上 下
1,442 / 1,550
第二十二部・岐路 編

CEP・パリコレ秋冬コレクション

しおりを挟む
 舞台裏は香澄が考えていたよりずっと広く、どのモデルがどの服を着るのか、分かりやすく纏められた一覧表が壁に貼られてある。

 アクセサリーや靴一つにしても、間違えては一大事だからだ。

 他にも大勢のモデルに素早くメイクを施せるよう、メイクをする場所は広く取られている。

 ファッションウィークで活躍するメイキャップアーティストは、他のハイブランドからも依頼される事があり、CEPのメイクをした人が、別の日にはディアールやダヴィア&ガッリャーノのメイクをする事もざらにある。

 一つのショーは大体長くても十五分ぐらいで終わってしまうが、その裏では莫大な金が動いている。

 トップクラスのモデルは、ランウェイを一往復するだけで数百万のギャラが発生するし、自らオーディションに参加して売り込む、若手モデルでも数十万は支払われる。

 モデルのレベルによって扱いの差が生じるのは仕方がなく、トップクラスモデルは招待したゲストのように、飛行機代からホテル代までをCEPが負担している。

 だが売り込み中の駆け出しモデルは、ブランドによっては交通費も宿泊費も自費で、おまけにランウェイを往復しても十万円しかもらえない事もあるので、雲泥の差だ。

 他にもゲストへの招待状は、特別感を出すためにプロのカリグラファーを雇って制作している。

 ブランドによっては革製である事もあり、招待状は如何にファッションウィークに招待される事が特別かを知らしめる物になる。

 他にも会場を設営する設備費や、佑と朔のイメージを再現する照明、空間デザイナーなど、多くのプロに多額の金を払い、ようやくショーを開催できるのだ。

 高価な服を買ってくれる人たちに招待状を出し、一流のモデル達を使って一流の服を見せる。

 それによりCEPの名が知れて、Chief Everyの名も広まっていく。

 購買層の上部をCEPで狙い、比較的安価な層にはChief Every、飲食部門や、下着部門、いずれ展開するメイク、フレグランス部門で狙っていく。

 SNSによる認知度は十分に高めたので、あとはあらゆる業界に進出していくのみだ。





 佑が用意した黒いワンピースを着た香澄は、邪魔にならない場所に座っていた。

 会場でBGMが流れ、バックヤードにあるモニターでは客が席についている様子が確認できる。

 佑たちは英語で話して確認し、モデルたちはすぐランウェイに出ていけるよう列を作っていた。

(凄い……。これが世界最高峰の舞台裏……)

 自分は何も手伝いをしていないのに、現場にいるだけで胸がドキドキ高鳴って緊張してしまう。

 佑の話では、御劔家の関係者の他、マルコやルカたち、他にもまだ香澄が知らない、世界中の友人が招待されたようだ。

 ドキドキして胸元を押さえていると、モデルたちに合図があった。

 テーマとした人生の四季に合わせ、BGMはロックテイストにしたヴィバルディの『四季』が、サビとなる場所をメインとしてミックスされている。

 大きなスピーカーで重低音が鳴り、クラブさながらという音響のなか、一人目にしてクライマックスになる服を着るモデルが、ランウェイを歩き始めた。

 会場では〝生命の木〟がピンクに輝いて桜を表し、トップバッターの日本人モデルが、ヒラヒラと花びらのようにたなびく、薄ピンク色のドレスを身に纏い、さっそうとランウェイを歩いていった。

 コレクションとなる服には、テーマに沿った統一性がなければならない。

 四季を表す上で服は変化していくが、グラデーションするように変化をつけ、モデルが歩く順番も調整した。

 各季節を表す、秋冬物の服がどんどん発表され、中にはプラスサイズのモデルのグラマラスな体型を利用した、ゴージャスな一点もあった。

 ラストに冬の女王をイメージした、ボリュームのあるコートが披露されたあと、会場が拍手に包まれ、佑と朔がようやく微笑んだ。

 そして彼らはスタッフに促され、ライトが当たる舞台に向かった。

(佑さん! 朔さん! 凄い!)

 香澄は立ちあがって猛烈な勢いで拍手し、涙ぐんでモニターの近くまで向かう。

 すると、スタッフの一人が話しかけてきました。

「赤松さん、舞台袖まで行ってみますか? 上手かみて側はもう使わないので、このタイミングでステージを見てみてはどうかと、社長が仰っていました」

「えっ?」

 戸惑っている間に、香澄はスタッフに誘導されてステージの上手まで連れて行かれた。

 そこからそっとステージを覗くと、観客に向けて笑いかけている佑の姿が見えた。

(あぁ……、これがCEPでの佑さんの姿なんだ)

 感動してポロッと涙を流した時、佑と朔がモデルたちと一緒にランウェイを歩き始める。

(スマホで動画撮りたいなぁ……)

 世界最高峰の舞台に恋人がいると思うと、誇らしくてならない。

 香澄はパチパチと小さく拍手をしながら、佑がモデルたちと一緒にランウェイを歩く姿を見守った。

 彼は〝生命の木〟まで行き、折り返してセンターステージに戻ってくる。

(お疲れ様……! ずっと忙しかったから、今夜はたっぷり休んでね)

 佑の姿が近くなった時、彼がこちらを見て微笑んだ。――ような気がした。

 香澄は彼に分かるように、一生懸命パチパチと拍手をする。

 これにてCEPのショーが無事終わろうとしていた時――。

「キャアッ!」と女性の悲鳴がし、何事かと思った時、一人の男が佑に襲いかかった。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

処理中です...