上 下
1,389 / 1,550
第二十一部・フェルナンド 編

佑さんって不思議

しおりを挟む
 そのあと、日本語で機内放送が流れた。

 機長が挨拶し、天候や温度を知らせたあと、これから飛行機はシャルル・ド・ゴール空港に向かうと告げる。

「一旦、起きようか」

「うん……」

 そういえばベッドにいるままで大丈夫なのだろうか? と思った時、佑が枕やクッションをポイポイと足元に投げる。

「ここにシートベルトがあるから」

 ベッドのヘッドボードの脇にはシートベルトがあり、枕があったベッド中央にはバックルが埋められてあった。

 どれだけイチャイチャしていて、これが佑の飛行機でも、離陸の時はきちんとシートベルトをしなければいけない。

 少し冷静になった香澄は、ヘッドボードにもたれ掛かって座り、羽根布団で下半身や胸元を隠した。

 シーツの上に何気なく置かれていた香澄の手に、佑の手が重なる。

「もう大丈夫だよ」

「……うん」

 ベッドルームの窓はすべて閉じられ、外の景色は見えないが、エンジン音と振動とで飛行機が移動しているのが分かる。

「……香澄」

「ん?」

 名前を呼ばれ、彼女は隣に座っている佑を見る。

「世界には、まだまだ美しい所が沢山ある」

「? ……うん」

「イギリスも、アメリカも、どうかこれで嫌な印象を抱かないでほしい。とても素晴らしい場所があるし、きっと香澄も気に入ると思う。勿論、すぐに楽しめなんて言わない。ただ、香澄にこれ以上世界を怖く思ってほしくないんだ」

 佑の言いたい事を察し、香澄は笑みを零した。

「大丈夫だよ。子供じゃないもん」

 笑いながらも、彼がただ過保護に接するだけでなく、香澄の未来や視野が狭くならないように、きちんと気遣ってくれている事に感謝した。

「佑さんって不思議」

「ん?」

「……私の事になると、視野が狭くなって頭が悪くなる事もあるのに、基本的に物事を長期的に見られて、視野もとても広いもん。ニセコではルカさんを殴ったのに、すぐ仲良くなっちゃうところとか、うまく言えないけど心を開いていて素敵だなと思う」

「そうか?」

 ニセコでの事を話した時、佑は少し微妙な顔になったが、微笑するとポンポンと香澄の頭を撫でてくる。

「あのね、怒らないでほしいんだけど、やっぱり佑さんってお父さんみたい」

「んん」

 思わず佑が咳払いをする。

「ふふ。おちょくってるとか悪い意味じゃなくて、異性として見ている上で、お父さん属性があるというか……。懐が広いな、って思って。恋人、婚約者として私を甘やかすだけじゃなくて、ちゃんと成長させようとしてくれている」

 佑は指で彼女の手をスリ……と撫で、彼女はさらに続ける。

「お互い大人だから、普通ならそのままの相手と付き合っていくんだと思う。でも佑さんは私に色んな〝初めて〟を体験させてくれて、沢山の人に出会わせてくれるし、まだまだ知らない世界があるって教えてくれる。だから私、佑さんと一緒ならもっと変わっていけるって思えるの」

「香澄のためになってるなら良かった

 彼女は三角座りをした膝に顔を伏せ、佑の手をギュッと握る。

(大丈夫。私には佑さんがいる)

 自分に言い聞かせたあと、香澄はフハッと息を吐いて苦笑いした。

「……私、佑さんにもらってばっかりだな。プレゼントも、色んな体験も、愛情も。それに守ってもってばっかり」

「それでいいんだよ。代わりに俺は、世界一大好きな人を手に入れられた。香澄が笑顔でいてくれる事が、何より嬉しい。香澄は俺の大切な婚約者だから、ピンチになったら必ず駆けつける。ご両親から香澄の事を任されているし、この命に替えても守り切る」

「……秘書だから、社員手当てもあるかな?」

 冗談めかして言うと、佑は横を向いて肩を震わせ笑う。

「……元気出てきた?」

 ひとしきり笑った佑は、香澄の肩を抱いて尋ねてくる。

 香澄は彼の肩に頭を預け、目を閉じた。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

処理中です...