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第二十一部・フェルナンド 編

デートの準備

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 香澄はスリットの入った黒いスカートに、ビビッドなブルーの縦リブニットを着た。

 その上にグレンチェックのチェスターコートを羽織り、ブルーグレーのマフラーを首に掛ける。

(前に佑さんに、服を選ぶポイントを教えてもらったっけ)

 今回のようにビビッドなブルーのニットを引き立たせたい時は、他のアイテムの彩度を下げ、色物もブルーに近い色のくすみ色などにすると、綺麗にまとまるそうだ。

 教えてもらう時に、色相環というものを見せてもらったが、青の向かいには黄色系の色があり、それを補色という。

 補色はとても目立つので、初心者が使うならバッグなどの小物がいいとも教えられた。

 今日の装いならオレンジ色のバッグなら、綺麗にまとまるだろう。

 ハッキリ元気な印象にしたいなら、イエロー、オレンジ系のボトムスを選ぶと目立つだろうが、落ち着いた雰囲気にしたいので今日はやめておいた。

 他にも青の両隣には紫と緑があり、そのあたりの同系色を使うと落ち着いたコーディネートになるらしい。

(マゼンダ系の靴あったっけ)

 ニット以外があまり主張しない色なら、バッグでワインポイント目立たせるのもいいし、紫からもう一つ離れたピンク系から、彩度の低いマゼンダを選ぶとこなれた印象になりそうだ。

 バッグだと位置がニットに近いので、離れた所にある靴をマゼンダにするのが無難だ。

「バッグはグレージュとかでいいかな」

 その前に持ち物を確認しようと思い、確認する。

 スマホは佑が新しく買ってくれたウォレットポシェットに入れ、お気に入りのブランドのタオルハンカチが何枚も入っているのを確認し、ポケットティッシュ、ペン、メモもあるのを見て頷く。

(コスメポーチは……と。……さすが……)

 普段、佑は香澄がメイクをしている様子を、それほど注目しているように思えなかった。

 なぜなら、香澄が支度している時は佑も大体準備をしているからだ。

 なのに彼は香澄がよく使うコスメを、ブランドまでピンポイントで当ててポーチに入れてくれていた。

(すっご……。ここまでくると逆に感心しちゃうな)

 スーツケースには、ブランド物の化粧ポーチが複数あり、そちらにはルースパウダーや大きめのブラシなども揃っていた。

(ありがたくお化粧しよう)

「佑さん、ちょっと待ってもらっていい?」

 そう尋ねると、彼は香澄が持っているポーチを見て微笑む。

「ゆっくりメイクしといで。なんなら、香澄がいつも使ってる拡大鏡も持ってきたから」

「おお……。ありがと!」

 香澄はクシャッと笑い、拡大鏡を持って鏡の前の椅子に座る。

 眉を描く時は、顔全体を見たいから大きめの普通の鏡を見るが、アイメイクなど細部を描く時は拡大鏡を愛用している。

(何から何まで、いつもの環境を用意してもらえてありがたいな)

 佑はすでに着替え終わっていて、黒いテーパードパンツにチャコールグレーのタートルネックニット、その上に黒いジャケットを羽織っている。

 あとはコートにマフラーを引っかけて終わりだろう。

「男性は支度が早いよね。ごめんね、待たせて」

 言いながら、香澄はヘアバンドで前髪を上げ、ティッシュやウェットティッシュ、綿棒を手元に寄せて、まず日焼け止めから塗り始める。

「香澄が綺麗にメイクしてる姿、好きだよ」

 佑はベッドの上に座り、フットスローに足をのせてタブレット端末を見ている。

「そう言ってくれて嬉しい。佑さんは彼氏の鑑だな」

「香澄が可愛いから」

「んふふ」

 久しぶりに思える、佑のだだ褒めが嬉しい。

 いつもなら鏡を見ても「十人並みの顔だな」と思ってしまうが、佑に愛されていると思うだけでほんの少し可愛く思えてしまう。

(我ながら単純だ)

 日焼け止めを塗ったあと、透明感を増すパープルの下地を塗り、プライマーで肌をならし、時折ティッシュオフして余分な油分をとりながら、コンシーラー、ファンデーションと丁寧にベースメイクをしていく。

 そのあとクリーム状のシェーディングを色別に顔にのせて三角形に塗り、さらにハイライトをのせたあと、フィックスミストを吹きかけたスポンジで、ひたすら叩いてぼかしていく。

 最後はクリームチークをのせて終わりだ。

「さて、アイメイクと」

 今度は拡大鏡に顔を寄せ、お気に入りのアイシャドウパレットを出したあと、薄い色から自然にグラデーションを作っていく。

 アイホールの中央に濡れたような艶をラメで出し、スッと細めにブラウンのアイライナーを引き、細やかに涙袋や目頭のハイライトも入れる。
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