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第二十二部・岐路 編

双子との別れ

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《いや、そこは俺たちに遠慮して『楽しんでこいよ』って言うところだろ》

 佑が思わず突っ込むと、双子はわざとらしくお互いの肩を組む。

《何も同じ宿に泊まるなんて言ってないしなぁ》

《そうそう。偶然同じ温泉地に行ったなら仕方ないけど、意図的に追いかけたりなんかしないよ》

 その言葉を聞いて、佑は「はぁ……」と大きな溜め息をついたのだった。





(もう大丈夫かな?)

 大人っぽいIラインのワンピースに着替えた香澄は、リビングに出ていくタイミングを窺っていた。

 彼らが話している言語がフランス語だと分かっても、何を話しているかまでは理解できない。

 前回パリに来た時、佑から日常会話を少し教えてもらったが、ネイティブのようなスピードで話されるとまったく分からない。

(でも、何を話しているか知りたい訳じゃないしな。佑さんたちだって、私に話を聞かせたくないからフランス語を選んだんだろうし。意地悪じゃなくて、私が聞いたらストレスに感じる事だから、気を遣ってくれているのは分かる)

 微笑んだ香澄は、全身鏡の前で服装の最終チェックをする。

(だから『着替えていて何も気づいてません』って顔をしないと)

 鏡の前で色々チェックしつつ待っていると、そのうちリビングから聞こえてくる声が明るい雰囲気になった。

 そのタイミングを見計らって、香澄はスッと息を吸い、わざとヒールの音を立てて歩いていくと、ヒョコッとリビングを覗き込んだ。

「ところでどこのレストランに行くんでしたっけ? このワンピースで大丈夫です?」

 香澄はわざとキョトンとした顔で尋ね、少し恥じらいながら三人の前に出る。

 ワインレッドのワンピースの袖は総レースになり、スカート丈はは脛ぐらいで、ヒールはジョルダンを履いた。

 イヤリング、ネックレス、ブレスレットは、ダイヤモンドの三点セットを選んだ。

「わぁ~! 可愛いなぁ! カスミは何を着ても可愛い!」

 アロイスが立ち上がり、ストレートに褒めて拍手をする。

「さすがカスミだね! いつも僕らの期待を倍以上裏切って可愛く登場する」

 クラウスも立ち上がり、同じように拍手をした。

「い、いやいや、拍手はいいですから」

 照れた香澄は両手を胸の前でブンブンと振って恐縮するが、佑まで立って拍手し始めたので困り果ててしまう。

 三人は「ブラボー!」と言う始末なので、諦めた香澄は片手を胸に当て、バレリーナのように丁寧にお辞儀をしてみせた。





 そのあとは護衛を伴って出かけ、ホテルの近くにあるレストランで美味しいフレンチを食べた。

 食事が終わったあと、双子はすんなり自分たちのホテルに帰っていった。

 彼らにもパリコレの準備が控えているので、香澄がいるからといって遊んでいられない。

「アロクラのショー、楽しみにしています!」

「うん、僕らもCEPのショー楽しみにしてるよ」

 お互い招待状を送り合っているので、日程さえずれていればショーを見に行く事ができる。

「じゃあな、タスク。しっかりやれよ!」

「お前らもな」

 別れの挨拶をしたあと、三人はパッパッパッと独特なシェイクハンズをする。

(何だかんだ言って、ああやってお決まりのシェイクハンズができるぐらいには、仲良しなんだもんなぁ……)

 男性同士特有の挨拶に思え、見ていると何となく羨ましくなる。

 三人は最後にパンッとハイタッチしたあと、背中を向けた。

「じゃあね! カスミ」

「はい! おやすみなさい!」

 香澄は通りを歩いていく双子の背中に向かって、ペコリと頭を下げる。

「じゃあ、俺たちも行こうか」

「うん」

 佑が手を握ってきたので、香澄は彼に寄り添ってホテルに向かって歩き始める。

「帰国したら、ウエディングドレスの事を考えよう」

「うん」

 結婚式の話をされ、香澄は笑顔になる。

「……ものは相談なんだけど、俺、香澄のウエディングドレスを作ってるって前に言ったじゃないか。完成したら見てみてくれる? 気に入らなかったら、勿論他のデザイナーが作った物を選んでも構わない」

「佑さんがドレスを作ってくれるなんて贅沢じゃない……! そんなの絶対着るに決まってる!」

 香澄が大喜びで言うと、佑は安堵したように笑った。
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