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第二十一部・フェルナンド 編

いつもの香りに包まれて ☆

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「飛行機にもジョン・アルクールがあるの、嬉しいな」

 香澄は脱衣所で髪を乾かしたあと、いつもの基礎化粧品でフェイスケアをした。

 その間、佑が体に化粧水を塗ってくれ、仕上げに香澄が自分でジョン・アルクールのネクタリンのボディクリームを塗る。

 いつもの行動をし、いつもの香りに包まれて、やっと気持ちが少し落ち着いた。

 その隣で佑はバジル&ネロリのボディクリームを塗り、仕上げにウード&ベルガモッドのコロンをワンプッシュしていた。

 そして歯磨きをし、二人とも下着もつけず、ベッドに潜り込んだ。

 素肌が質のいい羽根布団に触れて心地良く、御劔邸のベッドルームと似た匂いにさらに落ち着きが増す。

 その匂いを嗅いだ香澄は、目を閉じて深呼吸をした。

 コロンと横臥すると佑の滑らかな胸板に顔を押しつけ、脚を彼の脚に絡める。

 その体勢のまま、しばらく香澄は目を閉じて佑の存在を感じていた。

 肌の温もり、呼吸、香り。頭や背中を優しく撫でてくれる大きな手。

「ここは白金台の御劔邸のベッドルーム」と自分に言い聞かせる。

(ここは佑さんの飛行機のベッドルーム。もう大丈夫……。大丈夫だよ)

 もう一度自分に言い聞かせた香澄は、胸に沢山詰まって解き放てずにいる想いを、少しずつ佑に伝えていった。

「……来てくれてありがとう」

 目を開けて小さく言うと、佑は泣きそうな表情でぎこちなく笑う。

「香澄のためなら、どこにでも飛んでいくよ」

 その言葉を聞き、香澄も目を細めて微笑んだ。

「……私の事、……大事?」

 また、幼稚な質問をしてしまう。

 いまだに怯えが残っていて冷静な態度が取れない香澄は、どうしても愛されている事を確認し、自分の安全を確かめようとしていた。

「大事だよ。この世の何より大事だ」

 世界で一番素敵だと思う声が望む言葉を口にし、額にキスが与えられる。

 佑の胸板に掌を当てると、トクットクッと彼の鼓動が伝わってきた。

 香澄は両手で佑の頬を包むと、この世で一番美しい顔を指先で辿り、親指で唇をなぞる。

 そして美しいヘーゼルの目をジッと見つめると、自分からそっとキスをした。

 佑は優しく香澄を抱き締め、いつものように優しく唇をついばみ返してくれる。

 いつもならだんだん深いキスに変わっていくのに、彼はそうしない。

 香澄が唇をついばめば、同じようにし、決して彼のほうから舌を差し込もうとしなかった。

(私のしたいようにしていいんだ)

 そう思った香澄は安心して佑の唇を味わい、自分のペースで舐めて甘噛みし、ついばんで、休憩するように息を吐いた。

 そのあいだ佑は優しく香澄の髪を手で梳き、背中をトントンと軽く叩いてくれた。

 佑の胸板に掌を押し当てると心音が分かり、彼の呼吸音を聞くととても安心して白金台の家にいるような気持ちになった。

 彼はちゅ……と香澄の唇をついばみ、彼女の髪をサラサラと手でいじる。

「ん……っ」

 耳を撫でられただけで香澄はゾクンと感じ、色っぽい吐息を漏らす。

「気持ちいい?」

 尋ねられ、香澄はコクンと頷いた。

「口に出して言ってみて」

「……き、気持ち、……いい……」

 恥じらいながらもそう言うと、心が少し軽くなった気がした。

「じゃあ、これは?」

 佑が頭をいい子、いい子、と撫でてくれる。

「……好き」

「うん。これは?」

 今度は頬や目蓋に、触れるだけのキスをされる。

「……好き。…………んっ」

 言った途端、背中に触れていた佑の手が腰に下り、お尻を撫でてからじわりと揉んでくる。

「これは?」

「……ドキドキする。……腰の辺りがゾクゾクして、お腹の奥が切なくなる」

「……ん」

 微笑んで頷いた佑は、しばらく香澄のお尻を揉んでいた。

 いっぽうでお尻を愛撫された香澄は、心の底で微かな怯えを感じていた。

 けれど目の前にいるのは、世界で一番大好きな人だ。

 ここは誰にも脅かされない場所だし、佑のぬくもりに包まれて安心を得ているから、たとえ秘部に触られても怖れる必要はないと思っていた。

 佑は香澄のお尻を揉みながら、顔に優しいキスの雨を降らせる。

 どれだけそうされていたのか、気がつくと香澄の心はフワフワとした温かなものに満たされていた。

 その時、飛行機のサインがポーンと鳴った。

「あ……っ」

 ドキッとした香澄は、ここが機内であると思い出す。
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