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第二十一部・フェルナンド 編

随分前の事に思えるな

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 睫毛美容液を使っているお陰で、睫毛は随分長くなったし濃くなった。

 通っているサロンのアイリストの話では、睫毛美容液も二種類あるそうで、育毛効果のある物は、これから生えてくる睫毛の環境を守っていくらしい

 また睫毛も髪の毛と同じで保湿が大切になり、乾燥から守るためにコーティングタイプの美容液を使うとさらにいいそうだ。

 そのサロンには眉毛を整えてくれるメニューもあり、生えたままにしているとポヤポヤしてしまう眉毛を、自然な形に整えてもらっている。

 ブロウリストいわく、サロンに来る客は女性だけでなく、営業などで人に会う機会の多い男性もいるそうだ。

 睫毛パーマもお洒落のためだけではなく、目に刺さってしまうからパーマを掛けたい人もいるらしい。

 眉毛美容液もあるのだが、、そちらは目の際に使う物とは成分が異なっているのだとか。

(札幌時代に比べると、素の顔も少し変わったかも)

 自分の顔を見て「垢抜けたか」と言われても分からないが、美容についての知識は段違いに増えた。

 そんな事を考えながら、香澄は毛の流れに沿って一本ずつ描き足すように眉毛を描いていく。

 ブロウリストの話では、太眉の流行は終わりつつあり、次はナチュラルな眉毛がくるのでは、との事だ。

 香澄はもともとあまり眉毛の毛量が多くないので、その流れはありがたい。

(今まで、頑張って平行太眉にしようとして描き足した結果、たくましい眉毛になった事、何回もあるもんなぁ……)

 それもまた成長の過程と思ってクスッと笑ったあと、マスカラがよれないように顔全体にフィックスミストを掛けて完成だ。

(あとは髪の毛を整えて……、と)

「んっ?」

 立とうとした時、佑がこちらにスマホを向けているのに気づいた。

「また撮影してたの!?」

 呆れて声を上げると、彼はいい笑顔でサムズアップする。

「もー。そのうちお代とりますからね」

 香澄はスーツケースをゴソゴソして、普段使っているブラシやヘアアイロンを見つけると、また鏡に向かう。

 簡単に髪をブラッシングしたあと、百六十度に熱したヘアアイロンで髪をまっすぐにしていく。

「香澄はもともと直毛なのにな?」

 佑に不思議そうに言われ、香澄は乙女のこだわりを説明する。

「うーん……。気持ち? 佑さんが褒めてくれるから、もっとサラサラになりたいというオトメゴコロです」

 少し冗談めかして言うと、佑は相変わらず動画を撮りながらクスッと笑う。

「そういうの、嬉しいな。好きな人が俺のために努力をしてくれるなんて」

「んふふ」

 笑いながら、香澄はこのやりとりや雰囲気を、心の底で喜んでいた。

(ほんの少し前まで私と佑さんは東京にいて、毎日こんなやり取りをしてた。年末年始には麻衣にアロイスさんにクラウスさん、マティアスさんもいて、とても楽しかったな)

 そう思ってから、佑に知られないように小さく溜め息をつく。

(何だか随分前の事に思えるな……)

 年末年始の楽しい時間が、とても遠い過去の出来事に思える。

 手を伸ばせば触れられそうなほど最近の事なのに、とても遠い――。

「……香澄?」

 椅子に座ったままぼんやりしていると、佑がいぶかしげに声を掛けてきた。

「う、ううん! ごめんね。お待たせ! もう大丈夫だよ」

 立ちあがった香澄は、数歩下がって鏡で自分をチェックする。

「確認しなくても、いつも可愛いよ」

「そういうのはいいから」

 笑ったあと、ハンドバッグの中身を確認しながら、麻衣とマティアスの幸せを願った。

(幸せになってね)

 香澄は親友の指に桜模様の結婚指輪が嵌まっているのを想像し、そっと微笑む。

「麻衣にお土産を買おうっと。家族にも、会社のお三方にも」

「じゃあ一緒にパリっぽい土産を選ぼうか」

「うん」

「でも、ランチをとったあとに、婚約指輪をオーダーしてからな」

「う……、はい」

 香澄は照れ笑いをして頷く。

「じゃあ、ハラペコ香澄の腹を満たしに行こうか」

「もーっ!」

 怒ってみせると、佑は快活に笑った。



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