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第二十部・同窓会 編

懐かしの『月見茶屋』

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「アドラーさんから情報がきたら、俺も対応する」

「……そうだな」

 フェルナンドについての情報含め、今は待つしかない。

 溜め息をついた佑は、指先で眉間の皺を揉んだ。



**



 香澄は久住たちと一緒にコンビニに入り、わざとゆっくり商品を見る。

 それから目的のアイスと気になったお菓子を買って部屋に戻った。

「ただいま! はい、佑さんの好きなの」

 渡したのは、シンプルなバニラバーだ。

 佑は少し高級な市販アイスより、ベーシックな商品が好きらしい。

 ちなみに香澄は、チョコレートコーティングされたバニラアイスのピッツが好きだ。

 麻衣は板チョコが入ったもなかアイスが好きで、「マティアスさんも同じのでいいや」と彼の分も買った。

 レストランで二時間弱過ごしたので、そろそろ同窓会に合わせて移動する頃合いだ。

 アイスを食べ終えたあと、香澄は麻衣と一緒に化粧直しをし、身支度をしてからハイヤーに乗った。



**



「わぁ……。なっつかし……」

 香澄は感慨深い気持ちで、すすきののビルの前に立つ。

 というのも、友人に指定された店が、八谷グループの『月見茶屋』が入っているビルだからだ。

 目的の店は地下一階で、『月見茶屋』は最上階の十四階になる。

 懐かしがっていると、麻衣に提案された。

「なんならまだ時間あるし、十四階まで上ってみる?」

「え?」

 香澄は嬉しさと驚き半分の表情をする。

「いやぁ……でも邪魔したら悪いし……」

「『元気です』って一言伝えるだけでいーじゃん。きっと喜ぶよ?」

 麻衣はカラカラと笑い、エレベーターに乗って十四階のフロアボタンを押した。





 佑はすすきのに来て懐かしがっていたが、香澄はかつての職場なので、ドキドキが半端ない。

(ホールスタッフはアルバイトさんだから、一年でかなり入れ替わってるかもなぁ)

 考えているうちにゴンドラは十四階につき、一歩踏み出ると法被を着た店長が「いらっしゃいませ」と挨拶してきた。

「あっ! 大野おおのさん!」

 香澄は変わっていない店長の顔を見て、思わず声を上げる。

「えっ? ……あっ、マネージャー!?」

 大野と呼ばれた三十代の男性は香澄を見て一瞬固まってから、すぐ元の上司だと気付いたようだ。

「えへへ、元マネージャーですよ。お元気でしたか?」

 香澄はダウンコートにマフラーを巻いた、完全防寒スタイルだが、札幌時代と比べると格段に垢抜けている。

 そんな彼女を、大野は「はぁ……」と溜め息をついてしげしげと見る。

さらに後ろにいる佑を見て「はぁ……」ともう一度溜め息をついて頷いた。

「こんばんは、御劔佑です。その節は優秀なエリアマネージャーを引き抜いてしまい、お世話をお掛けしました」

「あっ!? い、いえいえ!」

 佑に丁寧な挨拶をされ、大野は恐縮しきって何度も頭を下げる。

 ――と、ホールから女性が「店長~」と現れて、香澄と佑の姿を見て固まった。

「うっそ!! 赤松マネージャー!? お久しぶりー!! で、噂の御劔社長ですか!? すっご……! 本物!」

「井上さん、久しぶり……!」

 香澄はアルバイトリーダーの井上に駆け寄り、ギューッとハグをする。

「マネージャー、すっごい綺麗になりましたね!? 東京効果すごっ」

「えへへ……、ありがと。みんな元気?」

「元気ですよ~! マネージャーがいきなり御劔社長にスカウトされて、退社したのは、しばらく話題になってましたね。リアルシンデレラっていうか」

 その後、他のアルバイトも騒ぎを聞いて挨拶にきて、少しの間わいわいと騒いだ。

 時間的にまだ開店してすぐだったので忙しくなく、邪魔にならずに済んだ。

 そうしている間にも友人との集合時間が迫り、香澄は名残惜しくもエレベーターのボタンを押す。
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