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第二十一部・フェルナンド 編

佐伯に連絡はつきますか?

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 その後、税理士の峰岸が社長室に現れ、鼻息荒く「これが正確な数字です」とデータを見せてくれた。

 その場には、副社長の本城も来ていた。

 峰岸はきっぱり言う。

「私の計算が間違えていると思えませんし、Chief Everyに脱税させるはずもありません」

 彼は徹底的に戦うつもりらしく、心強い。

「松井さんが各社に根回ししてくださったので、賢明な出版社は軽々にゴシップを出さないでしょう。ですが、週刊誌やネットニュースで注目を集めるためなら、何だってする記者がいるのも事実です。問題になった時の対応も考えておきましょう」

 松井が淹れてくれた濃い目のコーヒーを飲み、佑は息をつく。

「もし炎上しかけたら、記者会見を開きます。ですが世間を騒がせた事については謝罪しても、合成写真と偽データについては一切認めません。記者会見を開く時は、峰岸さんと顧問弁護士にも同席してもらいます」

 佑の言葉を受け、松井が言う。

「事実無根の事について謝る必要はありません。提案ですが、メディア映えする点を逆手に取り、記者会見で記者や画面の向こうの視聴者を、味方につけては如何でしょう。常日頃からアンチ活動をしている者はともかく、真実を話し真摯に語りかければ、善人は同情するでしょう。またライターにも連絡して、炎上した際の情報の広がり方を分析してもらい、それを記事にしてもらうのです。ホットワードになっている期間なら、検索欄に載りやすいです。検索上位にくるよう操作し、必要ならワールドガーデンに金を払い、ライターの記事を読んでもらうのです。炎上のカラクリを知れば、一般の人は『なんだ』と納得して興味を失っていくでしょう。当面、ファンがアンチを叩いて炎上は続くでしょうが、そのうち鎮圧するはずです」

「任せます」

 松井の提案に佑は頷く。

 次から次に、頭の痛い事ばかり起きる。

(だがここが踏ん張りどころだ。好きな女も仕事も取ると自分で決めたなら、持てる手段すべてを使って解決しなければ)

 現在は二十時すぎ。

 刑事は一度捜査本部に戻っていった。

 電話の対応は十八時で終わり、そのあと混乱している受付、総務部、その他の部署に佑が自ら足を向け、社員たちに声を掛けた。

 自分も、会社も何ら非はないのだから、仮にインタビューを受けたとしても、何も答えず堂々としているようにと告げた。

 社内と全国の店舗にも行き渡るようメールを送り、社員を守る事を優先する。

 社員たちは佑がいつものようにビシッと決まった姿で、動揺せず「心配するな」と言ったからか、不安が晴れた表情をしていた。

 話し合いが終わったあと、しばらく佑はプレジデントチェアに座ったまま呆けていた。

 室内には本城、松井がいる他、刑事の補佐をしていた女性警官がいる。

 河野は依然、香澄を探し続けている護衛に指示を出している。

 プレジデントチェアを真後ろに向けた佑は、ぼんやりと摩天楼を見ながら思考を巡らせる。

「……松井さん」

「はい」

「佐伯に連絡はつきますか?」

 口にしたのは、かつての第二秘書――佐伯裕也ゆうやの名前だった。

 佑が治安の宜しくない国に行った時、襲撃を受けて代わりに負傷した秘書だ。

 弾の当たり所が悪く、現在は車椅子生活をしている。

 車椅子でも業務ができるよう取り計らうと言ったが、彼は憑きものが落ちたかのような表情で「地元で心機一転生き直します」と言って退職した。

 彼の地元は仙台で、その後変わりなければ、自宅でWebデザインやプログラミングの仕事をしているはずだ。

 佑は佐伯に傷病手当として多額の金を出したあと、今も申し訳なさから個人的に月々の送金をしている。

 一度「もう気に病まないでください」と連絡があったが、変わらず送金し続けると、その後何も言わなくなった。

「いま連絡しますか?」

 松井はスーツの内ポケットからスマホを出す。

「彼に頼みたい事があるのですが、一度松井さんにワンクッション置いてほしいです。頼み事も、東京から電話で……というのも真剣味がありませんから、彼がOKを出したらすぐ仙台に向かいます」

「承知しました」

 松井は静かに頭を下げ、電話を掛けながら隣の秘書室に下がった。

「しばらくネットニュース、週刊誌に注意を向けないとなりませんね。忙しい時なのに……」

 本城が溜息をつき、気持ちを切り替えたように顔を上げる。

「社長は赤松さんとパリコレに集中してください。記者会見には社長が赴いたほうがいいと思いますが、残りは私が対応します」

 きっぱり言い切った彼に、佑は「助かります」と微笑んだ。

 その後もこれからの方針を話していた時、松井が秘書室から戻ってきた。

「社長、佐伯さんですが、いつでも会えるそうです」
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