1,403 / 1,544
第二十一部・フェルナンド 編
我慢するしかないか
しおりを挟む
「……本当はマイに言うか言わないか、とても迷った」
マティアスは溜め息をつき、静かに言う。
「話せばマイは悩み、動揺してしまう。しかしカスミに会った時、事情を知った上で受け止めたほうがいいのかもしれないと判断した」
どんな時も冷静さを欠かない彼の判断を知り、少し気持ちが落ち着く。
「……そうだね。私、香澄がつらい目に遭ったっていうのに、何も知らずにいるのはやだ。香澄は何かあっても平気なふりをする。以前のドイツ関係の事だって、リアルタイムでは教えてもらえず、事後報告になった。……私は香澄が一番つらい時に寄り添ってあげたい」
動揺したものの、麻衣の中の軸はブレていない。
何よりマティアスが側にいてくれ、話し相手になってくれるから余計に気持ちを整理できる。
麻衣は溜め息をついたあと、鶏肉に竹串を刺して火の通り加減を確認し、慎重に菜箸で肉を油から取りだす。
片栗粉をまぶしておいたもう一枚をフライパンに入れたあと、揚がった肉を熱いうちに一口大に切り、レタスを敷き詰めた皿に肉をのせてタレをかけた。
「マイがつらい時は、俺が側にいる」
マティアスに言われ、麻衣は照れくさそうに微笑む。
以前なら彼のストレートな言葉を聞いたら「キザ!」と照れて怒っていただろう。
けれど彼のテンポに慣れた今は「頼もしいな」と嬉しく思えている。
(私も成長したな)
そんな事を思いながら、麻衣はシュワシュワと音を立てている肉を見守り溜め息をつく。
「香澄に電話してみようかな」
「それは少しタイミングを見たほうがいいかもしれない」
だがマティアスに言われ、彼を見た。
「どうして?」
「かなり切羽詰まっていて、余裕がない状態らしい。マイが連絡をしても心配させたくないと誤魔化すだろう。今はカイが側にいて対策を講じている。後手に回るのは歯がゆいかもしれないが、落ち着いた頃にカスミから話すのを待つほうがいいと思う」
「…………確かに……」
香澄は人を心配させる事を極端に嫌がる。
結局、すべて自分で背負ってパンクしてしまう事もあり、「それなら『つらい』って言えばいいのに」と歯がゆく思っている。
けれど長年の付き合いで、香澄は何かがあった時にすぐ反応できない人だとも分かっている。
嫌な事をされたとか、モヤッとする事を言われた時も、その場で言い返せず、あとからジワジワ思いだして悩んでしまうタイプだ。
香澄が今、渦中にいるのだとしたら、自分に教えてくれるのはもう少しあとになるだろう。
マティアスは、香澄の身の上に何があったと具体的に話していない。
教えてもらったとしても、自分の性格なら大人しく黙っていられない気がする。
佑とマティアスが警戒するぐらいだから、とても危険な状態なのは察する。
会社の人に嫌がらせをされた程度なら話を聞けるが、へたをすれば香澄も佑も、自分たちも危険な目に遭うかもしれないなら、やはりタイミングを見るべきだ。
「……気になるけど、……我慢するしかないか」
麻衣は溜め息をつき、肉の様子を見てからポケットに入れていたスマホを出す。
コネクターナウを開いて香澄とのトークルームを開いても、新しいメッセージはない。
『最近どう?』と様子を窺うメッセージを送ろうと思ったが、無理に平気なふりをさせるのも本意ではないのでやめておいた。
「カイと何を話したか、詳細は言わないでおく。気にするだけさせておいてすまない。だがマイが予想しているように危険が伴う事だから、カイから解決したと連絡を受けるまで待っていてほしい。不安だろうが俺が側にいる」
「うん」
「それまで、結婚式について具体的に考えていこう。俺が思うに、引っ越ししてから式を挙げるより、札幌で挙式するほうがマイの友人を呼べるからいいと思う」
「確かにそうだね。でもマティアスさんの関係者は、札幌まで来るの大変じゃない?」
「俺は友人が少ないし、友人は旅行が苦ではない人だから大丈夫だ」
「そっか」
ハッキリと友達が少ないと言われ、どう反応したらいいか分からないまま頷いておく。
マティアスは麻衣の微妙な反応を見て付け加えた。
「学生時代に飲みやBBQに誘われる事はあった。だが俺は常にエミリアの世話を焼いていたから、友人の誘いを二の次にせざるを得なかった。疎遠になったとも言いがたいし、声を掛ければ互いに応じる。だが結婚式のために日本までくる奴は限られていると思う」
「……そっか」
こんなところまでエミリアの存在が影を落としていると思わず、麻衣は静かに溜め息をつく。
マティアスは溜め息をつき、静かに言う。
「話せばマイは悩み、動揺してしまう。しかしカスミに会った時、事情を知った上で受け止めたほうがいいのかもしれないと判断した」
どんな時も冷静さを欠かない彼の判断を知り、少し気持ちが落ち着く。
「……そうだね。私、香澄がつらい目に遭ったっていうのに、何も知らずにいるのはやだ。香澄は何かあっても平気なふりをする。以前のドイツ関係の事だって、リアルタイムでは教えてもらえず、事後報告になった。……私は香澄が一番つらい時に寄り添ってあげたい」
動揺したものの、麻衣の中の軸はブレていない。
何よりマティアスが側にいてくれ、話し相手になってくれるから余計に気持ちを整理できる。
麻衣は溜め息をついたあと、鶏肉に竹串を刺して火の通り加減を確認し、慎重に菜箸で肉を油から取りだす。
片栗粉をまぶしておいたもう一枚をフライパンに入れたあと、揚がった肉を熱いうちに一口大に切り、レタスを敷き詰めた皿に肉をのせてタレをかけた。
「マイがつらい時は、俺が側にいる」
マティアスに言われ、麻衣は照れくさそうに微笑む。
以前なら彼のストレートな言葉を聞いたら「キザ!」と照れて怒っていただろう。
けれど彼のテンポに慣れた今は「頼もしいな」と嬉しく思えている。
(私も成長したな)
そんな事を思いながら、麻衣はシュワシュワと音を立てている肉を見守り溜め息をつく。
「香澄に電話してみようかな」
「それは少しタイミングを見たほうがいいかもしれない」
だがマティアスに言われ、彼を見た。
「どうして?」
「かなり切羽詰まっていて、余裕がない状態らしい。マイが連絡をしても心配させたくないと誤魔化すだろう。今はカイが側にいて対策を講じている。後手に回るのは歯がゆいかもしれないが、落ち着いた頃にカスミから話すのを待つほうがいいと思う」
「…………確かに……」
香澄は人を心配させる事を極端に嫌がる。
結局、すべて自分で背負ってパンクしてしまう事もあり、「それなら『つらい』って言えばいいのに」と歯がゆく思っている。
けれど長年の付き合いで、香澄は何かがあった時にすぐ反応できない人だとも分かっている。
嫌な事をされたとか、モヤッとする事を言われた時も、その場で言い返せず、あとからジワジワ思いだして悩んでしまうタイプだ。
香澄が今、渦中にいるのだとしたら、自分に教えてくれるのはもう少しあとになるだろう。
マティアスは、香澄の身の上に何があったと具体的に話していない。
教えてもらったとしても、自分の性格なら大人しく黙っていられない気がする。
佑とマティアスが警戒するぐらいだから、とても危険な状態なのは察する。
会社の人に嫌がらせをされた程度なら話を聞けるが、へたをすれば香澄も佑も、自分たちも危険な目に遭うかもしれないなら、やはりタイミングを見るべきだ。
「……気になるけど、……我慢するしかないか」
麻衣は溜め息をつき、肉の様子を見てからポケットに入れていたスマホを出す。
コネクターナウを開いて香澄とのトークルームを開いても、新しいメッセージはない。
『最近どう?』と様子を窺うメッセージを送ろうと思ったが、無理に平気なふりをさせるのも本意ではないのでやめておいた。
「カイと何を話したか、詳細は言わないでおく。気にするだけさせておいてすまない。だがマイが予想しているように危険が伴う事だから、カイから解決したと連絡を受けるまで待っていてほしい。不安だろうが俺が側にいる」
「うん」
「それまで、結婚式について具体的に考えていこう。俺が思うに、引っ越ししてから式を挙げるより、札幌で挙式するほうがマイの友人を呼べるからいいと思う」
「確かにそうだね。でもマティアスさんの関係者は、札幌まで来るの大変じゃない?」
「俺は友人が少ないし、友人は旅行が苦ではない人だから大丈夫だ」
「そっか」
ハッキリと友達が少ないと言われ、どう反応したらいいか分からないまま頷いておく。
マティアスは麻衣の微妙な反応を見て付け加えた。
「学生時代に飲みやBBQに誘われる事はあった。だが俺は常にエミリアの世話を焼いていたから、友人の誘いを二の次にせざるを得なかった。疎遠になったとも言いがたいし、声を掛ければ互いに応じる。だが結婚式のために日本までくる奴は限られていると思う」
「……そっか」
こんなところまでエミリアの存在が影を落としていると思わず、麻衣は静かに溜め息をつく。
11
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる