1,318 / 1,544
第二十部・同窓会 編
もう大丈夫だから
しおりを挟む
人間湯たんぽと言われて笑いかけたが、確かに二人でくっついていると、ぬくぬく温かい。
その頃になって、香澄はここが佑の寝室なのだと気付いた。
目をショボショボさせてまた眠ろうかと思っていた時、佑が羽根布団を被せてきた。
「ん……?」
頭まですっぽりと羽根布団に包まれた香澄は、微笑みながら佑にスリスリと頬ずりをする。
佑も香澄を抱えたまま布団の奥に潜り、二人はすっかり布団の中に収まった。
「んん?」
香澄はクスクス笑い、佑を抱き締める。
佑も香澄を抱き返し、その耳元でボソッと囁いた。
「帰宅してすぐ探知機で家を調べた。この部屋は大丈夫だから安心して」
「!」
ピクッと反応した香澄は、暗い中で佑を凝視した。
「一人で怖かったな。もう大丈夫だから」
佑に囁かれて抱き締められ、急に安堵と涙がこみ上げる。
「~~~~っ、私……っ」
「まだ、家の中すべてをチェックした訳じゃないから、泣くのは少し我慢して」
ポンポンと背中を叩かれ、香澄は両手で目を擦る。
そんな香澄をまた抱き締め、佑はボソボソと言葉を続けた。
「秘書たちとドイツ組から知恵を借りてる。必ず何とかするから、もう一人で怖がらなくていい。教えてくれてありがとう」
「っっ…………っ」
香澄は必死に声を出さないようにし、思い切り佑を抱き締める。
佑は肩を震わせる香澄の頬や耳に唇をつけ、何度も「大丈夫」と繰り返した。
「よく我慢したね。偉い、偉い。もう大丈夫」
佑は香澄の涙を舐め、彼女の目の前で微笑む。
安心する声と温もり、香りに包まれて、香澄は歯を食いしばり、震える吐息を吸い込んだ。
佑は香澄が泣き止むまでしばらく彼女をあやし、落ち着いた頃に続きを話す。
ヨーロッパに明るいアドラーや双子が、フェルナンドについて調べてくれるそうだ。
香澄のスマホが一番怪しいが、『相手を刺激してはいけないので、現状維持にしてはどうか』という河野の提案があったようだ。
御劔邸については、近いうちに月に一回のメンテナンスと一緒に、バレないように探知機でくまなく盗聴器を探す予定らしい。
「相手がアクションを起こした時に、こちらから反撃する予定だ。それまで我慢できるか?」
佑に尋ねられ、香澄はコクンと頷く。
「佑さんがいるなら、大丈夫」
「一緒に頑張ろう」
佑に言われ、香澄はまた頷いて彼を抱く腕に力を込めた。
佑が出張から帰ってきただけで、地獄から天国に引き上げられた気持ちになる。
もう一人で怯えなくていいと分かった香澄は、幸せを噛みしめて佑の胸板に顔を押しつけた。
――きっと二人なら乗り越えられる。
一人で彷徨っていた迷路も、きっと二人なら、――いや、もっと大勢の手を借りられるなら……。
香澄は味方がいる幸せとありがたさに感謝し、涙をそっと拭った。
**
日本が午前六時になろうとしていた時、〝その国〟では前日の十四時になろうとしていた。
『おや、どうかしたか?』
顔を上げた男――ガブリエルに、彼女――エミリアは努めて微笑んでみせた。
『そろそろアフタヌーンティーにしない?』
エミリアに言われ、ガブリエルは時計を確認する。
高級腕時計を見て顔を上げた彼は、「そうだな」と頷いて書斎の椅子から立ち上がった。
『今日も美しいな。我が妻は』
〝夫〟に言われ、彼女はぎこちなく笑う。
『ありがとう』
言われずとも、エミリアは自分が美しい事を知っている。
名家の生まれで、アパレルブランドの社長もしていた。
デザイナーは自分ではなく別の者だが、若い女性に人気のあるブランドに育てられたという自負があった。
だが自分の誇りも仕事も、たった一人の女をきっかけにしてすべて失った。
――赤松香澄。
その頃になって、香澄はここが佑の寝室なのだと気付いた。
目をショボショボさせてまた眠ろうかと思っていた時、佑が羽根布団を被せてきた。
「ん……?」
頭まですっぽりと羽根布団に包まれた香澄は、微笑みながら佑にスリスリと頬ずりをする。
佑も香澄を抱えたまま布団の奥に潜り、二人はすっかり布団の中に収まった。
「んん?」
香澄はクスクス笑い、佑を抱き締める。
佑も香澄を抱き返し、その耳元でボソッと囁いた。
「帰宅してすぐ探知機で家を調べた。この部屋は大丈夫だから安心して」
「!」
ピクッと反応した香澄は、暗い中で佑を凝視した。
「一人で怖かったな。もう大丈夫だから」
佑に囁かれて抱き締められ、急に安堵と涙がこみ上げる。
「~~~~っ、私……っ」
「まだ、家の中すべてをチェックした訳じゃないから、泣くのは少し我慢して」
ポンポンと背中を叩かれ、香澄は両手で目を擦る。
そんな香澄をまた抱き締め、佑はボソボソと言葉を続けた。
「秘書たちとドイツ組から知恵を借りてる。必ず何とかするから、もう一人で怖がらなくていい。教えてくれてありがとう」
「っっ…………っ」
香澄は必死に声を出さないようにし、思い切り佑を抱き締める。
佑は肩を震わせる香澄の頬や耳に唇をつけ、何度も「大丈夫」と繰り返した。
「よく我慢したね。偉い、偉い。もう大丈夫」
佑は香澄の涙を舐め、彼女の目の前で微笑む。
安心する声と温もり、香りに包まれて、香澄は歯を食いしばり、震える吐息を吸い込んだ。
佑は香澄が泣き止むまでしばらく彼女をあやし、落ち着いた頃に続きを話す。
ヨーロッパに明るいアドラーや双子が、フェルナンドについて調べてくれるそうだ。
香澄のスマホが一番怪しいが、『相手を刺激してはいけないので、現状維持にしてはどうか』という河野の提案があったようだ。
御劔邸については、近いうちに月に一回のメンテナンスと一緒に、バレないように探知機でくまなく盗聴器を探す予定らしい。
「相手がアクションを起こした時に、こちらから反撃する予定だ。それまで我慢できるか?」
佑に尋ねられ、香澄はコクンと頷く。
「佑さんがいるなら、大丈夫」
「一緒に頑張ろう」
佑に言われ、香澄はまた頷いて彼を抱く腕に力を込めた。
佑が出張から帰ってきただけで、地獄から天国に引き上げられた気持ちになる。
もう一人で怯えなくていいと分かった香澄は、幸せを噛みしめて佑の胸板に顔を押しつけた。
――きっと二人なら乗り越えられる。
一人で彷徨っていた迷路も、きっと二人なら、――いや、もっと大勢の手を借りられるなら……。
香澄は味方がいる幸せとありがたさに感謝し、涙をそっと拭った。
**
日本が午前六時になろうとしていた時、〝その国〟では前日の十四時になろうとしていた。
『おや、どうかしたか?』
顔を上げた男――ガブリエルに、彼女――エミリアは努めて微笑んでみせた。
『そろそろアフタヌーンティーにしない?』
エミリアに言われ、ガブリエルは時計を確認する。
高級腕時計を見て顔を上げた彼は、「そうだな」と頷いて書斎の椅子から立ち上がった。
『今日も美しいな。我が妻は』
〝夫〟に言われ、彼女はぎこちなく笑う。
『ありがとう』
言われずとも、エミリアは自分が美しい事を知っている。
名家の生まれで、アパレルブランドの社長もしていた。
デザイナーは自分ではなく別の者だが、若い女性に人気のあるブランドに育てられたという自負があった。
だが自分の誇りも仕事も、たった一人の女をきっかけにしてすべて失った。
――赤松香澄。
12
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる