1,390 / 1,559
第二十一部・フェルナンド 編
あげまんになろう
しおりを挟む
「さっきは、上書きするためにエッチしたいって思ったけど、お喋りしたら少しずつ落ち着いてきた。……あと、香りの力って凄いね。いつもテンション上げるためにコロンを変えたり、新しく足してつけたりしてるけど、お気に入りの匂いって元気をくれる」
そう言うと、佑は微笑んで頷いた。
「ん、なるべく香澄の〝日常〟を持って迎えようと思った。基礎化粧品も、コスメも、香りも、サプリも」
「んふふ。準備万端だね」
佑の言う通り、〝日常〟があれば早く落ち着ける。
たとえ慣れない海外ホテルのスイートルームにいても、いつものルームウェアを着て、お気に入りの音楽を聴き電子書籍を読める状態で、日本にいる家族や麻衣と連絡を取れていれば、必要以上に寂しさを味わわずに済む。
「……私のスマホ、フェルナンドさんに取り上げられたまま……だよね。解約しないと。せっかく誕生日に最新機種をプレゼントしてくれたばかりなのに、ごめんなさい」
しょんぼりして言うと、佑は香澄の髪を優しく撫でた。
「あぁ、それについてだけど、勝手ながら二台とも使えないようにしておいた」
「本当? ありがとう」
さすがやる事が早いと、香澄は驚きつつも佑の行動を称賛する。
「あと、使えるようにしてある新しいスマホを持ってきてるよ。これからはそれを使って。色は香澄の好きなピンクゴールドにしておいた」
「え、えぇ……。あ、ありがとう。す、凄い……」
痒い所に手が届くとは、まさにこの事だ。
「データもちゃんとバックアップしてある。ご家族や麻衣さんともすぐに連絡が取れるよ」
「そ、そこまで? い、いつの間に……」
佑は微笑んで話していたが、少し目を逸らして言う。
「……怒られるかもしれないが、前にスマホをプレゼントしようと思った時、ちょっと香澄のスマホを拝借して、データをバックアップしておいたんだ。パスワードは……、その、前に教えてくれたから、諸々……。……ごめん」
一歩間違えると犯罪になりかねないが、香澄は笑って許した。
「佑さんらしい。最終的にとても助かってるから、文句はありません。逆にありがとう。大切な人にすぐ連絡できる状況って、何にも代えがたいから」
「……良かった」
自分のした事がかなりスレスレだった自覚はあったのか、佑は胸を撫で下ろす。
「結婚するんだし、佑さんにならパスワードとか知られても問題ないよ」
すると佑は安堵しつつも嬉しそうにし、ほんの少しだけ困った表情で笑った。
「俺だけ、な。他の人にはもっと慎重になって」
「うん」
その時もう一度サインが鳴り、エンジンの音がいっそう大きくなる。
自然と無言になった二人は、黙って手を握り合う。
やがて飛行機が加速して後ろ向きのGが掛かり、タイヤが滑走路を離れてフワッと機体が浮き上がるのが分かった。
何度飛行機に乗っても、離陸と着陸はドキドキする。
しばらくして高度が安定し、サインが鳴ってシートベルトのマークが消えた。
「少し、待ってて」
そう言った佑はベッドから下り、クローゼットからリラックスパンツを出して穿くと、Tシャツを被りベッドルームから出ていった。
香澄はシートベルトを外し、またモソモソと横になって羽根布団を被る。
話す相手がいなくなると思考が内向きになり、誘拐されてからの事がグルグルと巡ってしまう。
なんとかして自分の身に降りかかった不幸に〝結論〟をつけようとするが、うまくいかなかった。
「幸運ばかり続いたら、いつか悪い事も起こる」
香澄はポツリと呟き、溜め息をつく。
(不幸な出来事に蹂躙されっぱなしじゃない。いつだって幸せになりたいと足掻いてるつもり。でも、人生が常にイージーモードじゃない事ぐらい分かってる)
自分に言い聞かせ、うん、と頷く。
少しスピリチュアルな、運勢の話はよく分からない。
だが佑のような成功者の運が、一般人のそれと同じとは思わない。
富裕層の女性を母に持ったところから、佑の強運は始まっている。
きっと目に見えない大きな力が、佑の周りでゴウゴウと渦巻いているのだろう。
一般人とは比べものにならない強運があり、同時に外した時は物凄い額の金が飛び、それ以上の不幸が訪れる可能性もある。
(……でも、一緒にいるって決めた。何があっても覚悟は決めてる)
一緒にいると男性の運気を上げる女性を〝あげまん〟というし、世の中には運にまつわる不思議な事柄が沢山あるのだろう。
「……よし、佑さんのあげまんになろう」
呟いてぼんやりと頭に浮かんだのは、札幌近郊の中山峠で打っているあげいもだ。
(……お腹空いた……)
安全な所で落ち着いたからか、ようやく空腹を感じた。
思えばクルーズ船で再びフェルナンドに掴まって以来、ストレスでろくに食べられていなかった。
それを裏付けるようにクゥゥ……とお腹が鳴り、香澄はモソモソと体を丸める。
――と、佑が戻ってきて、布団越しにポンとお尻を叩かれた。
そう言うと、佑は微笑んで頷いた。
「ん、なるべく香澄の〝日常〟を持って迎えようと思った。基礎化粧品も、コスメも、香りも、サプリも」
「んふふ。準備万端だね」
佑の言う通り、〝日常〟があれば早く落ち着ける。
たとえ慣れない海外ホテルのスイートルームにいても、いつものルームウェアを着て、お気に入りの音楽を聴き電子書籍を読める状態で、日本にいる家族や麻衣と連絡を取れていれば、必要以上に寂しさを味わわずに済む。
「……私のスマホ、フェルナンドさんに取り上げられたまま……だよね。解約しないと。せっかく誕生日に最新機種をプレゼントしてくれたばかりなのに、ごめんなさい」
しょんぼりして言うと、佑は香澄の髪を優しく撫でた。
「あぁ、それについてだけど、勝手ながら二台とも使えないようにしておいた」
「本当? ありがとう」
さすがやる事が早いと、香澄は驚きつつも佑の行動を称賛する。
「あと、使えるようにしてある新しいスマホを持ってきてるよ。これからはそれを使って。色は香澄の好きなピンクゴールドにしておいた」
「え、えぇ……。あ、ありがとう。す、凄い……」
痒い所に手が届くとは、まさにこの事だ。
「データもちゃんとバックアップしてある。ご家族や麻衣さんともすぐに連絡が取れるよ」
「そ、そこまで? い、いつの間に……」
佑は微笑んで話していたが、少し目を逸らして言う。
「……怒られるかもしれないが、前にスマホをプレゼントしようと思った時、ちょっと香澄のスマホを拝借して、データをバックアップしておいたんだ。パスワードは……、その、前に教えてくれたから、諸々……。……ごめん」
一歩間違えると犯罪になりかねないが、香澄は笑って許した。
「佑さんらしい。最終的にとても助かってるから、文句はありません。逆にありがとう。大切な人にすぐ連絡できる状況って、何にも代えがたいから」
「……良かった」
自分のした事がかなりスレスレだった自覚はあったのか、佑は胸を撫で下ろす。
「結婚するんだし、佑さんにならパスワードとか知られても問題ないよ」
すると佑は安堵しつつも嬉しそうにし、ほんの少しだけ困った表情で笑った。
「俺だけ、な。他の人にはもっと慎重になって」
「うん」
その時もう一度サインが鳴り、エンジンの音がいっそう大きくなる。
自然と無言になった二人は、黙って手を握り合う。
やがて飛行機が加速して後ろ向きのGが掛かり、タイヤが滑走路を離れてフワッと機体が浮き上がるのが分かった。
何度飛行機に乗っても、離陸と着陸はドキドキする。
しばらくして高度が安定し、サインが鳴ってシートベルトのマークが消えた。
「少し、待ってて」
そう言った佑はベッドから下り、クローゼットからリラックスパンツを出して穿くと、Tシャツを被りベッドルームから出ていった。
香澄はシートベルトを外し、またモソモソと横になって羽根布団を被る。
話す相手がいなくなると思考が内向きになり、誘拐されてからの事がグルグルと巡ってしまう。
なんとかして自分の身に降りかかった不幸に〝結論〟をつけようとするが、うまくいかなかった。
「幸運ばかり続いたら、いつか悪い事も起こる」
香澄はポツリと呟き、溜め息をつく。
(不幸な出来事に蹂躙されっぱなしじゃない。いつだって幸せになりたいと足掻いてるつもり。でも、人生が常にイージーモードじゃない事ぐらい分かってる)
自分に言い聞かせ、うん、と頷く。
少しスピリチュアルな、運勢の話はよく分からない。
だが佑のような成功者の運が、一般人のそれと同じとは思わない。
富裕層の女性を母に持ったところから、佑の強運は始まっている。
きっと目に見えない大きな力が、佑の周りでゴウゴウと渦巻いているのだろう。
一般人とは比べものにならない強運があり、同時に外した時は物凄い額の金が飛び、それ以上の不幸が訪れる可能性もある。
(……でも、一緒にいるって決めた。何があっても覚悟は決めてる)
一緒にいると男性の運気を上げる女性を〝あげまん〟というし、世の中には運にまつわる不思議な事柄が沢山あるのだろう。
「……よし、佑さんのあげまんになろう」
呟いてぼんやりと頭に浮かんだのは、札幌近郊の中山峠で打っているあげいもだ。
(……お腹空いた……)
安全な所で落ち着いたからか、ようやく空腹を感じた。
思えばクルーズ船で再びフェルナンドに掴まって以来、ストレスでろくに食べられていなかった。
それを裏付けるようにクゥゥ……とお腹が鳴り、香澄はモソモソと体を丸める。
――と、佑が戻ってきて、布団越しにポンとお尻を叩かれた。
24
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる