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第二十一部・フェルナンド 編
彼は人違いをしたのでは?
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『どうかしたのか?』
エミリオが尋ねると、彼は小さく首を横に振って答える。
『タスク・ミツルギを知っているだろう?』
『ああ、Chief Everyのだろう? 服には世話になっている。うちの家族も愛用してるよ。品質もデザインも良くて、非常にいい』
『いい製品だよな。友人という立場を抜きにしても、僕も好きだ。CEPは和のテイストがありながらもモダンで、ファッション界でも注目されている』
『もう少しでファッションウィークだから、新作も拝めるな』
『ああ、招待状をもらっているから、楽しみにしている』
そこまで話したところで、アミューズブーシュが出された。
それを何とはなしに摘まみつつ、二人は話を続ける。
『今度、俺にもタスク・ミツルギを紹介してくれよ』
『ああ、気さくでいい奴だよ』
『都合がついたら連絡をくれ』
『分かった』
『それで、彼がどうかしたか?』
彼の質問に、ショーンは少し難しそうな顔をする。
『いや……。去年の秋、彼がスペインに来たそうだ。その時、僕のホテルで君が彼の婚約者に話し掛けたと言っていたんだ。僕が知っている限り、君は愛妻家だから、幾ら可愛い子がいても声を掛けるのはあり得ないと思って』
ショーンに言われ、エミリオは目を丸くする。
癖のある茶髪を思わず掻き上げ、茶色い目を瞬かせた。
『……失礼だが、彼は人違いをしたのでは?』
『分からない』
ショーンは溜め息交じりに言い、前菜のタコ料理を口にする。
『タスクが言うには、彼が会った君はフェルナンドと名乗ったらしい。フェルナンドなる人物が彼の婚約者に自己紹介をした。後日タスクが調べたところ、フェルナンドは偽名で本当は君なのでは……と言っていた』
困惑する事ばかりで、エミリオは眉を寄せ肩をすくめる。
『俺のそっくりさんとか?』
笑い半分に言っても、ショーンも分からないという顔をしている。
『彼のところは今少し不穏で、婚約者の身の上を案じて少し気が立っているようだ』
『本当に似ているなら疑われても仕方がないが、身に覚えがないな。……ああ、それで去年の秋に連絡をよこしたのか』
言って、エミリオは納得がいったというように頷く。
去年の秋『今どうしてる?』とショーンからメッセージがあり、大した用事ではなかったので疑問に思った事があった。
『タスクが言うには、ネット記事で確認した写真では、うり二つらしい』
そう言われても、エミリオは首を左右に振り『分からない』と示すしかできない。
『君が偽名を使って後ろ暗い事をしているなんて、考えられないし……』
さらに言われ、彼はとうとう掌を天井に向けて肩をすくめた。
『タスク・ミツルギから、俺に確かめるよう言われた?』
彼は尋ね、眉を上げる。
『いいや。タスクから話を聞いたのは去年の秋だ。あの時、君の様子を見て終わろうと思った。だがタスクがいつまでも引きずるから、スペインに来たついでにもう一度確認しようと思ったんだ』
『日本人はしつこいのかな?』
『さあ?』
二人とも佑の狙いを分かっていないので、この場にいない彼を思い首を傾げる。
『まぁ、君は何も知らなさそうだと伝えておくよ』
『ああ。頼む』
『せっかく食事に招待したのに、疑ってしまって悪いね。勘定は僕が持つよ』
『ありがとう。好意に甘えさせてもらうよ』
その後、少し仕事の話をしたあと、美味しいコース料理に舌鼓を打った。
『タスク・ミツルギね……』
ショーンと別れて再び車に乗った彼は、話題の人の名前を呟く。
スマホを立ち上げ、車内に青白い光が灯る。
彼は画面をタップして、目当ての人物の写真を画像検索で出す。
御劔佑の顔を確認して他の写真も見ていると、女性と連れ立っている写真も見つけた。
有名人だからこそ、プライベートな時に隠し撮りされてアップロードされるリスクがある。
すぐに対処しているのだろうが、常にすべてに目を光らせる訳にはいかない。
彼はピンチアウトして、二人の顔を確認する。
じっくり見てから息をつき、ゆったりと脚を組み、呟いた。
『どうしようかな……』
**
エミリオが尋ねると、彼は小さく首を横に振って答える。
『タスク・ミツルギを知っているだろう?』
『ああ、Chief Everyのだろう? 服には世話になっている。うちの家族も愛用してるよ。品質もデザインも良くて、非常にいい』
『いい製品だよな。友人という立場を抜きにしても、僕も好きだ。CEPは和のテイストがありながらもモダンで、ファッション界でも注目されている』
『もう少しでファッションウィークだから、新作も拝めるな』
『ああ、招待状をもらっているから、楽しみにしている』
そこまで話したところで、アミューズブーシュが出された。
それを何とはなしに摘まみつつ、二人は話を続ける。
『今度、俺にもタスク・ミツルギを紹介してくれよ』
『ああ、気さくでいい奴だよ』
『都合がついたら連絡をくれ』
『分かった』
『それで、彼がどうかしたか?』
彼の質問に、ショーンは少し難しそうな顔をする。
『いや……。去年の秋、彼がスペインに来たそうだ。その時、僕のホテルで君が彼の婚約者に話し掛けたと言っていたんだ。僕が知っている限り、君は愛妻家だから、幾ら可愛い子がいても声を掛けるのはあり得ないと思って』
ショーンに言われ、エミリオは目を丸くする。
癖のある茶髪を思わず掻き上げ、茶色い目を瞬かせた。
『……失礼だが、彼は人違いをしたのでは?』
『分からない』
ショーンは溜め息交じりに言い、前菜のタコ料理を口にする。
『タスクが言うには、彼が会った君はフェルナンドと名乗ったらしい。フェルナンドなる人物が彼の婚約者に自己紹介をした。後日タスクが調べたところ、フェルナンドは偽名で本当は君なのでは……と言っていた』
困惑する事ばかりで、エミリオは眉を寄せ肩をすくめる。
『俺のそっくりさんとか?』
笑い半分に言っても、ショーンも分からないという顔をしている。
『彼のところは今少し不穏で、婚約者の身の上を案じて少し気が立っているようだ』
『本当に似ているなら疑われても仕方がないが、身に覚えがないな。……ああ、それで去年の秋に連絡をよこしたのか』
言って、エミリオは納得がいったというように頷く。
去年の秋『今どうしてる?』とショーンからメッセージがあり、大した用事ではなかったので疑問に思った事があった。
『タスクが言うには、ネット記事で確認した写真では、うり二つらしい』
そう言われても、エミリオは首を左右に振り『分からない』と示すしかできない。
『君が偽名を使って後ろ暗い事をしているなんて、考えられないし……』
さらに言われ、彼はとうとう掌を天井に向けて肩をすくめた。
『タスク・ミツルギから、俺に確かめるよう言われた?』
彼は尋ね、眉を上げる。
『いいや。タスクから話を聞いたのは去年の秋だ。あの時、君の様子を見て終わろうと思った。だがタスクがいつまでも引きずるから、スペインに来たついでにもう一度確認しようと思ったんだ』
『日本人はしつこいのかな?』
『さあ?』
二人とも佑の狙いを分かっていないので、この場にいない彼を思い首を傾げる。
『まぁ、君は何も知らなさそうだと伝えておくよ』
『ああ。頼む』
『せっかく食事に招待したのに、疑ってしまって悪いね。勘定は僕が持つよ』
『ありがとう。好意に甘えさせてもらうよ』
その後、少し仕事の話をしたあと、美味しいコース料理に舌鼓を打った。
『タスク・ミツルギね……』
ショーンと別れて再び車に乗った彼は、話題の人の名前を呟く。
スマホを立ち上げ、車内に青白い光が灯る。
彼は画面をタップして、目当ての人物の写真を画像検索で出す。
御劔佑の顔を確認して他の写真も見ていると、女性と連れ立っている写真も見つけた。
有名人だからこそ、プライベートな時に隠し撮りされてアップロードされるリスクがある。
すぐに対処しているのだろうが、常にすべてに目を光らせる訳にはいかない。
彼はピンチアウトして、二人の顔を確認する。
じっくり見てから息をつき、ゆったりと脚を組み、呟いた。
『どうしようかな……』
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