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第二十部・同窓会 編
彼女役
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「ぶっちゃけ俺らは怖くてその辺は知らなかったけど」
真澄が言ったあと、透子が溜め息をつく。
「噂では陰湿な事を……って聞いたけど、関わるのが怖くて御劔くんもノータッチだったもんね。あーあ、あの子たち今頃どうしてるんだろうね。多分ガチな子は、今でもメディア越しにファンを続けてるだろうけど」
彼女の言葉を聞いたあと、佑があっさりと言った。
「あぁ、イベントをした時に『母校が一緒だったんです』って、来てくださるお客様はいるよ」
佑が言い、香澄以外の五人が顔を見合わせて意味深な表情をする。
「これだもんなぁ……。お客様。もうすっかり線引きして……。あーあ、罪作りな男……」
勇斗にからかわれた佑は、銀杏の串を一本摘まみ、香澄に手渡してくる。
「仕方がないだろう。今はもう大人で、いつまでも学生時代の事を引っ張れない。香澄、銀杏熱いから気を付けて」
「うん、……あひっ」
香澄は素揚げされた銀杏を食べようとしたが、熱くて悲鳴を上げる。
「御劔くん、すっかり彼氏だねー。というか、おかん? 学生時代はそんなに面倒見良くなかったよね。いっつも人から一歩引いてた感じで」
透子も銀杏に手を伸ばし、ニヤリと意地悪そうに笑う。
「透子さん……彼女役……? をされていた時、どんな感じだったんですか?」
香澄はふうふうと銀杏を冷ましつつ、透子に尋ねる。
「んー、彼女面するのはイベント前後限定だったかな。御劔くんの側に立って、周りに『彼女いるんだ』って思わせたらそれでOK。でも変な関係にはなってないし、どっか行く時はこの面子でだったし、健全そのものだったよ。ね?」
同意を求められ、勇斗が頷く。
「そうだな。『もしかしたらワンチャンあるか?』って見てたけど、御劔は本当に高校時代からビジネススマイルを身につけたっていうか……。あの頃、透子だってちょっと御劔の事好きだったろ? だけど見事に〝その他〟にされて、怖ぇ男って思ったなぁ……」
その言葉を聞いて透子が声を跳ね上げた。
「ちょっ……! と、やめてよ! 香澄ちゃんがいるのに、そういうこと言うのやめて」
「あ、あぁいえ、お気にせず」
(何となくそうかなー? とは思ってたから、あんまり驚かないけど……)
苦笑いしていると、視線を感じる。
(ん?)
向かいを見ると、佑が物言いたげな目で見てくる。
思わず彼を見つめ返した香澄は、その真意を図ってハッとなった。
(もしかして『お気にせず』って言ったのを気にしてる?)
『妬いてほしい』という気持ちが透けて見え、香澄は頭を抱えたくなる。
(駄目ですからね! お友達といる前では、絶対に駄目ですからね!)
佑をじぃっと見つめて訴えると、彼は目だけで天井を仰ぎ、唇をすぼめた。
(まったく……)
溜め息をついて少し冷めた銀杏を一つ口に入れた間も、会話は続いていた。
「でもお前、彼女役なのをいい事に御劔にバレンタインチョコ渡してたじゃん」
「だっ……あれは友チョコだし。花だってあげたもんね?」
「んー、そうだね。あたしは板チョコだったけど」
花は透子の味方ともなんとも言えない事を言い、分厚いハムカツを囓る。
「ちょっともぉ……。香澄ちゃんに悪いでしょ? からかわないでよ」
髪を掻き上げてこちらと見た透子と目が合ってしまうと、彼女はごまかし笑いをする。
香澄は思わず会釈をしたあと、ローストビーフを食べつつ、どう反応をするのが正解なのか考えた。
(まるっきり嫉妬してないっていえば嘘になるけど、目に見える反応をするのはNGだし、何て反応すればいいんだろう。……お肉美味しい)
「御劔はどう思った?」
「え?」
洸に話を振られ、佑は刺身用の小皿に醤油を入れてから顔を上げる。
「この二人にチョコもらっただろ? ま、俺らももらったけど。どうだった?」
「……いや。どうも何も……友チョコだって言われたから、その通りにしか思ってないけど」
箸で山葵を溶きつつ、佑はキョトン顔で答える。
すると男三人が「御劔だよ~」と天井を仰いだ。
「バレンタインのチョコに特別を感じたのは、香澄が初めてだ」
微笑んだ佑に見つめられ、香澄はローストビーフを喉に詰まらせそうになる。
(うっ……、やりづらいからヤメテ!)
「はいはい。ご馳走様」
そんな佑を、真澄がいつものように適当にあしらう。
「お前は一人でボックス一万円の高級チョコでも食ってろよ」
去年のバレンタインに、香澄が三千円ほどのチョコをあげたところ、佑はお返しに高級チョコのボックスをプレゼントしてくれた。
引き出しの中に宝石のような美味しいチョコレートが沢山あり、佑とシェアしようとした。
真澄が言ったあと、透子が溜め息をつく。
「噂では陰湿な事を……って聞いたけど、関わるのが怖くて御劔くんもノータッチだったもんね。あーあ、あの子たち今頃どうしてるんだろうね。多分ガチな子は、今でもメディア越しにファンを続けてるだろうけど」
彼女の言葉を聞いたあと、佑があっさりと言った。
「あぁ、イベントをした時に『母校が一緒だったんです』って、来てくださるお客様はいるよ」
佑が言い、香澄以外の五人が顔を見合わせて意味深な表情をする。
「これだもんなぁ……。お客様。もうすっかり線引きして……。あーあ、罪作りな男……」
勇斗にからかわれた佑は、銀杏の串を一本摘まみ、香澄に手渡してくる。
「仕方がないだろう。今はもう大人で、いつまでも学生時代の事を引っ張れない。香澄、銀杏熱いから気を付けて」
「うん、……あひっ」
香澄は素揚げされた銀杏を食べようとしたが、熱くて悲鳴を上げる。
「御劔くん、すっかり彼氏だねー。というか、おかん? 学生時代はそんなに面倒見良くなかったよね。いっつも人から一歩引いてた感じで」
透子も銀杏に手を伸ばし、ニヤリと意地悪そうに笑う。
「透子さん……彼女役……? をされていた時、どんな感じだったんですか?」
香澄はふうふうと銀杏を冷ましつつ、透子に尋ねる。
「んー、彼女面するのはイベント前後限定だったかな。御劔くんの側に立って、周りに『彼女いるんだ』って思わせたらそれでOK。でも変な関係にはなってないし、どっか行く時はこの面子でだったし、健全そのものだったよ。ね?」
同意を求められ、勇斗が頷く。
「そうだな。『もしかしたらワンチャンあるか?』って見てたけど、御劔は本当に高校時代からビジネススマイルを身につけたっていうか……。あの頃、透子だってちょっと御劔の事好きだったろ? だけど見事に〝その他〟にされて、怖ぇ男って思ったなぁ……」
その言葉を聞いて透子が声を跳ね上げた。
「ちょっ……! と、やめてよ! 香澄ちゃんがいるのに、そういうこと言うのやめて」
「あ、あぁいえ、お気にせず」
(何となくそうかなー? とは思ってたから、あんまり驚かないけど……)
苦笑いしていると、視線を感じる。
(ん?)
向かいを見ると、佑が物言いたげな目で見てくる。
思わず彼を見つめ返した香澄は、その真意を図ってハッとなった。
(もしかして『お気にせず』って言ったのを気にしてる?)
『妬いてほしい』という気持ちが透けて見え、香澄は頭を抱えたくなる。
(駄目ですからね! お友達といる前では、絶対に駄目ですからね!)
佑をじぃっと見つめて訴えると、彼は目だけで天井を仰ぎ、唇をすぼめた。
(まったく……)
溜め息をついて少し冷めた銀杏を一つ口に入れた間も、会話は続いていた。
「でもお前、彼女役なのをいい事に御劔にバレンタインチョコ渡してたじゃん」
「だっ……あれは友チョコだし。花だってあげたもんね?」
「んー、そうだね。あたしは板チョコだったけど」
花は透子の味方ともなんとも言えない事を言い、分厚いハムカツを囓る。
「ちょっともぉ……。香澄ちゃんに悪いでしょ? からかわないでよ」
髪を掻き上げてこちらと見た透子と目が合ってしまうと、彼女はごまかし笑いをする。
香澄は思わず会釈をしたあと、ローストビーフを食べつつ、どう反応をするのが正解なのか考えた。
(まるっきり嫉妬してないっていえば嘘になるけど、目に見える反応をするのはNGだし、何て反応すればいいんだろう。……お肉美味しい)
「御劔はどう思った?」
「え?」
洸に話を振られ、佑は刺身用の小皿に醤油を入れてから顔を上げる。
「この二人にチョコもらっただろ? ま、俺らももらったけど。どうだった?」
「……いや。どうも何も……友チョコだって言われたから、その通りにしか思ってないけど」
箸で山葵を溶きつつ、佑はキョトン顔で答える。
すると男三人が「御劔だよ~」と天井を仰いだ。
「バレンタインのチョコに特別を感じたのは、香澄が初めてだ」
微笑んだ佑に見つめられ、香澄はローストビーフを喉に詰まらせそうになる。
(うっ……、やりづらいからヤメテ!)
「はいはい。ご馳走様」
そんな佑を、真澄がいつものように適当にあしらう。
「お前は一人でボックス一万円の高級チョコでも食ってろよ」
去年のバレンタインに、香澄が三千円ほどのチョコをあげたところ、佑はお返しに高級チョコのボックスをプレゼントしてくれた。
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