい……っ」

 床に横臥した香澄の目元に、アロイスが少しずつ水を掛けていく。

 服はすでにびしょ濡れだが、ボウルのような物がないなら仕方がない。

 離れたところでは佑を囲んだ人たちが何か言っていて、それが気になって仕方がない。

「節子さんや……、皆さんは?」

「大丈夫。ボディガードが避難させた。ミオは突っ込んで行こうとしたけど、連れて行かせたよ。多分今はホテルに向かっていると思う。頭を冷やしてもらって、二人の状態が良くなったらお見舞いに来てもらおう」

「……はい」

 ずっと震えている香澄の両手を、アロイスは片手でしっかり握っていた。

「大丈夫。すぐタスクも病院に運ばれて、軽症だって言われるから」

 慰めの言葉を聞いた香澄は、ただ頷くしかできなかった。



**



 救急隊が駆けつけたあと、香澄と佑は分かれて病院に運ばれた。

 佑は頭を打って気絶したあと、目を覚まさなかったらしい。

 香澄は痛みに耐えながら救急車に乗り、病院で目の洗浄を受けた。

 冷水で目を洗い、何回もうがいをして、ようやく焼けるような痛みから解放された。

 だが沢山涙を流して激しく咳をし続けたので、すっかり疲弊してベッドに寝かされる羽目になった。
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