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第二十一部・フェルナンド 編

ヘアアクセサリー

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「『日本人形みたい』だって」

「んふふ。Merci!」

 嬉しくなって返事をすると、スタッフは香澄の髪を器用に纏めてヘアクリップで留めた。
 そして鏡の前に立たせ、持ってきた手鏡で合わせ鏡をするように言う。

「大人可愛い!」

 鏡を見てみると、纏められた黒髪にシックな色合いの鼈甲柄のクリップが合っている。

 どんな服装にも合いそうなので、一目で気に入ってしまった。

「気に入った?」

「うん。好き」

「髪の量を考えてもLサイズで丁度いいみたいだな」

 佑がスタッフに挨拶すると、彼女は丁寧にクリップを取ってくれる。

「他に気になる物はある? クリップだけじゃなくて、商品全体として。ちょっと店内をグルッと回ってみようか」

 尋ねられ、香澄は言うだけタダだと思って感想を述べていく。

「あと、この白と黒のバイカラーのクリップ可愛いな。あっ、こっちのカメリア? がついてるクリップも可愛いかも。こっちの鼈甲のはパールがついてるんだ。……でもシンプルなほうがいいかな」

 ゆっくり歩きながら、香澄はシンプルながら洗練されたヘアアクセサリーを見ていく。

「このカメリアシリーズ、ヘアゴムもあるんだ。ヘアゴムはよく使うから一つあると助かるかな。カチューシャ……、はあんまりつけないかな。あっ、澪さん似合いそう。あ、シュシュもあるんだね。シンプルなのも可愛いし、リボンがついてるのも可愛いけど……、私にはちょっと甘めかな?」

 店内を見終わったあと、香澄は気に入った物を一つに決め、微笑む。

「じゃあ、やっぱり最初の鼈甲柄のにする」

「分かった」

 佑は微笑み、スタッフにフランス語で何やら話していく。

(……ん? ……ん? んん?)

 けれど彼はスラスラと話しながら香澄が今言った商品すべてを指さしていて、彼女はサァッと青くなる。

(忘れてた!)

 御劔佑と一緒に買い物をして、買う物が一つで終わるなど考えてはいけない。

 ずっと緊迫した状況にいて、久しぶりに佑に甘えられると思って色んなものが緩んでいたが、この男と買い物する時ほど気を緩めてはいけないと思いだした。

「あっ、あの……っ」

「ん? 大丈夫。あそこ、座ってようか」

 オーダーし終わった佑はソファに腰かけ、ポンポンと隣を叩く。

「うう……」

 先ほどの女性スタッフは他のスタッフにも声を掛け、バックヤードから商品を出すと中身を確かめ、次々にカウンターへ持っていく。

 中には頼んでいないはずのブラシまであり、ヘアゴムに至っては全種類注文したようだ。

(……駄目だこりゃ……)

 溜め息をついた香澄は、立ちあがって最初のクリップが幾らするのか見ようとする。

 が、佑にクン、と腕を引っ張られた。

 振り向くと、微笑んだ彼が首を左右に振っている。

(値段を気にするのは無粋、という事ですか)

 確かに彼が気前よく払ってくれるのに、値段を気にしてケチ臭い事を言ったら台無しだ。

「……ごめんなさい」

 大人しく隣に座って謝ると、キュッと手を握られた。

「じゃなくて?」

 顔を覗き込まれ、今一番言うべき言葉をハッと思いだす。

「ありがとう」

「ん」

 ポンポンと手を叩かれた香澄は、なるべく値段の事は考えないようにした。

 だが後日ひょんな事から東京で同じブランドを見つけ、値札を見てみたらクリップが一つ二万円ほど、物によっては四万円近くするのを知って、悲鳴を上げかけたのだった。





 店を出たあと、荷物は河野が持ち、護衛四人はさり気なく二人の側を歩く。

 二人はまた徒歩でヴァンドーム広場に戻り、ジュエリーショップに向かった。

「このヴァンドーム広場にはグランサンクと呼ばれている、五大宝飾店が集まっているんだ」

「そんな凄いお店に……」

 一気に恐くなった香澄は、すでに及び腰だ。

「エンゲージリングのデザインを見て、香澄が好みそうな店をピックアップして予約しておいた。あまり石が大きかったり、ギラギラしているのは避けたいんだろ?」

「う、うん……」

 記念になる婚約指輪とは分かっているが、やはり根っこの感覚は庶民派なので、あまり高価な物を身につけたくない。
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