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第二十部・同窓会 編
今までありがとう
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「いつか告白できるまで待とうと思った。……でも三年生になってから御劔くんは仕事で忙しくなって、邪魔したら駄目だと思って見守っていた。その時はいつものメンバーで過ごせるだけで十分だった。……でも卒業したあと、私も仕事に慣れるために忙しくしていたら美智瑠ちゃんが現れた。……ショックだったなぁ……。このまま結婚するんだろうな、って思った」
透子はテーブルに両肘をつき、手に顎をのせてぼんやりと呟く。
「……ごめんね。今さらだけど、私、美智瑠ちゃんの事をあまり好きになれなかった。あの子、お手洗いで私と二人きりになった時、態度が悪かったの。敵対心だったと思う。彼女より先に御劔くんと出会っていたから、ライバル視されてるんだろうなって思った。……でも、そういうの、御劔くんに言う訳にいかないし」
「……悪い」
昔の話とは言え、美智瑠は佑の恋人だった女性だ。
美智瑠が友人に嫌な思いをさせたなら、自分にも責任はあると思っている。
「いいの。当時は『御劔くんが選んだ女性だから、二人を見守らないと』って思ってた。『この人に御劔くんを任せられない』って思ったなら、自分で奪いにいけば良かった話なんだから」
穏やかで優しい透子が、『奪う』という言葉を使うほどの事なのか……と思うと、何とも言えない気持ちになる。
「そのあと彼女と別れて荒れちゃったでしょ。……本当はあの時『私がいるよ』って言いたかった。……でも弱みにつけ込む気がして嫌だった。いつか御劔くんが元気になった時、彼女がいないなら告白しようって思ってた」
話が次第に香澄に近付き、佑は静かに息を吐く。
「駄目だね。私、御劔くんの事を誰よりも想ってるって思い込んでた。恋人になりたいなら、他の人と同じように告白すれば良かったのに。いつだって私は〝友達〟以下になるのを恐れて、何もできないでいた。……そんな私に、嫉妬する権利はない」
透子は涙の滲んだ目元を拭い、痛々しく笑う。
それからテーブルの上に置かれていた佑の手を、両手で握ってきた。
「今までずっと好きでした。十七年間……あははっ、長いね! 長い間、私の理想の〝好きな人〟でいてくれてありがとう。……私、そろそろ次に進まないと。三十二歳だもん」
彼女が前向きになっていると知り、佑は安堵して微笑んだ。
「好きでいてくれてありがとう。……もし嫌でなければ、これからも友達でいてほしい」
「うん」
透子はクシャリと笑い、立ち上がった。
「ねえ、最後に一つだけお願い。私に〝ご褒美〟をちょうだい。一回だけ、恋人にするみたいにギュッて抱き締めてほしい。それで諦めるから」
そう言われた佑は無意識に香澄を探すが、その視線に気付いた透子に言われる。
「本当は今日、皆私のために協力してくれたの。真澄くんと洸くんは席を外してくれたし、勇斗くんは香澄ちゃんと散歩に行ってる」
「散歩?」
佑は香澄が勇斗と一緒にいると聞き、瞠目する。
「心配しないで。勇斗くんは親友の恋人に手を出す人じゃないでしょ。本当に、時間稼ぎしてくれてるだけ」
言われて、それもそうかと納得した。
我ながら香澄に関する事となると過敏になるが、親友たちの事は心から信頼している。
彼らなら香澄に害を与えないと信じているから、今日彼女を連れてきたのだ。
(だから信じないと)
〝大切な親友〟の中には、透子も含まれている。
彼女の気持ちにまったく気付かず、今まで傷付け続けてきたなら、きちんと詫びなければいけない。
透子の恋心を知ったからと言って、態度を変えるつもりはない。
申し訳ないと思うからこそ、今まで誠実な態度を貫いてくれた透子に、向き合わないとならないと思った。
佑は立ち上がり、透子の頭にポンと手を置く。
「今までありがとう」
何度か頭を撫でて微笑んだあと、ギュッと彼女を抱き締めた。
腕の中に〝友達〟が収まる感覚を不思議に思う。
〝友達〟だった透子は、華奢な女性の姿をしていた。
彼女はおずおずと佑の背中に腕を回し、しっかり抱き締め返してくる。
「……好きでいさせてくれて、ありがとう……っ」
「……好きでいてくれて、ありがとう」
佑は透子の背中をトントンと叩き、しばらく彼女を抱き締めていた。
**
「そろそろ、佑さんが心配するから戻りましょうか」
香澄はお茶を飲みきると、ペットボトルをゴミ箱に捨てて勇斗に言った。
「んー…………そうだね」
勇斗は腕時計で時間を確認し、溜め息をつく。
「ねぇ、香澄ちゃんって一途? ……だよね?」
「え? んー……そう、だと思いますけど……。移り気ではないと思います」
まだ話があるのだと察した香澄は、勇斗の隣に座り直す。
透子はテーブルに両肘をつき、手に顎をのせてぼんやりと呟く。
「……ごめんね。今さらだけど、私、美智瑠ちゃんの事をあまり好きになれなかった。あの子、お手洗いで私と二人きりになった時、態度が悪かったの。敵対心だったと思う。彼女より先に御劔くんと出会っていたから、ライバル視されてるんだろうなって思った。……でも、そういうの、御劔くんに言う訳にいかないし」
「……悪い」
昔の話とは言え、美智瑠は佑の恋人だった女性だ。
美智瑠が友人に嫌な思いをさせたなら、自分にも責任はあると思っている。
「いいの。当時は『御劔くんが選んだ女性だから、二人を見守らないと』って思ってた。『この人に御劔くんを任せられない』って思ったなら、自分で奪いにいけば良かった話なんだから」
穏やかで優しい透子が、『奪う』という言葉を使うほどの事なのか……と思うと、何とも言えない気持ちになる。
「そのあと彼女と別れて荒れちゃったでしょ。……本当はあの時『私がいるよ』って言いたかった。……でも弱みにつけ込む気がして嫌だった。いつか御劔くんが元気になった時、彼女がいないなら告白しようって思ってた」
話が次第に香澄に近付き、佑は静かに息を吐く。
「駄目だね。私、御劔くんの事を誰よりも想ってるって思い込んでた。恋人になりたいなら、他の人と同じように告白すれば良かったのに。いつだって私は〝友達〟以下になるのを恐れて、何もできないでいた。……そんな私に、嫉妬する権利はない」
透子は涙の滲んだ目元を拭い、痛々しく笑う。
それからテーブルの上に置かれていた佑の手を、両手で握ってきた。
「今までずっと好きでした。十七年間……あははっ、長いね! 長い間、私の理想の〝好きな人〟でいてくれてありがとう。……私、そろそろ次に進まないと。三十二歳だもん」
彼女が前向きになっていると知り、佑は安堵して微笑んだ。
「好きでいてくれてありがとう。……もし嫌でなければ、これからも友達でいてほしい」
「うん」
透子はクシャリと笑い、立ち上がった。
「ねえ、最後に一つだけお願い。私に〝ご褒美〟をちょうだい。一回だけ、恋人にするみたいにギュッて抱き締めてほしい。それで諦めるから」
そう言われた佑は無意識に香澄を探すが、その視線に気付いた透子に言われる。
「本当は今日、皆私のために協力してくれたの。真澄くんと洸くんは席を外してくれたし、勇斗くんは香澄ちゃんと散歩に行ってる」
「散歩?」
佑は香澄が勇斗と一緒にいると聞き、瞠目する。
「心配しないで。勇斗くんは親友の恋人に手を出す人じゃないでしょ。本当に、時間稼ぎしてくれてるだけ」
言われて、それもそうかと納得した。
我ながら香澄に関する事となると過敏になるが、親友たちの事は心から信頼している。
彼らなら香澄に害を与えないと信じているから、今日彼女を連れてきたのだ。
(だから信じないと)
〝大切な親友〟の中には、透子も含まれている。
彼女の気持ちにまったく気付かず、今まで傷付け続けてきたなら、きちんと詫びなければいけない。
透子の恋心を知ったからと言って、態度を変えるつもりはない。
申し訳ないと思うからこそ、今まで誠実な態度を貫いてくれた透子に、向き合わないとならないと思った。
佑は立ち上がり、透子の頭にポンと手を置く。
「今までありがとう」
何度か頭を撫でて微笑んだあと、ギュッと彼女を抱き締めた。
腕の中に〝友達〟が収まる感覚を不思議に思う。
〝友達〟だった透子は、華奢な女性の姿をしていた。
彼女はおずおずと佑の背中に腕を回し、しっかり抱き締め返してくる。
「……好きでいさせてくれて、ありがとう……っ」
「……好きでいてくれて、ありがとう」
佑は透子の背中をトントンと叩き、しばらく彼女を抱き締めていた。
**
「そろそろ、佑さんが心配するから戻りましょうか」
香澄はお茶を飲みきると、ペットボトルをゴミ箱に捨てて勇斗に言った。
「んー…………そうだね」
勇斗は腕時計で時間を確認し、溜め息をつく。
「ねぇ、香澄ちゃんって一途? ……だよね?」
「え? んー……そう、だと思いますけど……。移り気ではないと思います」
まだ話があるのだと察した香澄は、勇斗の隣に座り直す。
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