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第二十二部・岐路 編

澪に想いを寄せる男性は……

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 給仕の女性がドリンクメニューを出し、アドラーはスパークリングの日本酒、節子はお茶を頼んだ。

 店内には日本酒の瓶が並んでいて、かなり酒にこだわっているのが分かる。

 興味はあったがアドラーと節子の前で失敗してはいけないので、香澄もお茶にしておいた。

「佑は忙しくしているのか?」

 アドラーに尋ねられ、香澄は頷く。

「はい。今はモデルさんに実際服を着てもらって、調整しているみたいです。今さらながらなのですが、ハイブランドに関わっているんだなと思うと、私まで緊張してしまって。今まではショーの舞台に来る事はなくて今回が初めてなので、街中を歩いていてもモデルさんらしき人を見かけるとドキドキしています」

「ファッションショーと聞いたら、ワクワクするわよね。色んなブランドのショーを見て、香澄さんの好みを固めていくといいわ」

「そ、そんな、好みだなんて……」

 プレタポルテで一着何十万、オートクチュールとなれば何百万、それ以上になる服に対し、好みと言われても困ってしまう。

「結婚式に何を着るのか決めているの? もし着物を着るなら私に協力させてほしいけれど……」

「も、勿論です! その時は宜しくお願いいたします! ……でもまだ詳細は決まっていません。……けど、佑さんがウエディングドレスを作ってくれているみたいなので、式ではそれを着たいなと思っています」

「あの子が手ずから作っているなら、着ない訳にいかないわね。……じゃあ、お色直しで着物を着ましょう」

「は、はい」

 にこやかに、けれどしっかりと押しが強いのが節子だ。

「白無垢か、色打ち掛けか迷うわねぇ……。角隠しか綿帽子か……」

 節子は出されたお茶を飲み、うっとりとした顔で呟く。

「幾つになっても結婚式はいいわね。自分が花嫁になる事はもうないけれど、下の世代の子たちを飾る楽しみがあるもの。陽菜さんの時も楽しかったわ」

「澪さんも、アメリカ人の彼氏とうまくいっているんでしたっけ」

 香澄はさりげなく話題を自分から澪に逸らす。

「あぁ……、リアムね……」

 節子も件のアメリカ人については聞いているらしく、苦笑いする。

「リアムさんって言うんですか?」

 以前にアフターヌーンティーをした時、澪は恥ずかしがって相手の名前を教えてくれなかったので、香澄は思わず食いついた。

「本名はウィリアム・ジョーダン・カルヴァート。FTを知っているだろう? フェイスツール」

「は、はい!」

 フェイスツールとは、四大SNSと言われているなかの一つで、実名登録をするタイプのSNSだ。

 香澄はあまり本名でSNSをしたくないので、もっぱら匿名性のあるジャフォットや、モノローグを使っている。

 だがChief EveryもFTの公式アカウントを持っているし、いわゆるリア充系の人は匿名SNSよりFTを利用している。

 しかし世界的に見れば、匿名性のあるSNSより、本名で利用するFTのほうが利用人口が多いのが事実だ。

「リアムはそのFTのCEOだ」

「ヒッ……」

 あまりに大物が出てきて、香澄は鋭く息を吸う。

(澪さん……! なんて人に好かれてるの! さすが!)

「う、うまくいってるんですか?」

 香澄はつい前のめりになり、アドラーと節子の顔を覗き込む。

 すると夫婦は顔を見合わせ、微妙に笑った。

「どうかしらね? 澪はまんざらでもないみたいだけれど、あの子ブラコンなところがあるでしょう? 好みは自分の兄たちなのよ。だからリアムの外国人的な、熱烈な愛情表現をどう受け取ったらいいか分からないでいるのだと思うわ」

「あぁー……」

 香澄は大きく頷いた。

 澪と初めて会った時、『大好きな佑の彼女? どんな女?』という興味と敵対心が強烈だった。

 強気な性格なので恋愛もグイグイいくかと思えば、あまり浮いた話を聞かない。

 蓋を開けてみれば割と奥手らしく、リアムに迫られてタジタジになっているのを想像すると、可愛くて堪らない。

「へぇぇ……。頑張ってほしいなぁ……」

 香澄はニヤニヤ笑い、水を一口飲む。

 すると節子がにっこり笑った。
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