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第二十部・同窓会 編

両親とマティアス

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 居間に入ると父の仁志ひとしがいた。

 父はソファから腰を浮かせていて、出迎えるべきか、座って待つべきか迷っていたのが分かる。

「初めまして、マティアス・シュナイダーです」

 マティアスは仁志にきっちりと頭を下げる。

「いいのよ~、さぁ座って」

 早苗にそう言われた彼は、「お口に合えば幸いです」と言って手土産を渡した。

「お茶を淹れるから座ってて」

 母に言われ、麻衣は緊張しながらマティアスをいざなって腰かけた。

「お父さん、こちらはマティアス・シュナイダーさん。南ドイツのブルーメンブラットヴィルっていう街にいたの」

 麻衣がマティアスを紹介すると、彼は会釈する。

「に、……日本はどうだ?」

「素敵な国です」

「あー……。ぐ、グリューワインを飲むのか?」

 ドイツの事を調べたのか、父は覚えた単語を言ってみる、という様子で質問をする。

「はい。冬はクリスマスマーケットが開くので、体を温めるためにグリューワインを飲みます」

 マティアスは今の所まともに受け答えをしていて、麻衣は内心で「よし」と拳を握った。

「酒は強いのか?」

「……恐らく」

 父の問いかけに、マティアスは一瞬考えてから答える。

 彼の場合酔っ払った事がないので、強いのか弱いのか正確に分かっていないのだろう。

 麻衣はそれをフォローした。

「この人、カパカパ飲んでも酔わないんだよ。白人って黄色人種と体がアルコールを分解する構造が違うんだって」

 そう説明すると、父は感心した顔になる。

「なるほど。ドイツ人やチェコ人はよくビールを飲むって言うしな。ラテン系の人はテキーラをカパカパ飲むし」

 マティアスが頷く。

「向こうでは水は有料なので、ビールのほうが安くつく場合もあります」

「なるほどな。……一回ドイツに行ってみたいな」

 父がボソッと言い、麻衣はしめしめ、と思う。

「はいどうぞ。紅茶ですよ~。信司、運ぶの手伝って」

「はーい」

 五人分の紅茶とお茶菓子が出され、これから本題に……という雰囲気になって場が緊張する。

「マティアスさん、麻衣と結婚してくれるんですって?」

 だが早苗がスパッと言い、岩本家の三人が母に突っ込むような目を向けた。

「はい。結婚したいです」

 それにマティアスも素直に頷き、母を除く全員が「段取りっていうものがあるだろう」という顔になる。

「この子、今まで彼氏がいなかったから心配だったのよ~。こんなイケメンがもらってくれるなら万々歳ね」

「お母さん」

 仁志は窘めるように言ってから、出遅れたながらも父としての威厳を出してくる。

「あー……。私も麻衣の結婚を嬉しく思っているが、マティアスさんは現在無職らしいね?」

「はい」

(もーっ! もう少し誤魔化すとかあるでしょ!)

 麻衣は内心でマティアスに突っ込み、クワッと目を剥く。

「今後、仕事についてはどう考えているんだ? 現在の貯えや、結婚後の住まいも聞かされていないから、君たちのプランを知りたい」

 父がもっともな事を言い、マティアスはその通りだと頷く。

 一方で、信司は「聞いたら驚くぞ」という表情でワクワクしてなりゆきを見守っていた。

「今後、僕は日本に移り住む予定です」

(あ、〝僕〟って言うんだ)

 麻衣は妙なところで、ニヤけそうになる。

「貯えは、生活に困らないぐらあるつもりです」

「だが日本で就職先を探すとしても、すぐは見つからないだろう」

 父は常識的な事を言っている。

 だがマティアスが規格外の資産家だとしれば、きっと両親はひどく驚くだろう。

 それを思い、麻衣は申し訳なさを感じた。

「ドイツでは秘書業をしていました。日本でもそのスキルを利用して、Chief Every本社で秘書として働くつもりです」

 大企業の名前が出て、父は一瞬黙る。
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