1,366 / 1,544
第二十一部・フェルナンド 編
AとK
しおりを挟む
「時差的な問題はいいのか?」
佑が尋ねると、佐伯は「ええ」と頷く。
「彼の生活は不規則ですが、コールが掛かると大体出ます」
佐伯が言ったように、少ししてから『何の用だ? A』と返事がある。
Aというアルファベットは、佐伯の名前の何にも掛からない。
恐らく同様に、相手のKも何も本人に結びついていないのだろう。
『裏の依頼がある』
佐伯がKに依頼を伝えたあと、少し間が空く。
『cavp』
送られてきた謎のアルファベットの羅列を、佐伯が説明する。
「Cはクラッキング、情報の破壊や不当複製、アクセス制御の突破などすべてを意味します。Aはアタックのみ。Vはヴァンダル、広義の荒らし行為です。Pは電話回線に関わるクラッキング。社長の場合、後始末も念入りにするなら、オーダー的に最上位のCに当たります」
「構わない。金は幾らでも出す」
「依頼者の名前を出すか出さないかでも、値段が変わります。依頼者の名前を出せばKに対してある程度の保証になり、また何かあった場合、彼に再度オーダーしやすくなります。ですが彼を敵に回した場合の覚悟をしなくてはなりません。匿名でもオーダーできますが、高額になります。加えて今回のターゲット……赤松さんに関わる事なら、Kならすぐ社長だと分かるでしょう」
「守秘義務については信用していいんだな?」
「ええ。社長とこの場にいる方々さえ、Kの秘密を守ってくださるなら心配ありません。本来なら僕一人で彼にオーダーするところですが、社長が依頼者として名前を出されるのなら、確認の顔出しが必要です。彼もオーダーを受けるのは、秘密の守れる身元のしっかりした人のみ……と決めていますから」
「分かった。顔出ししても構わない」
そこで佑は後方を振り向き、彼の視線を受けた松井や河野、護衛たちは部屋を出ていった。
それを確認してから、佐伯は滑らかにキーボードに手を滑らせた。
『何でもありで依頼を頼む。依頼者はここにいる。彼から直接オーダーを受けてほしい。俺が信頼している人だから、守秘については心配ない』
そこまで打ってから、佐伯は「すみません、僕は覆面をします」と言って、傍らにあるひょっとこのお面を被り、インカムをつける。その上からパーカーのフードを被った。
「音声を繋げます」
佐伯が告げ、佑は彼に指示された場所に立った。
やがてモニターの一つに、〝K〟がついたエンブレムが映った。
向こう側から、ボイスチェンジャーで声を変えた男の声がする。
『タスク・ミツルギ? ワオ、大物だ』
こちらから何も言わずとも、Kは佑の姿を見ただけで相手が誰かすぐ分かったらしい。
『A、依頼って彼から?』
Kからの問いに、A――佐伯も、ボイスチェンジャー越しの音声で答える。
『そうだ。恩のある人だから、どうかオーダーを受けてほしい』
佐伯がKに告げたあと、佑が口を開いた。
『K、初めまして。タスク・ミツルギだ。顔と名前を晒してでも、君に頼みたい事がある』
英語にもビジネス用の丁寧な言葉があるが、佑はあえて彼らの流儀に合わせてフランクな英語で話し掛けた。
『いいよ、どんなオーダー? 聞くだけ聞いてみる』
Kの返事を聞き、佑はバルセロナでフェルナンドと会った経緯から、香澄が誘拐された一連の流れを話した。
『ふぅん……。ダークウェブに流したなんて、相当だね。まぁ、あんたなら誰の恨みを買ってもおかしくないけど』
その上で佑は、香澄に関するデータをすべて削除した上で、彼女のデータにアクセスした者へのクラッキング、またフェルナンドのパソコンに侵入し、香澄を取り戻すまでの見張りを依頼した。
『OK、オーダー受けてやるよ。あんたの会社には少なからず世話になってるしね。それに他の利己的なオーダーをするやつに比べたら、とってもピュアで応援したくなる』
依頼の承諾を得て、佑は安堵する。
『幾らだ?』
『緊急案件としての料金も加え、五十万ドル……って言いたいけど、あんたのピュアさに負けて、四十五万ドルでいいよ。全額先払いだけど』
値引きされた金額でも、ざっと五千万円だ。
『分かった。振込先を教えてくれ』
佑はその金額を聞いても、まったく動じない。
むしろある程度の値段を出されて安心していた。
高度な技術を持っていても、安売りしていては逆に周囲から信頼されない場合がある。
安くて品質がいい物をよしとされるのは日用品レベルの事であり、プロの技術者に依頼するなら、高額であってもクオリティの保証がほしいものだ。
だから佑は、Kには五千万円を払う価値があると信じていた。
何より佐伯が紹介してくれた相手だから、Kが自分を裏切る事はないと思っている。
佑が尋ねると、佐伯は「ええ」と頷く。
「彼の生活は不規則ですが、コールが掛かると大体出ます」
佐伯が言ったように、少ししてから『何の用だ? A』と返事がある。
Aというアルファベットは、佐伯の名前の何にも掛からない。
恐らく同様に、相手のKも何も本人に結びついていないのだろう。
『裏の依頼がある』
佐伯がKに依頼を伝えたあと、少し間が空く。
『cavp』
送られてきた謎のアルファベットの羅列を、佐伯が説明する。
「Cはクラッキング、情報の破壊や不当複製、アクセス制御の突破などすべてを意味します。Aはアタックのみ。Vはヴァンダル、広義の荒らし行為です。Pは電話回線に関わるクラッキング。社長の場合、後始末も念入りにするなら、オーダー的に最上位のCに当たります」
「構わない。金は幾らでも出す」
「依頼者の名前を出すか出さないかでも、値段が変わります。依頼者の名前を出せばKに対してある程度の保証になり、また何かあった場合、彼に再度オーダーしやすくなります。ですが彼を敵に回した場合の覚悟をしなくてはなりません。匿名でもオーダーできますが、高額になります。加えて今回のターゲット……赤松さんに関わる事なら、Kならすぐ社長だと分かるでしょう」
「守秘義務については信用していいんだな?」
「ええ。社長とこの場にいる方々さえ、Kの秘密を守ってくださるなら心配ありません。本来なら僕一人で彼にオーダーするところですが、社長が依頼者として名前を出されるのなら、確認の顔出しが必要です。彼もオーダーを受けるのは、秘密の守れる身元のしっかりした人のみ……と決めていますから」
「分かった。顔出ししても構わない」
そこで佑は後方を振り向き、彼の視線を受けた松井や河野、護衛たちは部屋を出ていった。
それを確認してから、佐伯は滑らかにキーボードに手を滑らせた。
『何でもありで依頼を頼む。依頼者はここにいる。彼から直接オーダーを受けてほしい。俺が信頼している人だから、守秘については心配ない』
そこまで打ってから、佐伯は「すみません、僕は覆面をします」と言って、傍らにあるひょっとこのお面を被り、インカムをつける。その上からパーカーのフードを被った。
「音声を繋げます」
佐伯が告げ、佑は彼に指示された場所に立った。
やがてモニターの一つに、〝K〟がついたエンブレムが映った。
向こう側から、ボイスチェンジャーで声を変えた男の声がする。
『タスク・ミツルギ? ワオ、大物だ』
こちらから何も言わずとも、Kは佑の姿を見ただけで相手が誰かすぐ分かったらしい。
『A、依頼って彼から?』
Kからの問いに、A――佐伯も、ボイスチェンジャー越しの音声で答える。
『そうだ。恩のある人だから、どうかオーダーを受けてほしい』
佐伯がKに告げたあと、佑が口を開いた。
『K、初めまして。タスク・ミツルギだ。顔と名前を晒してでも、君に頼みたい事がある』
英語にもビジネス用の丁寧な言葉があるが、佑はあえて彼らの流儀に合わせてフランクな英語で話し掛けた。
『いいよ、どんなオーダー? 聞くだけ聞いてみる』
Kの返事を聞き、佑はバルセロナでフェルナンドと会った経緯から、香澄が誘拐された一連の流れを話した。
『ふぅん……。ダークウェブに流したなんて、相当だね。まぁ、あんたなら誰の恨みを買ってもおかしくないけど』
その上で佑は、香澄に関するデータをすべて削除した上で、彼女のデータにアクセスした者へのクラッキング、またフェルナンドのパソコンに侵入し、香澄を取り戻すまでの見張りを依頼した。
『OK、オーダー受けてやるよ。あんたの会社には少なからず世話になってるしね。それに他の利己的なオーダーをするやつに比べたら、とってもピュアで応援したくなる』
依頼の承諾を得て、佑は安堵する。
『幾らだ?』
『緊急案件としての料金も加え、五十万ドル……って言いたいけど、あんたのピュアさに負けて、四十五万ドルでいいよ。全額先払いだけど』
値引きされた金額でも、ざっと五千万円だ。
『分かった。振込先を教えてくれ』
佑はその金額を聞いても、まったく動じない。
むしろある程度の値段を出されて安心していた。
高度な技術を持っていても、安売りしていては逆に周囲から信頼されない場合がある。
安くて品質がいい物をよしとされるのは日用品レベルの事であり、プロの技術者に依頼するなら、高額であってもクオリティの保証がほしいものだ。
だから佑は、Kには五千万円を払う価値があると信じていた。
何より佐伯が紹介してくれた相手だから、Kが自分を裏切る事はないと思っている。
11
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる