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第二十一部・フェルナンド 編

テオは、エミリアの兄だ

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「何か丸い盛り上がりがあるぞ」

 笑い交じりに言われ、いつものやり取りにまた心の中が温かくなる。

 香澄が布団から顔をピョコッと出すと、手にトレーを持った佑が立っていた。

「軽食をもらってきたけど、食べられる? 気が滅入っている時って、大体エネルギーが足りない時だから」

「うん、食べる」

 香澄が体制を整える間、佑はベッドの脇にあった収納式のテーブルを引き出した

 彼はテーブルにトレーを置くと、クローゼットからTシャツを出して香澄に手渡す。

「ありがとう。わ、メロンと葡萄だ。豪華~」

 ガラスのフルーツボウルにはメロンと葡萄がたっぷり入っていて、そのジューシーな見た目に喉が鳴る。

 他にもサンドウィッチやお粥など、食欲がなくても食べられそうな軽食がトレーに載っていた。

「お粥は俺のお気に入りのシリーズなんだ。美味しいと思うよ」

「ありがとう。お粥大好き」

 香澄がいつも飲んでるブレンド茶のペットボトルもあり、他にもオレンジジュースの入ったグラス、さらに水のペットボトルもある。

 食べる前にモソモソとTシャツを着た香澄は、おずおずと佑に訴える。

「佑さん……、その」

「ん?」

「ぱ、パンツもください……」

 上半身はTシャツを着たものの、下半身はスースーだ。

「……せっかくごまかせていたと思ったのに」

 佑は冗談なのか本気なのか分からない事を言い、クローゼットからピンクベージュの下着を出す

「ごまかせてません!」

 香澄は笑いながら下着を受け取り、布団に隠れたまま穿いた。

「いただきます」

 そのあとレンゲを手に取り、お粥をふうふうと冷ましてかれ食べ始める。

「美味いか?」

「うまい」

 お粥は米の香りがし、フワフワの玉子が胃に優しそうだ。

 麩とワカメの味噌汁も、一口飲んだだけで高級な出汁を使っていると分かった。

(おいしい……)

 佑が側にいるだけで、こんなにも食事を美味しいと感じられる。

 加えて、ずっと日本食に飢えていたから余計に美味しいのだろう。

 クルーズ船で食べた料理も美味しかったが、香澄は佑と一緒に行動する中で、彼がよく食べる物に舌が慣れてしまった。

 佑はフレンチもイタリアンも中華も食べるが、あまりカロリーが高すぎない物を好んでいて、香澄も同じ嗜好をしていた。

 だから佑が自分用に整えたプライベートジェットでの食事が、特別に美味しく感じたのだと思う。

「……そうだ。私、テオさんとソフィアさんと、ジョシュに助けられたの。シャーロットちゃんもまだ小さくて……。あの家族、大丈夫かな」

 クルーズ船での食事を思いだしたからか、今になって香澄はテオたち一家を思いだした。

 同時に、大変だったとはいえ、自分の事で一杯一杯になって、恩人の存在を今になって思い出すなんて……と、自己嫌悪に陥る。

「テオたちなら大丈夫だ。香澄が船内で再度捕まったあと、テオから連絡があった。取り返すべきか尋ねられたが、俺が『深追いしなくていい』と言った。『何でも協力する』と言ってくれたが、家族がいるのに危険な目に遭わせられない」

「そっか……。無事で良かった……。いつか、ちゃんとお礼を言いたいな」

「彼らはNY住まいだから、いつか一緒に遊びに行こう」

「うん。……そうだ。テオさんは私に〝借り〟があるって言ってたけど、どういう意味か分かる?」

 尋ねると、佑は決まり悪く押し黙った。

(あれ、地雷だったかな……)

 そう思って見守っていると、佑はしばらくの沈黙のあと、息を吐いてから口を開いた。

「テオは、エミリアの兄だ」

 その関係に驚いた香澄は、目を丸くして佑を見た。

 彼女が何か言う前に、佑は続ける。

「テオはエミリアと完全に縁を切っている。そして、忌避している。だからメイヤー家の者でも、彼だけは信用していい。実際、イギリスでの一件でも、テオは尽力してくれた」

「……そっか」

 納得した香澄は頷いた。

「テオは今メイヤーでなく、ソフィアの姓であるアルダーソンを名乗っている。だから、彼についてはエミリアとは無関係と思ってほしい」

「全然気にしてないよ。だって本当にテオさんたちには救われたもの」

「ん……」

 佑は香澄の返事を聞き、ポンポンと頭を撫でてくる。

 そのあと佑は気分転換のために「何か音楽をかけるか」と言い、ベッドルームのタブレットを操作してオーケストラの演奏を流し始めた。

 きっとニュースを見ると情報量が多くて、香澄が不安になると思ったのだろう。

 香澄はその気遣いに、心の中で感謝した。

 音楽を聴きながらモリモリとお粥を食べ、温かな味噌汁を飲み、ミニサイズのサンドウィッチやフルーツ、ヨーグルトを食べると、段々気力が沸いてきた。
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