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第二十部・同窓会 編
怒りは生きる力をくれる、最高の感情
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最初はお気に入りの佑が婚約した話を聞き、『教え羅得てない!』と憤ったのが始まりだった。
確かに頻繁に会う関係ではないし、ドイツと日本とではなかなか会えないが、彼とは子供の頃から交流があり、何かあれば一番に自分に連絡してくれると信じていた。
少なくともエミリアの周りにいる男性は、何かあれば一番に彼女に連絡し、優先してくれていた。
そうされるのが当たり前だと思っていたし、お礼にデートをしてあげ、気持ちいい思いをさせてあげるのも〝付き合い〟だと思っていた。
妻子持ちでもセレブでも、「秘密にするわ」と言えば、ほとんどの男性が自分の言う事を聞き、関係を結んだ。
そうやって彼女と男性たちは、お互いの秘密を守って〝いい関係〟を結んでいたのだ。
それなのに佑は一言も連絡をしないまま、日本人の冴えない女と結婚すると言いだした。
あれだけ目を掛けていたのに、恩知らずもいいところだ。
確かに最初は佑の事を、日本人の血が混じっている理由で少し下に見ていた。
だが佑は成長と共に美しく逞しく育ち、世界に名を轟かせる男になった。
エミリアの周りに、彼ほどの成長を見せた人物はいない。
佑が自分を恋愛対象として見ていないのは分かっていたが、本気で迫ればいつでも落ちると思っていた。
いっぽうで、エミリアは自分の結婚をまったく視野に入れていなかった。
周りには自分好みのいい男が揃っているので、いざ祖父に本気で『結婚しろ』と言われたら、その中から最も条件のいい人を選ぶつもりだった。
だが祖父が『彼と結婚しなさい』と勧めてきたのは、社会的地位のある実業家らしいがパッとしない外見の男だ。
毎日顔を見ても飽きない美貌と、鍛えられた肉体を持ち、ベッドでの相性も抜群でなければならない。
だから勿論、彼女は拒絶した。
絶対にあんな男と結婚するものかと思い、実家に帰るのを避けて「仕事が忙しい」と言い続けていたのに……。
(日本まで芋娘を見に行ったのが間違いだった)
ガブリエルと共に彼の城の中を歩いているエミリアは、小さく舌打ちをする。
アロイスとクラウスが日本に行くと言うので、用事のついでに佑と芋娘に会う事にした。
会社の経営はうまくいっていて、不動産や投資の他にもエミリア個人を支援する男性が大勢いる。
金が増えるのは嬉しいが、世の中には納税義務というものがある。
『少しぐらい誤魔化したっていいわよね。あんな大金を納めるなんておかしいわ』
そう思ったエミリアは、懇意にしている税理士に〝お願い〟をして知恵を借り、日本の口座に一時的に金を預ける事を考えた。
日本の銀行はあくまで腰掛けで、そのあとはスイスの隠し口座に移すつもりだったのだ。
だが――。
(あの駄犬!)
憎たらしい男の顔を思い出し、エミリアは拳を握る。
マティアス――。
幼い頃から家族ごと取り立ててやった、下僕であり秘書に裏切られた。
少女時代からエミリアは祖父に、『マティアスはお前のために生まれ、一生尽くしてくれる存在だ』と言われていた。
だから信頼してどんな事だって話したし、常に自分の側に置いてやり、自分の側にいても目障りにならないよう、洗練された外見に整えてやった。
しかしエミリアが使用人を、大切に思う事はなかった。
けれど自分の下僕だからこそ、嬉しい時も苦しい時も共に歩む権利を与えた。
エミリアは取り巻きの男性たちに対して、常に笑顔で接し理想の女性を演じた。
そうしたほうが、お互い良い関係でいられるからだ。
だが心を許したマティアスには、自分のネガティブな面もすべて見せ、つらい時は苦しみをシェアする特権も与えた。
可愛がっていた犬と、同じぐらい大切にしてやったのだ。
体調が悪そうだったら休ませてやったし、着る物も食べる物も一流を教えたし、優秀な秘書になれるよう教育してやった。
たっぷり恩と情けを掛けてやったのに――。
エミリアはギリ……、と歯ぎしりをする。
脱税が白日の下に晒されただけでなく、マティアスに芋娘をレイプさせてやろうと思ったのに、駄犬は何の役にも立たなかった。
それどころか彼は佑や双子と共謀し、自分を陥れてきたのだ。
(絶対に許さない……)
談話室に着いたエミリアは、執事が淹れた紅茶を飲み、青い目の奥にギラギラとした怒りを宿す。
今ごろ佑とイチャついているだろう芋娘だって、絶対に許さない。
勿論、自分を裏切った佑も双子も、クラウザー家の人間も許さない。
怒りは生きる力をくれる、最高の感情だ。
今までの地位を追われたエミリアは、〝夫〟にこの上ない恥辱を受けた。
そんなある日、自分を陥れた佑がこの城にやってきた。
佑は責め苦を受けていた自分に何か言っていたが、怒りで冷静になれず、ろくに話す事ができなかった。
サディストの妻となったエミリアは、淫猥な道具を体中の孔に入れられ、拷問さながらの辱めを受けていた。
だがあれから数か月経ち、ようやく服を着るのを許され、部屋の外に出られるようになった。
(焦らずに機会を窺うのよ。あなたは完璧なレディだからできるはずよ。美しいエミ)
自分に言い聞かせたエミリアは、〝夫〟の話に相槌を打って微笑む。
(いい子にしていたらまたお兄様と会えるわ。今は少し長い兄妹喧嘩をしているだけ)
この世の誰よりも愛しい兄を思い浮かべ、エミリアはとろけるように微笑む。
確かに頻繁に会う関係ではないし、ドイツと日本とではなかなか会えないが、彼とは子供の頃から交流があり、何かあれば一番に自分に連絡してくれると信じていた。
少なくともエミリアの周りにいる男性は、何かあれば一番に彼女に連絡し、優先してくれていた。
そうされるのが当たり前だと思っていたし、お礼にデートをしてあげ、気持ちいい思いをさせてあげるのも〝付き合い〟だと思っていた。
妻子持ちでもセレブでも、「秘密にするわ」と言えば、ほとんどの男性が自分の言う事を聞き、関係を結んだ。
そうやって彼女と男性たちは、お互いの秘密を守って〝いい関係〟を結んでいたのだ。
それなのに佑は一言も連絡をしないまま、日本人の冴えない女と結婚すると言いだした。
あれだけ目を掛けていたのに、恩知らずもいいところだ。
確かに最初は佑の事を、日本人の血が混じっている理由で少し下に見ていた。
だが佑は成長と共に美しく逞しく育ち、世界に名を轟かせる男になった。
エミリアの周りに、彼ほどの成長を見せた人物はいない。
佑が自分を恋愛対象として見ていないのは分かっていたが、本気で迫ればいつでも落ちると思っていた。
いっぽうで、エミリアは自分の結婚をまったく視野に入れていなかった。
周りには自分好みのいい男が揃っているので、いざ祖父に本気で『結婚しろ』と言われたら、その中から最も条件のいい人を選ぶつもりだった。
だが祖父が『彼と結婚しなさい』と勧めてきたのは、社会的地位のある実業家らしいがパッとしない外見の男だ。
毎日顔を見ても飽きない美貌と、鍛えられた肉体を持ち、ベッドでの相性も抜群でなければならない。
だから勿論、彼女は拒絶した。
絶対にあんな男と結婚するものかと思い、実家に帰るのを避けて「仕事が忙しい」と言い続けていたのに……。
(日本まで芋娘を見に行ったのが間違いだった)
ガブリエルと共に彼の城の中を歩いているエミリアは、小さく舌打ちをする。
アロイスとクラウスが日本に行くと言うので、用事のついでに佑と芋娘に会う事にした。
会社の経営はうまくいっていて、不動産や投資の他にもエミリア個人を支援する男性が大勢いる。
金が増えるのは嬉しいが、世の中には納税義務というものがある。
『少しぐらい誤魔化したっていいわよね。あんな大金を納めるなんておかしいわ』
そう思ったエミリアは、懇意にしている税理士に〝お願い〟をして知恵を借り、日本の口座に一時的に金を預ける事を考えた。
日本の銀行はあくまで腰掛けで、そのあとはスイスの隠し口座に移すつもりだったのだ。
だが――。
(あの駄犬!)
憎たらしい男の顔を思い出し、エミリアは拳を握る。
マティアス――。
幼い頃から家族ごと取り立ててやった、下僕であり秘書に裏切られた。
少女時代からエミリアは祖父に、『マティアスはお前のために生まれ、一生尽くしてくれる存在だ』と言われていた。
だから信頼してどんな事だって話したし、常に自分の側に置いてやり、自分の側にいても目障りにならないよう、洗練された外見に整えてやった。
しかしエミリアが使用人を、大切に思う事はなかった。
けれど自分の下僕だからこそ、嬉しい時も苦しい時も共に歩む権利を与えた。
エミリアは取り巻きの男性たちに対して、常に笑顔で接し理想の女性を演じた。
そうしたほうが、お互い良い関係でいられるからだ。
だが心を許したマティアスには、自分のネガティブな面もすべて見せ、つらい時は苦しみをシェアする特権も与えた。
可愛がっていた犬と、同じぐらい大切にしてやったのだ。
体調が悪そうだったら休ませてやったし、着る物も食べる物も一流を教えたし、優秀な秘書になれるよう教育してやった。
たっぷり恩と情けを掛けてやったのに――。
エミリアはギリ……、と歯ぎしりをする。
脱税が白日の下に晒されただけでなく、マティアスに芋娘をレイプさせてやろうと思ったのに、駄犬は何の役にも立たなかった。
それどころか彼は佑や双子と共謀し、自分を陥れてきたのだ。
(絶対に許さない……)
談話室に着いたエミリアは、執事が淹れた紅茶を飲み、青い目の奥にギラギラとした怒りを宿す。
今ごろ佑とイチャついているだろう芋娘だって、絶対に許さない。
勿論、自分を裏切った佑も双子も、クラウザー家の人間も許さない。
怒りは生きる力をくれる、最高の感情だ。
今までの地位を追われたエミリアは、〝夫〟にこの上ない恥辱を受けた。
そんなある日、自分を陥れた佑がこの城にやってきた。
佑は責め苦を受けていた自分に何か言っていたが、怒りで冷静になれず、ろくに話す事ができなかった。
サディストの妻となったエミリアは、淫猥な道具を体中の孔に入れられ、拷問さながらの辱めを受けていた。
だがあれから数か月経ち、ようやく服を着るのを許され、部屋の外に出られるようになった。
(焦らずに機会を窺うのよ。あなたは完璧なレディだからできるはずよ。美しいエミ)
自分に言い聞かせたエミリアは、〝夫〟の話に相槌を打って微笑む。
(いい子にしていたらまたお兄様と会えるわ。今は少し長い兄妹喧嘩をしているだけ)
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