1,443 / 1,544
第二十二部・岐路 編
天国から地獄へ ★
しおりを挟む
「佑!」
朔の声が聞こえた瞬間、佑はとっさに男が突き出したナイフをかわした。
「ぐっ……」
その瞬間、無理な体勢をとったせいで足首をひねり、よろけてしまう。
「佑さん!」
頭の中が真っ白になった香澄は、無我夢中でランウェイに飛び出た。
音楽が流れているなか、遠くで警備員がフランス語で何か怒鳴っているのが聞こえる。
男はなおも佑に向かってナイフを繰り出し、ビュッビュッと空を切る音が聞こえた。
「お前……っ」
佑は襲いかかってきた男の顔を見て、驚愕のあまり目を見開いた。
男は――、フェルナンド。
ロサンゼルスで徹底的に潰したはずの男が、招待状を必要とするCEPのショーに潜り込んでいた。
――一体どうして……!
そう思った時、彼の体に誰かが抱きついた。
感触からして女だ。
「ちっ……」
振り向いた時、佑はまた瞠目し、全身に鳥肌を立たせた。
「……エミリア」
自分の背後には、真紅のドレスに身を包んだエミリアが、赤いルージュを塗った唇の端をつり上げ、鬼気迫った笑みを浮かべていた。
遠くから聞こえた怒号は、ガブリエルのものだろうか――。
「佑さん!」
――この声は、香澄だ。
「来るな!」
前門のフェルナンド、後門のエミリア。
これ以上ない最悪な組み合わせだ。
――一体どうして?
――なぜこの二人が?
そう思ったのは、ほんのコンマ数秒だ。
エミリアは嬉々とした表情でバッグからミニスプレーを出し、香澄の顔に向かって吹きかけた。
「っきゃあ!」
中に入っていたのは、香水以外の何かだったのだろうか。
刺激臭が鼻をかすめ、香澄が両手で顔を覆う。
「っち……っ!」
佑が香澄に向かって手を伸ばした時――、脇腹にフェルナンドのナイフが突き刺さった。
「――――かす…………っ、――――み……っ」
佑は焼けるように熱くなった腹部を無視し、冷や汗を掻いて香澄を抱き締めようとする。
「うわあああぁああぁっ!!」
香澄は目からボロボロと涙を零し、エミリアに体当たりをして彼女を押し倒す。
周囲では観客が悲鳴を上げて逃げ、その混乱で警備員が渦中の四人に近づけずにいる。
「たす……っ、く、――さ……っ」
「Fuck you bitch!」
エミリアが香澄を殴り、思いきり髪を引っ張る。
「ぐぅっ」
さらにハイヒールで腹部を思いきり蹴られ、香澄はくぐもった悲鳴を漏らす。
そんな彼女を佑が抱き留め――、フェルナンドに思いきり殴られた。
ガンッ、と凄まじい音がし、佑は香澄を抱きかかえたまま客席に頭を打ち付ける。
警備員が駆けつけたのは、騒ぎが起こって十三秒後の事だった。
たったそれだけの間で、佑は腹部を刺され、頭を強く打った。
香澄は目に刺激物を掛けられ、腹部を蹴られて激しく咳き込んでいた。
「佑さん!!」
自分を抱き締めているのが佑だと分かった香澄は、必死に彼の名前を呼んだ。
彼がどうなっているか見たいのに、目元が焼けるように熱くて目を開けられない。
――痛い! 熱い!
――どうしてこんな事になったの!?
――華々しい舞台でショーが行われていたんじゃなかったの!?
後方からは地獄のような騒ぎが聞こえ、男性たちが怒鳴り合っている声がする。
「佑さん……、佑さん……っ」
香澄はボロボロと涙を零し、手探りで佑の体に触れ、彼を確認しようとした。
その手が頬に触れようとした時――。
「触らないで」
朔の声が聞こえた瞬間、佑はとっさに男が突き出したナイフをかわした。
「ぐっ……」
その瞬間、無理な体勢をとったせいで足首をひねり、よろけてしまう。
「佑さん!」
頭の中が真っ白になった香澄は、無我夢中でランウェイに飛び出た。
音楽が流れているなか、遠くで警備員がフランス語で何か怒鳴っているのが聞こえる。
男はなおも佑に向かってナイフを繰り出し、ビュッビュッと空を切る音が聞こえた。
「お前……っ」
佑は襲いかかってきた男の顔を見て、驚愕のあまり目を見開いた。
男は――、フェルナンド。
ロサンゼルスで徹底的に潰したはずの男が、招待状を必要とするCEPのショーに潜り込んでいた。
――一体どうして……!
そう思った時、彼の体に誰かが抱きついた。
感触からして女だ。
「ちっ……」
振り向いた時、佑はまた瞠目し、全身に鳥肌を立たせた。
「……エミリア」
自分の背後には、真紅のドレスに身を包んだエミリアが、赤いルージュを塗った唇の端をつり上げ、鬼気迫った笑みを浮かべていた。
遠くから聞こえた怒号は、ガブリエルのものだろうか――。
「佑さん!」
――この声は、香澄だ。
「来るな!」
前門のフェルナンド、後門のエミリア。
これ以上ない最悪な組み合わせだ。
――一体どうして?
――なぜこの二人が?
そう思ったのは、ほんのコンマ数秒だ。
エミリアは嬉々とした表情でバッグからミニスプレーを出し、香澄の顔に向かって吹きかけた。
「っきゃあ!」
中に入っていたのは、香水以外の何かだったのだろうか。
刺激臭が鼻をかすめ、香澄が両手で顔を覆う。
「っち……っ!」
佑が香澄に向かって手を伸ばした時――、脇腹にフェルナンドのナイフが突き刺さった。
「――――かす…………っ、――――み……っ」
佑は焼けるように熱くなった腹部を無視し、冷や汗を掻いて香澄を抱き締めようとする。
「うわあああぁああぁっ!!」
香澄は目からボロボロと涙を零し、エミリアに体当たりをして彼女を押し倒す。
周囲では観客が悲鳴を上げて逃げ、その混乱で警備員が渦中の四人に近づけずにいる。
「たす……っ、く、――さ……っ」
「Fuck you bitch!」
エミリアが香澄を殴り、思いきり髪を引っ張る。
「ぐぅっ」
さらにハイヒールで腹部を思いきり蹴られ、香澄はくぐもった悲鳴を漏らす。
そんな彼女を佑が抱き留め――、フェルナンドに思いきり殴られた。
ガンッ、と凄まじい音がし、佑は香澄を抱きかかえたまま客席に頭を打ち付ける。
警備員が駆けつけたのは、騒ぎが起こって十三秒後の事だった。
たったそれだけの間で、佑は腹部を刺され、頭を強く打った。
香澄は目に刺激物を掛けられ、腹部を蹴られて激しく咳き込んでいた。
「佑さん!!」
自分を抱き締めているのが佑だと分かった香澄は、必死に彼の名前を呼んだ。
彼がどうなっているか見たいのに、目元が焼けるように熱くて目を開けられない。
――痛い! 熱い!
――どうしてこんな事になったの!?
――華々しい舞台でショーが行われていたんじゃなかったの!?
後方からは地獄のような騒ぎが聞こえ、男性たちが怒鳴り合っている声がする。
「佑さん……、佑さん……っ」
香澄はボロボロと涙を零し、手探りで佑の体に触れ、彼を確認しようとした。
その手が頬に触れようとした時――。
「触らないで」
22
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる