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第二十部・同窓会 編
第二十部・終章 信じよう
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「もぉ……」
こうやって笑わせると、香澄はもう怒らないと知っていた。
「佑さん、罰としてドライヤーやってくれる? 椅子、あったよね?」
「勿論、お姫様」
佑はすぐに香澄を姫抱っこし、洗面所に連れていってスツールに座らせる。
そして洗面台の上に置いてあった、洗い流さないトリートメントを手に取り、湿った髪に揉み込んだ。
「熱いのいきますよ」
ドライヤーを手にして声を掛けると、言い方がおかしかったのか香澄がクスクス笑う。
それから香澄の髪がサラサラになるまで、丁寧にドライヤーを掛けた。
彼女はその間、基礎化粧品でフェイスケアをしていた。
終わったあと、香澄は寝間着にしているキャミソールとタップパンツに着替える。
寝る前の準備を終えてベッドに戻る頃には、香澄は欠伸を連発していた。
「明日、実家に行くのにごめん」
「いいよ、そんなに謝らなくて。……気持ち良かったし」
「……ありがとう」
香澄の頬にキスをした佑は、ベッドサイドにある彼女のスマホをチラリと見る。
フェルナンドがリアルタイムで自分たちの会話を聞いているかは分からないが、大事な話はバスルームでした。
時間が経ったあとにこの調子で話していれば、完全にお楽しみ中だったと思うだろう。
(絶対にお前の思い通りにはならない)
佑は香澄を抱き締めながら、薄闇の中に立っているフェルナンドの幻想を睨んだ。
**
翌日、香澄は手土産を持って佑と共に西区の実家を訪れ、久しぶりに家族と気兼ねなく話した。
昼はどこかに食べに行くのかと思っていたが、母が手巻き寿司の用意をしていて、護衛や運転手を含めて全員で楽しく食事をした。
家族の顔を見ると気が緩み、どうしても「気を付けてね」と念を押したくなる。
別れ際に両親と弟に困ったような顔を向けていた香澄を見て、佑がすべて察してくれたようだ。
「香澄、ご両親に話があるから、先に出ていてくれるか?」
「あ、うん」
視線で佑に「お願い」と訴えると、彼は無言で微笑み頷いてくれた。
先に外に出た香澄は、雪景色を見て「懐かしいな」と郷愁に駆られる。
見慣れた家の前の風景は、子供の頃からずっと目にしていたものだ。
冷たい風を頬に受けても、札幌の冬に慣れている香澄はさほど寒いと思わない。
(ここを守りたい。家族を巻き込まずに、ちゃんと解決したい)
決意した時、佑が玄関から出てきた。
「香澄、気を付けて帰ってね。あと、あんたお腹出して寝る癖あるんだから、冷やさないようにね」
栄子が冗談半分に言い、香澄は「もーっ」と怒ったふりをする。
「ねーちゃん、またな!」
芳也が手を振り、香澄も手を振り返す。
「……じゃあ、またね」
香澄は家族に笑いかけ、名残惜しい気持ちになりながら佑と一緒に車に乗った。
あとはまっすぐ新千歳空港に向かい、佑の飛行機で東京に戻る。
普段使いのスマホはウォレットポシェットにしまったままなので、ショルダーバッグから新しいスマホを出して佑にメッセージを送る。
『両親に何て言った?』
通知音に気付いた佑はスマホを出し、返信する。
『勿論、事情は話してない。もし何か困った事があったら、大事になる前に知らせてほしいとお願いした』
『そっか。……でも連絡するかな? 迷惑掛けるとか思いそう』
『それを見越して、放置したほうが厄介になると伝えておいた。日常に感じる違和感など、ほんの些細な事でもいいから、報告してくれたほうが助かりますと伝えたよ』
『うん、じゃあ大丈夫かな。ありがとう』
香澄はぬかりのない佑のフォローに安心し、スマホを閉じる。
「あぁー……、明日からまた仕事だね」
「そうだな。今日は早めに寝ないと。斎藤さんが金曜の夜に作り置きしてくれたから、温めて食べよう」
「うん」
そしていつものようにシートの上で手を繋いだ。
無言の中、車中にいる全員が「必ずフェルナンドをなんとかする」と決意しているのが分かる。
札幌にいる家族や友人は、佑が雇った護衛が守ってくれるようでまず安心した。
麻衣の側にはマティアスもいる。
(信じよう。それで、私は自分にできる事をするんだ)
明日は一月二十日。
アドラーたちにピアノを披露すると言って半月が経ち、バレンタイン頃に本番がくる。
(あっちもこっちも忙しいけど、やれる事を一つずつやろう)
二月に入ってすぐ、佑はファッションウィークで忙しくなる。
手がけているすべての事業を確認してあらゆる会議に顔を出し、自ら出張して仕事をこなさなければいけない。
(秘書である私が、参ってなんかいられないんだから)
唇を引き結んだ香澄は、ギュッと佑の手を握った。
第二十部・完
こうやって笑わせると、香澄はもう怒らないと知っていた。
「佑さん、罰としてドライヤーやってくれる? 椅子、あったよね?」
「勿論、お姫様」
佑はすぐに香澄を姫抱っこし、洗面所に連れていってスツールに座らせる。
そして洗面台の上に置いてあった、洗い流さないトリートメントを手に取り、湿った髪に揉み込んだ。
「熱いのいきますよ」
ドライヤーを手にして声を掛けると、言い方がおかしかったのか香澄がクスクス笑う。
それから香澄の髪がサラサラになるまで、丁寧にドライヤーを掛けた。
彼女はその間、基礎化粧品でフェイスケアをしていた。
終わったあと、香澄は寝間着にしているキャミソールとタップパンツに着替える。
寝る前の準備を終えてベッドに戻る頃には、香澄は欠伸を連発していた。
「明日、実家に行くのにごめん」
「いいよ、そんなに謝らなくて。……気持ち良かったし」
「……ありがとう」
香澄の頬にキスをした佑は、ベッドサイドにある彼女のスマホをチラリと見る。
フェルナンドがリアルタイムで自分たちの会話を聞いているかは分からないが、大事な話はバスルームでした。
時間が経ったあとにこの調子で話していれば、完全にお楽しみ中だったと思うだろう。
(絶対にお前の思い通りにはならない)
佑は香澄を抱き締めながら、薄闇の中に立っているフェルナンドの幻想を睨んだ。
**
翌日、香澄は手土産を持って佑と共に西区の実家を訪れ、久しぶりに家族と気兼ねなく話した。
昼はどこかに食べに行くのかと思っていたが、母が手巻き寿司の用意をしていて、護衛や運転手を含めて全員で楽しく食事をした。
家族の顔を見ると気が緩み、どうしても「気を付けてね」と念を押したくなる。
別れ際に両親と弟に困ったような顔を向けていた香澄を見て、佑がすべて察してくれたようだ。
「香澄、ご両親に話があるから、先に出ていてくれるか?」
「あ、うん」
視線で佑に「お願い」と訴えると、彼は無言で微笑み頷いてくれた。
先に外に出た香澄は、雪景色を見て「懐かしいな」と郷愁に駆られる。
見慣れた家の前の風景は、子供の頃からずっと目にしていたものだ。
冷たい風を頬に受けても、札幌の冬に慣れている香澄はさほど寒いと思わない。
(ここを守りたい。家族を巻き込まずに、ちゃんと解決したい)
決意した時、佑が玄関から出てきた。
「香澄、気を付けて帰ってね。あと、あんたお腹出して寝る癖あるんだから、冷やさないようにね」
栄子が冗談半分に言い、香澄は「もーっ」と怒ったふりをする。
「ねーちゃん、またな!」
芳也が手を振り、香澄も手を振り返す。
「……じゃあ、またね」
香澄は家族に笑いかけ、名残惜しい気持ちになりながら佑と一緒に車に乗った。
あとはまっすぐ新千歳空港に向かい、佑の飛行機で東京に戻る。
普段使いのスマホはウォレットポシェットにしまったままなので、ショルダーバッグから新しいスマホを出して佑にメッセージを送る。
『両親に何て言った?』
通知音に気付いた佑はスマホを出し、返信する。
『勿論、事情は話してない。もし何か困った事があったら、大事になる前に知らせてほしいとお願いした』
『そっか。……でも連絡するかな? 迷惑掛けるとか思いそう』
『それを見越して、放置したほうが厄介になると伝えておいた。日常に感じる違和感など、ほんの些細な事でもいいから、報告してくれたほうが助かりますと伝えたよ』
『うん、じゃあ大丈夫かな。ありがとう』
香澄はぬかりのない佑のフォローに安心し、スマホを閉じる。
「あぁー……、明日からまた仕事だね」
「そうだな。今日は早めに寝ないと。斎藤さんが金曜の夜に作り置きしてくれたから、温めて食べよう」
「うん」
そしていつものようにシートの上で手を繋いだ。
無言の中、車中にいる全員が「必ずフェルナンドをなんとかする」と決意しているのが分かる。
札幌にいる家族や友人は、佑が雇った護衛が守ってくれるようでまず安心した。
麻衣の側にはマティアスもいる。
(信じよう。それで、私は自分にできる事をするんだ)
明日は一月二十日。
アドラーたちにピアノを披露すると言って半月が経ち、バレンタイン頃に本番がくる。
(あっちもこっちも忙しいけど、やれる事を一つずつやろう)
二月に入ってすぐ、佑はファッションウィークで忙しくなる。
手がけているすべての事業を確認してあらゆる会議に顔を出し、自ら出張して仕事をこなさなければいけない。
(秘書である私が、参ってなんかいられないんだから)
唇を引き結んだ香澄は、ギュッと佑の手を握った。
第二十部・完
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