上 下
1,423 / 1,536
第二十一部・フェルナンド 編

婚約指輪トーナメント戦

しおりを挟む
 もしも落としたらとか、傷つけたら、盗まれたらなど思うと、気が気でないからだ。

 勿論、大好きな人からもらった婚約指輪なら、肌身離さず身につけたいが、常にビクビクしなければならないのは、本末転倒な気がする。

(……と言っても、どちらにせよこのクラスで指輪を買うなら、見た目が派手だろうがシンプルだろうが、とんでもない値段なんだろうけど……)

 佑と付き合っている時点で、こういう問題については諦めなければならないのだ。

(それに一生に一度の記念品だからこそ、庶民意見での我が儘を言っちゃいけない気がするな……)

 自分の遠慮がいつも佑を困らせているのは自覚しているので、こういう時だけは佑も満足できる買い物に協力しなければ……と思った。

「だから、香澄が気に入りそうなデザインの指輪が置いてある店を予約したんだ。勝手に決めてごめん」

「ううん。私、ジュエリーに詳しくないから、方向性を決めてくれて嬉しい」

 そういうと、佑はホッとしたように笑った。





 ヴァンドーム広場に面している建物は、どれも昔ながらの建築様式で城のようだ。

 さらにハイジュエリーブランドショップに入ると、白を基調としたロココ調を思わせる、それでいてモダンな内装となり、感覚がおかしくなってしまいそうだ。

 どうやらこの店は、ナポレオンの御用達だったらしく、天井からはシャンデリアが下がり、ショーケースに展示されているジュエリーはどれも照明を反射してキラキラと輝いている、素晴らしい店内模様だ。

 店に入ると黒い服に身を包んだ、仕事のできそうな女性が出迎えてきたので、一気に緊張してしまった。

 佑はフランス語で予約していた旨を告げ、二人は個室へ向かう事になった。

 飲み物の希望を聞かれて、佑はカフェ――エスプレッソを頼み、香澄はカフェ・クレーム――カフェラテを頼んだ。

 飲み物と一緒に美味しそうなマカロンやショコラも出されたので、「豪華だな」と思いながらいただいた。

 そもそも数百万の買い物をするのだから、一粒四百円ぐらいの高級ショコラだとしても、店としては安い物なのだろう。

 やがてカタログが運ばれてきて、佑と一緒にそれを眺める事になる。

「薬指、八号で良かったよな?」

「ん? うん」

 カタログに載っている指輪たちは、どのデザインも中心に燦然と輝くダイヤが鎮座し、どう足掻いても大きなダイヤからは逃げられないらしい。

「気に入ったデザインはある? これは?」

 そう言って佑は、中央に大きな石があり、リングにもメレダイヤが嵌まっているパヴェリングを指さす。

「ちょ……、ちょっとこれはゴージャス過ぎるかな……」

 香澄は慌てて別のページを開くものの、シンプルそうだがやはり大きめのダイヤが嵌まっている写真を見て「うっ」となり、さらにページを捲る。 

 すると今度はまるでティアラのようなデザインのリングがあり、「いやいやいや!」と思ってさらに捲っていく。

 途中から、リングカラーがプラチナやホワイトゴールド、ピンクゴールドなど変化しているのに気づき、「色も決めないとならないのか……」と納得する。

 そのあともペラペラとページを捲った香澄は、スンッ……と真顔になってカタログを閉じてしまった。

「決まった?」

 佑が顔を覗き込んでくるが、香澄の目はグルグルしている。

「……ど、どれもお高級で同じように感じてしまって……」

「うーん……」

 ポーッと前を見て放心している香澄を見て、佑は考え込む。

「じゃあ、迷っている物から、二択で絞っていこうか。トーナメント方式だ」

「んふっ」

 まさかパリの高級店にきてまでトーナメントと聞くと思わず、香澄は思わず笑ってしまう。

「ざっくりでいいから、気になったのを教えて」

 そう言われ、考えが纏まらないながらも「いいな」と思った物を指さしていく。

 そのあと、婚約指輪トーナメント戦が始まった。

「こっちとこっち。三秒以内で答えて」

 佑がバッバッとカタログを捲り、香澄はインスピレーションで応えていく。

「ええっ!? こ、こっち!」

 その様子を、女性スタッフはニコニコして眺めている。

 トーナメントを繰り返していくうちに、最終的に三つまで絞る事ができた。

 そこまで決まったところで実際の商品を持ってきてもらい、香澄の指に嵌めてみる事になる。

「ウワアアアアア……」

 比較的シンプルなデザインとはいえ、高級な事には変わらず、一つ目を試着してみた香澄はブルブルと手を震わせる。

 我ながら格好悪い事この上ないが、仮に銀座あたりに同じブランドの店があるとしても、パリまで足を運ぶとなると感覚がまったく違う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【女性向けR18】幼なじみにセルフ脱毛で際どい部分に光を当ててもらっています

タチバナ
恋愛
彼氏から布面積の小さな水着をプレゼントされました。 夏になったらその水着でプールか海に行こうと言われています。 まだ春なのでセルフ脱毛を頑張ります! そんな中、脱毛器の眩しいフラッシュを何事かと思った隣の家に住む幼なじみの陽介が、脱毛中のミクの前に登場! なんと陽介は脱毛を手伝ってくれることになりました。 抵抗はあったものの順調に脱毛が進み、今日で脱毛のお手伝いは4回目です! 【作品要素】 ・エロ=⭐︎⭐︎⭐︎ ・恋愛=⭐︎⭐︎⭐︎

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

この満ち足りた匣庭の中で 一章―Demon of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
――鬼の伝承に準えた、血も凍る連続殺人事件の謎を追え。 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 巨大な医療センターの設立を機に人口は増加していき、世間からの注目も集まり始めていた。 更なる発展を目指し、電波塔建設の計画が進められていくが、一部の地元住民からは反対の声も上がる。 曰く、満生台には古くより三匹の鬼が住み、悪事を働いた者は祟られるという。 医療センターの闇、三鬼村の伝承、赤い眼の少女。 月面反射通信、電磁波問題、ゼロ磁場。 ストロベリームーン、バイオタイド理論、ルナティック……。 ささやかな箱庭は、少しずつ、けれど確実に壊れていく。 伝承にある満月の日は、もうすぐそこまで迫っていた――。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!

風見ゆうみ
恋愛
「1番愛しているのは君だ。だから、今から何が起こっても僕を信じて、僕が迎えに行くのを待っていてくれ」彼は、辺境伯の長女である私、リアラにそうお願いしたあと、パーティー会場に戻るなり「僕、タントス・ミゲルはここにいる、リアラ・フセラブルとの婚約を破棄し、公爵令嬢であるビアンカ・エッジホールとの婚約を宣言する」と叫んだ。 婚約破棄した上に公爵令嬢と婚約? 憤慨した私が婚約破棄を受けて、新しい婚約者を探していると、婚約者を奪った公爵令嬢の元婚約者であるルーザー・クレミナルが私の元へ訪ねてくる。 アグリタ国の第5王子である彼は整った顔立ちだけれど、戦好きで女性嫌い、直属の傭兵部隊を持ち、冷酷な人間だと貴族の中では有名な人物。そんな彼が私との婚約を持ちかけてくる。話してみると、そう悪い人でもなさそうだし、白い結婚を前提に婚約する事にしたのだけど、違うところから待ったがかかり…。 ※暴力表現が多いです。喧嘩が強い令嬢です。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。 格闘シーンがお好きでない方、浮気男に過剰に反応される方は読む事をお控え下さい。感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、感想欄での感情的な批判、暴言などはご遠慮願います。

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

処理中です...