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第十九部・マティアスと麻衣 編
マイ、勝負だ
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(親友を売る訳ないでしょ。それになんでこの流れで、私が笠島さんと飲みに行くって思えるのかな。お洒落なバルはいいとして、太郎系マシマシを食べてるとか、決めつけるのやめてほしい)
麻衣は唐揚げを食べつつ、心の中で文句を言う。
「ごめんね。私これから当分忙しくなるから、飲みは行けないと思う」
そう言って麻衣は弁当に集中し、笠島が何を言っても適当にあしらって相手をしなかった。
**
仕事が終わってビルから出た瞬間、変な声が出た。
「っへぁっ!?」
いつからいたのか、会社の前にマティアスが立っていたのだ。
「どっ、どうっ、どうして!?」
慌ててマティアスに駆け寄ると、「お疲れ様」と抱き締めてくる。
「ちょっ……! 会社の前だから!!」
ぐいーっとマティアスを押し返して慌てて振り向くと、社員たちが立ち止まって目をまん丸にしていた。
(うっわぁあああぁああ…………)
麻衣は思わず夜空を仰いでから、冷静になってマティアスから一歩離れる。
「いい? ここは日本だから、過度なスキンシップは禁止」
「……寂しい。俺はマイに触れたい」
「うう……。家に帰ったあとならいいから」
「承知した」
「もー……。何か緊急の用事があった? 足りない物でもあった?」
ひとまず地下鉄駅のあるほうに歩き出すと、マティアスが手を繋いできた。
「いや、マイに会いたかった」
「うぐぅ……」
照れくさいのを我慢すると、変な呻き声が漏れた。
「夕ご飯どうする? 何か食べたい物ある?」
「マイは? 疲れていないか? 札幌グルメを教えてくれるというのもアリだ」
「あはは。それもいいけど、あんまり外食ばっかりすると生活きつくなるから」
「いや、俺が出すが」
「ううーん……」
申し出はありがたいが考えものだ。
外食できるのは嬉しいし、疲れて帰って自炊せずに済むのは楽だ。
それに外食は美味しいし、プロのご飯が食べられるのが嬉しい。
だが人間は弱いので〝楽〟を覚えると、どんどん堕落してしまう。
マティアスは金持ちなので、毎日のように外食をしても財布にダメージはないのだろう。
それでも彼に頼りっきりなのは、何か違う気がした。
「……これから先、こうやって甘やかされると、どんどんだらしなくなる気がして怖いな」
「どうしてだ? マイはだらしなくない」
「うーん、ありがとう。でもマティアスさんのお財布に頼っちゃう自分が嫌なの」
会社は大通り近くにあり、麻衣とマティアスは地下鉄大通駅に向かって歩いていた。
「じゃあ、一日ごとに希望を聞くのはどうだ?」
「ん?」
彼が提案した意味が分からず、麻衣は目を瞬かせる。
「一日ごとにお互いの希望を夕食に反映させる。マイが主導権を握る日は、自炊でも外食でも構わない。俺が主導権を握る日は、その日の気分で決める」
「ん……うん。それなら公平だね。採用」
「じゃあ、今日からそのルールを適用しよう。マイ、勝負だ」
急に「勝負だ」と言って立ち止まったマティアスは、麻衣に向かって手を軽く弾ませ、じゃんけんのジェスチャーを取る。
「わっ、と」
麻衣も手を構え、「ドイツでも『最初はグー』からでいくのかな?」と内心首を捻る。
「マイ、井戸を入れるか?」
「は? いど? いどってなに?」
「地面に穴を掘ると水が出てくる……」
「あぁ! 井戸! え? で、なんで井戸?」
頭の中で有名な邦画ホラーが思い浮かんだが、それは置いておく。
「えっ? 井戸なしか?」
「えっ?」
「え?」
二人して顔を見合わせて固まり、お互い手は中途半端に振りかざしたままだ。
しばらくして麻衣は「あ」と、なんとなく察した。
「えーっと、多分その〝井戸〟ってドイツのルールだと思うけど、説明を求む」
麻衣は両手を揃えてマティアスに「どうぞ」とジェスチャーする。
すると彼は不可解そうな顔で説明してくれた。
麻衣は唐揚げを食べつつ、心の中で文句を言う。
「ごめんね。私これから当分忙しくなるから、飲みは行けないと思う」
そう言って麻衣は弁当に集中し、笠島が何を言っても適当にあしらって相手をしなかった。
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仕事が終わってビルから出た瞬間、変な声が出た。
「っへぁっ!?」
いつからいたのか、会社の前にマティアスが立っていたのだ。
「どっ、どうっ、どうして!?」
慌ててマティアスに駆け寄ると、「お疲れ様」と抱き締めてくる。
「ちょっ……! 会社の前だから!!」
ぐいーっとマティアスを押し返して慌てて振り向くと、社員たちが立ち止まって目をまん丸にしていた。
(うっわぁあああぁああ…………)
麻衣は思わず夜空を仰いでから、冷静になってマティアスから一歩離れる。
「いい? ここは日本だから、過度なスキンシップは禁止」
「……寂しい。俺はマイに触れたい」
「うう……。家に帰ったあとならいいから」
「承知した」
「もー……。何か緊急の用事があった? 足りない物でもあった?」
ひとまず地下鉄駅のあるほうに歩き出すと、マティアスが手を繋いできた。
「いや、マイに会いたかった」
「うぐぅ……」
照れくさいのを我慢すると、変な呻き声が漏れた。
「夕ご飯どうする? 何か食べたい物ある?」
「マイは? 疲れていないか? 札幌グルメを教えてくれるというのもアリだ」
「あはは。それもいいけど、あんまり外食ばっかりすると生活きつくなるから」
「いや、俺が出すが」
「ううーん……」
申し出はありがたいが考えものだ。
外食できるのは嬉しいし、疲れて帰って自炊せずに済むのは楽だ。
それに外食は美味しいし、プロのご飯が食べられるのが嬉しい。
だが人間は弱いので〝楽〟を覚えると、どんどん堕落してしまう。
マティアスは金持ちなので、毎日のように外食をしても財布にダメージはないのだろう。
それでも彼に頼りっきりなのは、何か違う気がした。
「……これから先、こうやって甘やかされると、どんどんだらしなくなる気がして怖いな」
「どうしてだ? マイはだらしなくない」
「うーん、ありがとう。でもマティアスさんのお財布に頼っちゃう自分が嫌なの」
会社は大通り近くにあり、麻衣とマティアスは地下鉄大通駅に向かって歩いていた。
「じゃあ、一日ごとに希望を聞くのはどうだ?」
「ん?」
彼が提案した意味が分からず、麻衣は目を瞬かせる。
「一日ごとにお互いの希望を夕食に反映させる。マイが主導権を握る日は、自炊でも外食でも構わない。俺が主導権を握る日は、その日の気分で決める」
「ん……うん。それなら公平だね。採用」
「じゃあ、今日からそのルールを適用しよう。マイ、勝負だ」
急に「勝負だ」と言って立ち止まったマティアスは、麻衣に向かって手を軽く弾ませ、じゃんけんのジェスチャーを取る。
「わっ、と」
麻衣も手を構え、「ドイツでも『最初はグー』からでいくのかな?」と内心首を捻る。
「マイ、井戸を入れるか?」
「は? いど? いどってなに?」
「地面に穴を掘ると水が出てくる……」
「あぁ! 井戸! え? で、なんで井戸?」
頭の中で有名な邦画ホラーが思い浮かんだが、それは置いておく。
「えっ? 井戸なしか?」
「えっ?」
「え?」
二人して顔を見合わせて固まり、お互い手は中途半端に振りかざしたままだ。
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「えーっと、多分その〝井戸〟ってドイツのルールだと思うけど、説明を求む」
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