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第二十一部・フェルナンド 編

どこに行った! あのクソアマ!

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 記者会見が終わったあと、佑はチラッと腕時計に視線を走らせ、本城に言う。

「私もチェックしますが、その後の動向を教えてください」

「承知しました」

 そのあと佑は会社に戻り、すぐ帰宅する準備をする。

 荷物は昨晩準備してあり、これからすぐロサンゼルスに飛ぶ予定だ。

 香澄が乗っているクルーズ船がロサンゼルスに着くにはまだ時間があるが、その前にしておくべき事があった。

「大変な時に不在にしてすまない。諸々片付いたらすぐパリコレ会場に駆けつける。もし無理な時は打ち合わせの通りに」

 社長室には朔もいて、事情を聴かされている彼はサラリと言う。

「気にしないで。事前に教えてもらえただけで御の字だ。二人でやってるから、片方が挨拶をすればOKだろ。勿論、間に合えばそれ以上の事はない。赤松さんを無事取り戻したら、万全の状態で来てくれ」

「ありがとう」

 朔に礼を言ったあと、佑は河野と松井に「行こう」と告げ、社長室を出た

 会見が終わったらすぐロサンゼルスに向かうとあらかじめ伝えていたので、松井も河野も、護衛や運転手もすでに支度を終えている。

 飛行機も整備させてあり、いつでも飛び立てるようにしている。

 あとは警察に事情を話して、日本を出たあとの連絡手段を確保するだけだ。



**



 香澄がテオたちに保護された夜。

『どこに行った! あのクソアマ!』

 フェルナンドは苛ついて怒鳴り、スイートルームのソファにドカッと腰掛ける。

 香澄を見失ったボディガードたちは大きな体を縮こまらせ、面目なさそうに俯いていた。

『……あのガキ……。見覚えがある……』

 フェルナンドは獰猛に唸ったあと、ノートパソコンを開き〝Famous kids〟と検索欄に打ち込み、画像欄をスクロールしていく。

 彼は目を皿のようにして、膨大な量の画像を見ていき、一枚の画像をクリックした。

『……ジョシュア・アルダーソン。最年少アルクメンバー』

 どうりで見た事があると思った。

 彼がアルクのメンバーになったのは四歳の時で、当時は全世界が震撼した。

(だとしたら、さっきカスミを連れて行ったのは、演技とも言える)

 記事によるとジョシュアはただ知能指数が高いだけでなく、難解な本を次々に読み、音楽や美術センスも申し分なく、楽器の演奏も目覚ましい成長を見せているらしい。

(父親はドイツ、メイヤー家のテオ・アルダーソン。母親はイギリス貴族のソフィア・アルダーソン。裏でタスク・ミツルギと繋がっていてもおかしくない)

 頭の中で佑とジョシュアを結びつけたあと、フェルナンドは部下に命じた。

『さっきのガキを探せ。見つけてもすぐに声を掛けず、どの部屋に泊まっているか突き止めるんだ。その部屋にあの女がいるに決まっている。部屋を突き止めたら家族が出払ったタイミングを見計らって、女をおびき出せ』

『イエス、ボス』

『今夜は恐らく部屋から出ないだろう。明日から相手の行動パターンを想像して動け』

 ボディガードが部屋を出て行ったあと、フェルナンドは乱暴に溜め息をつく。

 それから目を閉じて気持ちを落ち着かせてから、パソコンを操作してとあるサイトを覗いた。

 サイトには香澄の写真があり、日本人である事や身長、おおよその体重、体型、性格などが書かれてある。

 現在オークションが行われている真っ最中で、ロサンゼルスに到着する前には買い手が決まる予定だ。

 香澄の値段はどんどん釣り上がち、今は六十五万ドル(約七千万超)を超えようとしている。

 普通のアジア人女性なら、ここまでの値段にならないだろう。

 だが彼女は〝御劔佑の婚約者〟だ。

 佑に一泡吹かせたい者たちが、こぞって香澄を落札しようとしている。

 彼らもまた、フェルナンド同様に佑を恨み、妬んでいる。

『せいぜい、いい値段になってくれよ』

 呟いたフェルナンドは、本来女性に対してとても親切な男だ。

 いついかなる時でも紳士的で、怒りを覚えた時も自分の感情をコントロールできる。

 だが心の底から憎んでいる佑には抑えが効かず、どこまでも残酷な男になる。

 だからか弱い香澄がどんな扱いを受けても、フェルナンドは良心の呵責を覚えない。

 売られたあと、性的なはけ口にされるのは当たり前だと思っている。

 買い手に引き取られたあと、不妊で困っている夫婦の代わりに子を産む事だってあり得るし、佑を脅す材料にもなるだろう。

 平和な日本でぬくぬくと育ち、暴力など振るわれた事がない女性に見えるが、香澄が傷付けられ、薬を打たれても同情しない。

 最悪殺されても、売ったあとなら知った事ではない。

 彼女が御劔佑の婚約者になった運命が悪いのだ。
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