1,351 / 1,544
第二十一部・フェルナンド 編
えぇっ!? 誰っ!?
しおりを挟む
だが香澄の体は、先ほど強かに打たれた痛みに恐怖を覚えてしまった。
渾身の力で男の手を振りほどいて走っても、すぐに追いつかれてまた思いきり打たれるのが目に見えている。
痛みで教え込む方法は、シンプルなだけに実に効果的だ。
「また叩かれたくない」という怯えを感じた香澄は、男たちに従ってしまっていた
香澄はときおり足を止めて抵抗したが、そのたびに手を引っ張られ、豪華客船に近付いていく。
やがてタラップまで辿り着いた男たちは、それまでの雰囲気と打って変わって陽気に受付に話し掛けた。
『三名様ですね。お一人ずつパスポートと乗船券を確認致します』
先にスーツケースを持った男が通され、次に香澄の番がくる。
男が手を離した隙に走って逃げようと思ったが、後ろのもう一人が凝視している。
まるで「逃げようとすればまた殴るぞ」と言っているようだ。
(駄目だ……)
香澄は絶望しながら、受付にオリエ・スミスとして身元を確認された。
緊張しながらも、香澄は「今逃げる。……今、……今」と自分にタイミングを促す。
だが圧倒的な恐怖を前に心がくじけ、彼女は数分後には船内にいた。
香澄はゴージャスなホテルさながらの内装に見とれる間もなく、男たちに腕を掴まれたままエレベーターに乗せられる。
そしてスイートルームとおぼしき、やけに広い部屋に入れられた。
『このままこの部屋にいろ』
男の一人はそう言ってから、リビングを見渡せる出入り口の前に立ち、もう一人は寝室の窓際に立つ。
『……この船は、どこ行きですか?』
香澄が尋ねても、今度は二人とも何も言わなかった。
(パスポートが必要だから海外に行くのは確かだ。東京湾から次の寄港先まで、日本の港は経由しないの?)
香澄はさりげなくスイートルームの中を見回し、脱出経路を見つけようとする。
『言っておくが、バルコニーに近付くなよ』
低い声で脅され、本能的に与えられた痛みを思いだす。
『俺たちだって女に暴力を振るいたくない。痛い目に遭いたくなければ、賢く振る舞え。殴られて犯されるより、大人しく座っていたほうがずっといいだろう?』
最悪なパターンを提示された香澄は、唇を引き結びリビングのソファに腰を下ろした。
**
呉代は久住、佐野とともに直通エレベーターに乗り、地上まで一気に降り、河野の指示を受けながら品川駅に向かった。
大きな駅の中で、待ち合わせで立ち止まっているならともかく、移動中の人を探すのは至難の業だ。
だが香澄の姿なら毎日見ている。
身長がどのぐらいか、頭部だけを見ても髪の艶だけですぐ分かる。
(……いた! あれか!?)
走っていくと、大柄な外国人男性二人に挟まれた、香澄らしき女性を見つけた。
呉代は近くを走っている久住、佐野に彼女を指差し、アイコンタクトを取ると頷き合った。
自分は右側の男を止めると手でサインし、佐野には左側の男、久住には香澄の救出を指示した。
普段はセレブな佑の側でいい思いをさせてもらっていても、彼らはプロの護衛だ。
空いた時間はみっちりとトレーニングをし、現役の陸上選手なみに走り込みをしている。
他の二人も呉代と代わらないフィジカルの強さを持っていた。
(いっせーの、でっ!)
心の中でタイミングを掴み、呉代は男の胴に腕を回し、足を踏ん張って香澄から引き離した。
「What!?」
男が声を上げる。反対側でも佐野がもう一人の男の動きを止めている。
(赤松さんは……!)
バッと久住を見ると、彼は香澄の手を引いて前方に駆けだしていた。
インカムから久住の『ターゲット保護しました!』という声が聞こえたが、すぐに『えぇっ!? 誰っ!?』と叫ぶ声がした。
「は?」
久住の反応の意味が分からず、呉代は混乱する。
『呉代、佐野! 作戦失敗だ! ニセモノだ!』
久住の悲鳴に似た声が聞こえ、呉代は「は!?」と声を上げ、男を離して久住のもとに駆けつける。
「どういう事だ!?」
十メートルほど先にいる久住に追いついた呉代は、〝香澄〟の顔を覗き込んだ。
渾身の力で男の手を振りほどいて走っても、すぐに追いつかれてまた思いきり打たれるのが目に見えている。
痛みで教え込む方法は、シンプルなだけに実に効果的だ。
「また叩かれたくない」という怯えを感じた香澄は、男たちに従ってしまっていた
香澄はときおり足を止めて抵抗したが、そのたびに手を引っ張られ、豪華客船に近付いていく。
やがてタラップまで辿り着いた男たちは、それまでの雰囲気と打って変わって陽気に受付に話し掛けた。
『三名様ですね。お一人ずつパスポートと乗船券を確認致します』
先にスーツケースを持った男が通され、次に香澄の番がくる。
男が手を離した隙に走って逃げようと思ったが、後ろのもう一人が凝視している。
まるで「逃げようとすればまた殴るぞ」と言っているようだ。
(駄目だ……)
香澄は絶望しながら、受付にオリエ・スミスとして身元を確認された。
緊張しながらも、香澄は「今逃げる。……今、……今」と自分にタイミングを促す。
だが圧倒的な恐怖を前に心がくじけ、彼女は数分後には船内にいた。
香澄はゴージャスなホテルさながらの内装に見とれる間もなく、男たちに腕を掴まれたままエレベーターに乗せられる。
そしてスイートルームとおぼしき、やけに広い部屋に入れられた。
『このままこの部屋にいろ』
男の一人はそう言ってから、リビングを見渡せる出入り口の前に立ち、もう一人は寝室の窓際に立つ。
『……この船は、どこ行きですか?』
香澄が尋ねても、今度は二人とも何も言わなかった。
(パスポートが必要だから海外に行くのは確かだ。東京湾から次の寄港先まで、日本の港は経由しないの?)
香澄はさりげなくスイートルームの中を見回し、脱出経路を見つけようとする。
『言っておくが、バルコニーに近付くなよ』
低い声で脅され、本能的に与えられた痛みを思いだす。
『俺たちだって女に暴力を振るいたくない。痛い目に遭いたくなければ、賢く振る舞え。殴られて犯されるより、大人しく座っていたほうがずっといいだろう?』
最悪なパターンを提示された香澄は、唇を引き結びリビングのソファに腰を下ろした。
**
呉代は久住、佐野とともに直通エレベーターに乗り、地上まで一気に降り、河野の指示を受けながら品川駅に向かった。
大きな駅の中で、待ち合わせで立ち止まっているならともかく、移動中の人を探すのは至難の業だ。
だが香澄の姿なら毎日見ている。
身長がどのぐらいか、頭部だけを見ても髪の艶だけですぐ分かる。
(……いた! あれか!?)
走っていくと、大柄な外国人男性二人に挟まれた、香澄らしき女性を見つけた。
呉代は近くを走っている久住、佐野に彼女を指差し、アイコンタクトを取ると頷き合った。
自分は右側の男を止めると手でサインし、佐野には左側の男、久住には香澄の救出を指示した。
普段はセレブな佑の側でいい思いをさせてもらっていても、彼らはプロの護衛だ。
空いた時間はみっちりとトレーニングをし、現役の陸上選手なみに走り込みをしている。
他の二人も呉代と代わらないフィジカルの強さを持っていた。
(いっせーの、でっ!)
心の中でタイミングを掴み、呉代は男の胴に腕を回し、足を踏ん張って香澄から引き離した。
「What!?」
男が声を上げる。反対側でも佐野がもう一人の男の動きを止めている。
(赤松さんは……!)
バッと久住を見ると、彼は香澄の手を引いて前方に駆けだしていた。
インカムから久住の『ターゲット保護しました!』という声が聞こえたが、すぐに『えぇっ!? 誰っ!?』と叫ぶ声がした。
「は?」
久住の反応の意味が分からず、呉代は混乱する。
『呉代、佐野! 作戦失敗だ! ニセモノだ!』
久住の悲鳴に似た声が聞こえ、呉代は「は!?」と声を上げ、男を離して久住のもとに駆けつける。
「どういう事だ!?」
十メートルほど先にいる久住に追いついた呉代は、〝香澄〟の顔を覗き込んだ。
11
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる