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第二十部・同窓会 編

もう大丈夫だから

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 人間湯たんぽと言われて笑いかけたが、確かに二人でくっついていると、ぬくぬく温かい。

 その頃になって、香澄はここが佑の寝室なのだと気付いた。

 目をショボショボさせてまた眠ろうかと思っていた時、佑が羽根布団を被せてきた。

「ん……?」

 頭まですっぽりと羽根布団に包まれた香澄は、微笑みながら佑にスリスリと頬ずりをする。

 佑も香澄を抱えたまま布団の奥に潜り、二人はすっかり布団の中に収まった。

「んん?」

 香澄はクスクス笑い、佑を抱き締める。

 佑も香澄を抱き返し、その耳元でボソッと囁いた。

「帰宅してすぐ探知機で家を調べた。この部屋は大丈夫だから安心して」

「!」

 ピクッと反応した香澄は、暗い中で佑を凝視した。

「一人で怖かったな。もう大丈夫だから」

 佑に囁かれて抱き締められ、急に安堵と涙がこみ上げる。

「~~~~っ、私……っ」

「まだ、家の中すべてをチェックした訳じゃないから、泣くのは少し我慢して」

 ポンポンと背中を叩かれ、香澄は両手で目を擦る。

 そんな香澄をまた抱き締め、佑はボソボソと言葉を続けた。

「秘書たちとドイツ組から知恵を借りてる。必ず何とかするから、もう一人で怖がらなくていい。教えてくれてありがとう」

「っっ…………っ」

 香澄は必死に声を出さないようにし、思い切り佑を抱き締める。

 佑は肩を震わせる香澄の頬や耳に唇をつけ、何度も「大丈夫」と繰り返した。

「よく我慢したね。偉い、偉い。もう大丈夫」

 佑は香澄の涙を舐め、彼女の目の前で微笑む。

 安心する声と温もり、香りに包まれて、香澄は歯を食いしばり、震える吐息を吸い込んだ。

 佑は香澄が泣き止むまでしばらく彼女をあやし、落ち着いた頃に続きを話す。

 ヨーロッパに明るいアドラーや双子が、フェルナンドについて調べてくれるそうだ。

 香澄のスマホが一番怪しいが、『相手を刺激してはいけないので、現状維持にしてはどうか』という河野の提案があったようだ。

 御劔邸については、近いうちに月に一回のメンテナンスと一緒に、バレないように探知機でくまなく盗聴器を探す予定らしい。

「相手がアクションを起こした時に、こちらから反撃する予定だ。それまで我慢できるか?」

 佑に尋ねられ、香澄はコクンと頷く。

「佑さんがいるなら、大丈夫」

「一緒に頑張ろう」

 佑に言われ、香澄はまた頷いて彼を抱く腕に力を込めた。

 佑が出張から帰ってきただけで、地獄から天国に引き上げられた気持ちになる。

 もう一人で怯えなくていいと分かった香澄は、幸せを噛みしめて佑の胸板に顔を押しつけた。

 ――きっと二人なら乗り越えられる。

 一人で彷徨っていた迷路も、きっと二人なら、――いや、もっと大勢の手を借りられるなら……。

 香澄は味方がいる幸せとありがたさに感謝し、涙をそっと拭った。



**



 日本が午前六時になろうとしていた時、〝その国〟では前日の十四時になろうとしていた。

『おや、どうかしたか?』

 顔を上げた男――ガブリエルに、彼女――エミリアは努めて微笑んでみせた。

『そろそろアフタヌーンティーにしない?』

 エミリアに言われ、ガブリエルは時計を確認する。

 高級腕時計を見て顔を上げた彼は、「そうだな」と頷いて書斎の椅子から立ち上がった。

『今日も美しいな。我が妻は』

〝夫〟に言われ、彼女はぎこちなく笑う。

『ありがとう』

 言われずとも、エミリアは自分が美しい事を知っている。

 名家の生まれで、アパレルブランドの社長もしていた。

 デザイナーは自分ではなく別の者だが、若い女性に人気のあるブランドに育てられたという自負があった。

 だが自分の誇りも仕事も、たった一人の女をきっかけにしてすべて失った。

 ――赤松香澄。
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