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第二十部・同窓会 編

マティアスと相談

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 アドラーの〝友人〟は世界中にいる。

 同業者や名だたる投資家、実業家やアーティスト、政治家、石油王だけでなく、軍や〝裏〟の人間にも及ぶ。

 アドラーの子供や孫が誰で、どんな事業を展開しているかは、その筋の人なら誰でも知っている。

 彼と話す時、子供や孫の事を知っていれば、良い話題になると分かっているからだ。

 だから佑や双子を本気で敵に回す者は少ない。

 富裕層の世界は思っているより狭く、誰の後ろにはどんな人がいるか周知されている。

 強いて言えば、経済的な繋がりでもある。

 だから皆、損をしないために情報には耳を澄ましている。

 そしてあらゆる意味で〝助け合い〟をし、企業としても成長していく。

 虎の威を借る狐のようだが、〝クラウザーの獅子〟と呼ばれる祖父がいるから、佑は現在の地位にいるといえる。

 そして祖父がいるから、さほど危険な目に遭っていない。

 端的に言えば、誰かが「御劔佑を始末してほしい」と依頼しても、「御劔佑を敵に回したくない」と言われる可能性が高い。

 佑自身、そういう話を聞いた訳ではないが、自分と祖父が、周囲にどれぐらいの影響を与えているかは自覚しているつもりだ。

 だからフェルナンドが佑の破滅を願っているといっても、ストレートに命を狙っていると考えるのは短絡的すぎる。

 もし佑が撃たれれば、必ず祖父は報復する。

 香澄と出会う前、第二秘書の佐伯が撃たれた時には、水面下で恐ろしい報復があった。

 怒り狂うアドラーを佑が宥める羽目になったあと、祖父から『望みはあるか?』と、犯人らしき男が全裸で丸刈りになり、拷問を受けたあとの画像を送られた。

 当時はうんざりして、『もういいから、しばらく放っておいてくれ』と言ったものだ。

「どちらにせよ俺と香澄の問題だから、警察と協力してきっちり落とし前をつけるつもりだ」

 今は打ち明けてくれたとはいえ、今まで香澄が一人で怖い思いをしていたと思うだけで、怒りで体が震える。

 それでも落ち着いていられるのは、香澄が手の届く場所にいてくれるからだ。

 エミリアの時のように、またいなくなってしまえば、自分がどうなるか分からない。

「カスミに何かあった時は、俺がこの身に代えても必ず守る」

 マティアスの気持ちはありがたいが、香澄は恋人だし自分で守りたい。

「お前は麻衣さんをきっちり守れ。体は一つしかないんだ」

「了解した」

「俺たちの事はともかく、こういう状況だから、麻衣さんが東京に来る予定を遅らせてほしい」

 話題を戻した佑は、溜め息をついて脚を組む。

「マイはもう、上司に辞める意思があると話したらしい」

「厳密に何月に辞めるか聞いたか?」

「まだだ。上司も話が纏まったら、改めて聞かせてほしいと言っているようだ」

 マティアスから話を聞き、佑はしばし考える。

「辞めると言ったのに、いつまでも会社にいるのは不自然だな。三月いっぱいで退職なら、区切り的に丁度いいか……」

 現在は一月の半ばで、三月末と言ってもあともう少しだ。

「それぐらいの期間なら、東京での物件を決定して移り住んでも自然だろう」

 マティアスに言われ、佑は頷いてまた溜め息をつく。

「問題は相手がその期間にアクションを起こすか……だな」

「そのフェルナンドという男は、カスミに何をさせるつもりだと思う?」

 逆に尋ねられ、佑は腕を組み考える。

「香澄を失えば俺がダメージを喰らうと思っているんだろう」

 そこまで言って、佑は大きな溜め息をつく。

 未然に防ぐ手段を講じるとしても、香澄が可哀想な目に遭う事、自分がダメージを受ける事は避けたい。

「カスミはぼんやりしてるから、サクッと拉致されそうだな」

 マティアスがサラッと言い、それを聞いた佑は凄い顔で彼を睨む。

「……香澄に対してドライだと、麻衣さんから嫌われるからな」

 麻衣の名前を出され、マティアスはさすがに失言だったと気付いたようだ。

「すまない。カスミは俺の恩人だ。だからこそ、客観的に考えてみようと思った」

「……分かっているが……」

 佑は溜め息をつき、天井を仰いだ。
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